一頁 これが全ての不平等の引き金になったとは思うまい。
世界は罪から出来た。
その証拠に、全ては生まれた時から罪を背負っている。
生きることとは、罪を重ねること。
死ぬこととは、世界への贖罪なのである。
故に、生きとし生けるものは争う。
罪を重ねるために。
戦いは起こった。
ある日、世界の食物、資材、頭数等等、あらゆる「資源」が無くなった。
ある者達は、生きるために資源を奪い、資源を減らした。
またある者達は、少ない資源を分け合って暮らした。
またある者達は、資源を効率的に増やす為に知恵を絞った。
だが、戦いは未だ続いている。戦う者達の悲痛の叫びが聞こえる。
それは、戦いの原因となった赤黒い男の笑い声を掻き消すには十分過ぎる声だった。
戦乱の世。
珍しくもないその出来事で、彼は見つけられた。
彼の所属する隊は戦いに負け、壊滅した。
こっそり隊から抜け出してきた男が嘆く。
何も入っていないような目をしている。
この世界はずっと前から戦争中。
この世には、5つの種族がいる。
神族、魔族、エネミー、コード、人間。
5つの種族が争うのは避けられない運命であった。
「ここなら誰も来ない、か……」
男は岩場に腰を下ろす。その岩場には貝殻も無ければ廃棄物も無く、生き物も居らず、まさしく「無意味」と呼んでいい場所であった。
「何故、俺はこんな世界に生を受けてしまったのか……毎日他種族と戦争戦争、戦争の繰り返し。はあ……こんな大規模で馬鹿げた戦争、誰が始めたんだか……」
長く続いているこの戦争、誰が原因かはどの歴史書にも書いていないのだ。
民ならば誰もが口にするその疑問を、男は発した。その時、
「お前だよ。何故か教えてやろうか?」
「!?」
男の前に人間のようだが人間らしくない少年が現れた。
彼は角張った変な形状をしている鍔を付けた帽子を被り、どす黒い服を着ていた。光をも飲み込みそうな漆黒の姿の中に、赤みがかった髪が目立っている。
「何者だ?」
「聞くより見ろ。見るより怒れ。」
謎の少年がそういった途端、大きな目が現れ……………
……………岩場で休んでいた男は、理解した。
「そうか。何故かは知らないが分かるぞ……お前、俺と会ったことが有るよな?そうだろ、異形の者よ。」
異形……モノと生命をかけ合わせて作る兵器である。
「まあ落ち着け。お前、この世界がなんでこうなったか知りたいんだろ?俺は異形の者。それもかなり初期のな。だから、こうなる前の世界を知っている。今日お前の前に現れたのは何故か、分かるか?」
「知るかよ、今日は見知らぬ奴等を殺して、世界に関心が持てないから自死でもしようかと悩みながら歩いていたらお前と会った。それだけだ。」
「うん、100点の回答だ。じゃあ本題に行こうか。」
異形の者は告げる。
「戦乱の世になったのは1000年前だ。実際の光景をお前に見せよう。」
(んなことできんのか……)
「ところで、さっきの『お前だよ』ってのは」
「では行こうか。歴史を振り返る旅を。そういえば、お前名前は?」
「……………マニラスだ。」
「変わった名前だな。」
「知るかよ。で、お前は?」
「俺はカルルト。じゃ、改めて行こうか。」
カルルトがそう云うと、人が何人か入れるくらいの穴が開く。
その穴は、まるで怒っているかのような気まずい雰囲気を垂れ流していた。
100X年前、底辺に蠢く人の町キラサリ。
人間の街の中で最も劣悪なスラム、他の街の者がおぞましくて近づけないくらいには汚れた街である。
この街ではとある実験が流行っている。
何十年か前から世界では「異形化実験」なる物が行われていた。
人間に「道具」の力を埋め込み、古代兵器「異形」を作る計画だ。
今日、ある少女が実験に参加した。
「どうせ異形の者になったって、私はカスのままなのに……」
少女の名はリスカ。リスカはスラムであるキラサリの中でも弱き者、奴隷という立場だった。
リスカは自分の持ち主から「上からのお達しだ」と、異形化実験を勧められ、ここにいる。
「いちいち上に従わなければいけない。人間は大変だ……失礼します。」
「キミが被験者かね?ではベッドに寝てくれ給え。」
王都から来た担当医。言い方は優しいが、スラムの人間を見下している感じが見え隠れしている。
「はい。」
言われたままベッドに寝るリスカ。彼女はそんな人間に反抗するなんて無駄な事はしない程度の知性がある。
手術担当が手術を始める。
物にはそれごとの役割を表す微弱な電子が流れており、それをDNAと掛け合わせるのだ。言うだけなら簡単だがとても難しい。
この手術の成功率はとても不安定だ。失敗すると人としての形が崩れたり、死亡する場合もある。尚、形が崩れるのには程度があるのだが……明るみにはなっていない。
そんな危険な実験なので、スラム街の人々を実験台にする為、王都からは担当医がやってくるのだ。
人によって適正のある道具は違う。
人が出す電子を少しいじって「何か」と混ざるようにする。
そうすると、「何か」が寄ってきて異形となるのだ。
……………と、話している内に手術が終わったようだ。
「いい出来だ!では早速異形の力を使ってみたまえ!」
「う、うん……」
リスカが「取り敢えずなにか出ろ」と念じると腕から鎖が出て壁を壊した。
「は……?」
リスカは目を疑った。理解できない超常の力、これが異形である。
リスカは体のあらゆる部位から鎖を出して操れるようになったらしい。
いや、実際なった。
「その力をどう使うかは君次第……健闘を祈ってやってもいいよ。じゃ、記憶消去と。」
異形化手術は守秘義務があるため、被験者は記憶消去されるのだ。
半信半疑のままリスカは手術担当に礼を言って施設を出た。
「さーて、早く帰らないとご主人が怒る怒る。」
「はい!今日はここまで!」
「終わりか?」
カルルトが穴を閉じてしまう。
「どうせなら分けて見たいだろ?しかも、見てる途中で襲われたらまずい。また聞きたかったら廃病院グロウサイまで来い。」
世界の真ん中にドーナツのようにぽっかりと空いた穴。
そこのさらに真ん中にある島にある廃墟へ来いとカルルトは言っているのだ。
「…………約束だからな。」
マニラスは明日の話を気にしつつ、休み場所を探すのだった。