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拳鬼たち  作者: 村崎野 賀茂
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コークスクリュー2

ロードワークから帰ると、その男が待っていた。

両手を広げ、大きな顔から万面の笑みを溢れさせながら、

近づいてくる大男、そいつはヤーポンから来たという。

手短に済まそうと自分では思っていたが、意外にも

他の何人か興味を持つ者が多く、その流れで流されてしまった

というのが本音だ。

しかし、一番驚いたのは、この男があのアリと戦ったとか、

果たしてはったりのエキビジョンかと思ったら、嚙み合わない戦いに終始したと

真剣勝負もできるのかと目を丸くして、もう一度この大男を見直していた。


男はヤーポンでのプロデビューとなる人材を希望していたプロモーター。

本人も割と有名なレスラーらしい。

基本マーシャルアーツの市場は今、ベガスが独占の世界だが、連邦のペレストロイカにあたって新しい人材の開拓と、ロシアを軸とする新市場の形成を考えているようだった。

アマのリングで五輪を取ったとはいえ、このままここにいてもせいぜい軍隊の

教官どまり、この男の云う通りなら、はるかに大きな望みをかなえることができるだろう。


春の訪れを待って、ヤーポンに行くのも悪くない。

凍てついた窓の外を見ながら、ガラスに映る自分にそう言い聞かせていた。



はじめての試合は、様子を伺った。

ヤーポンがどのような戦い方をするのか、まずは見て学ぶのがショルの教え。

体躯はわがテュルクと比べるまでもなく、腕長も短い。

それでいて果敢に攻撃を好むが、特にディフェンスが優れている

わけではない。

相手の動きに合わせて、切りあえば必ず地力で競り勝つことが

できるはずだ。

相手との距離を維持しながら、軽い牽制で相手の動きをコントロールする。

相手をじらすジャブ、時折相手の打ちやすい位置に自分を置いて、

相手にわざと反撃させる。

右回りに相手の外側に少しずつ引きずり出しながら、おびき出してゆく。

そのうち攻守の間を

5回に一回、3回に一回、と徐々にその頻度を上げていく、と、

相手は自分が攻め切れているいという錯覚におちいる。

勝利への幻想にはまっていくのだ。

本当は攻撃させられているとも知らずに、相手の心が

勝利への確信にとらわれた瞬間

そうやって大きく獲物めがけて飛びついてきた時こそ、

白閃の我が牙が食む時となる。


相手の左腕を軸に、巻き込むように右腕滑らしながら、

テンプルに叩き込む。

同時に頭もスリップさせて、相手のパンチは顔のすぐ右を

掠めていく。

殺気のピリピリした感じが頬から背中に伝わるが、

同時にこぶしに伝わる鈍い衝撃と重なって、

なぜかむず痒い感覚に襲われる。

得意のコークスクリューを利した、極上のクロスカウンター

フォローの左ショートフックは空を切るが、相手はロープに

身体を預けたまま、もうこちらを向こうとはしていなかった。


これでここでの戦いを学んだ。

あとは、この躰の動く限り、戦いつづけるのみだ。


男は一人、ヤーポンの戦場に立つ。

そんな戦いも悪くないと、歓声に沸くリングを後に

思い始めていた。


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