3猛虎硬把山
撃たれた後の記憶が飛んでいた。
上段に来た左掌、そこまでは記憶がある。
次の瞬間、身体が止まった。いや止められた
そしてそのまま、風景が前にゆがみ、後ろに飛ばされていた。
李は動きを反芻しながら、その時を再現する。
こちらが攻ならばわかる。しかし、金の奴はあの瞬間
攻ではなかった、かといって守でもないあの感覚。
あの感覚がすべてを消し去ってしまった。
全てが無感覚で覆われた時、そこにあるのはただの一打。
肝心なのは一打でなく、あの無感覚の方だ。
あれこそが、この技の骨だ。
無のこの感覚さえあれば、どんな打も入るだろう。
如何にしてそれをつかむか、夜はさらに更けていく
まず背、肩が落ち、猫背のようにゆるやかに丹に乗る。
静かに冲錘をゆっくりと突きだし静かに前勢に乗る。
腰に引きながら、内側にある対手がさらに前勢に移り
空間に浮かんでいる。
ひたすらこの動きを繰り返す。
やがて攻の意識が失われた頃、馬勁が現れる。
馬が現れば、徐々に相手に乗り移るようになる。
そしてすべてが移れば、
開が現れる。
開は幾多の回廊を持ち、やがて、
その中に6つの門に気づかされる。
門に入らば、虎が出ず、
馬よ虎に変じ、門を衝き抜けよ。
馬から虎への変化、
虎だけでは門は開かず
馬だけでは門を抜けず。
この過程は、
何人も拒めず
よってこの技は最凶となる。
李は思う。虎は虎であるから恐れらるのではない。
虎を恐れるならば、人は繁みに近づかない。
人は馬を恐れない。人に十分に近づいた馬が、突如虎に変じることが、この技を無敵にしているのである。
しかして、その馬さえも消し去ればどうなるのか。
そのまま鐘錘を浮かばせながら、虎に変化する。
十字に赴くとすれば、その変化は無限に広がる。
そのまま頂肘、震脚により、波紋が空間に広がる、そして
それを馬が追いかける。
再び沈みそして、鐘錘が浮く、そして川掌、そしてまた馬がが追いかける。
これは剛であって剛ではない、柔であって柔ではない。
緩と急の差がおりなす、最強の衝撃
それが我が追い求めるもののはず。
庭に立てた石柱に近づく。静かに両の手で触れる。
僅かに右に鎮め、一気に解放する。
200kg近い石柱は、一回転し、あっと言う間に土手の上に駆け上がっていった。
静かに馬形が追う。
やがて朝日が指し込み、李を照らし出す。
日に向かい鐘錘を提げ、一打を放つ。
後に猛虎硬把山と呼ばれる技は、二の打ちいらずとして
ここに完成した。