INDEPENDENCE DEV5
「うあぁぁ!腹減ったーーー!」
叫びながら、デイヴが勢いよくドアをぶち破って車から飛び出した。
「お、お前!何しに来てんだ!今ちょっと取り込み中だぞ!状況わかってんのか⁉」
「状況?もちろん分かってるさ!腹ペコで僕の命が風前の灯なんだろ」
「お前の命よりこの星の方が風前の灯だよ」
ホイットが宇宙人の方を見ると彼らは少し動揺していた。突然巨大な質量の塊が叫びながら現れたのだ、無理もない。
「星の事なんて知った事か!お、お腹がすいて、お腹がすいて・・・」
ドギャースドギャースとデイヴは盛大に腹の虫を唄わせる。
「・・・‼○$△%□△」
デイヴが奏でるオーケストラを聞いて宇宙人たちが驚いたようなそぶりを見せる。どうやらデイヴの腹の音に何か思うところがあるらしく、宇宙人たちは少し話し合い、そしてデイヴの方へ歩み寄った。
「△○○&%□#*$△+~」
宇宙人の一人が話しかけると、それに応えるようにタイミングよくデイヴの腹が鳴った。
「○$□!」
「*#□△$○+%◇☆‼」
「お腹すいたぁ・・・」
異様な光景だった。宇宙人が次々と言葉を繰り出し、それにドベギュリューンとデイヴが蠕動音で応える。まるで会話をしているかのように。
「まさかコミュニケーションが成立しているのか・・・・?」
そうつぶやいてホイットは思い出す。デイヴの腹の音とUFOが放つ音波の波長が一致していたのだ、コミュニケーションが成立する可能性も、天文学的な数値ではあるがありえる、かもしれない。
「天文学は専門外だからなんとも言えんが、宇宙人は天文学的だから確率上がるのかね」
そう言っている間にもデイヴと宇宙人の会話は続いている。
「は、腹の虫が留まる事を忘れるよ~っ!」
「☆◇%○。*△○#□○$」
「△○□!」
「○$%◇□△*+○☆」
叫びながら腹を盛大にならし続けるデイヴと、それに嬉しそうに語り掛ける宇宙人という珍妙な光景は数十分ほど続き、最後に宇宙人が手を差し出した。
「☆□○△$○○#□」
その中には飴が握られている。どうやらデイヴに渡したいようだ。
「そ、その飴を僕にくれるの?ありがとう~‼」
デイヴはとどめとばかりに大きな腹の音を鳴らして飴を受け取る。それを見て宇宙人は満足げな表所を浮かべてUFOへと戻っていった。
「な、なにがあったんだ?」
ホイットがデイヴに駆け寄って尋ねる。
「お腹すいてるのを察して飴をくれたんだ。とってもいい奴らだよ」
貰った飴を早速頬張ると、さっきまでの空腹が嘘のように消え去った。
それを見届けるとUFOは瞬く間に宙の彼方へ飛び立った。
かくして地球史上最大の危機は去り、デイヴとホイットは英雄となった。
その夜、星を救った二人の英雄を讃えるパーティが自然公園で開かれた。各地から英雄の姿を一目見ようと大勢の人間が集まり、飲めや謳えやの大騒ぎとなっている。
「なんか照れ臭いな。俺は特に何もしてないのに」
「そんなことありませんよ。それにデイヴ君は楽しんでるみたいですよ」
ウィルに言われてデイヴの方を見ると、彼の周りには大量の料理が積まれていた。
「こんなにおいしいものがたくさん食べられて幸せだぁ!おかわり!」
次から次へとデイヴの下に料理が運び込まれる。既に人智を超えた暴飲暴食をしているようだ。
「お、お前そのうち死ぬぞ」
「そのうち死ぬのは人間みな同じだよ!それより僕こういう時にしてもらいたいことがあったんだけど」
言って、ホールケーキを丸飲みする。
「なんですか?あなたは英雄ですから大抵のことなら政府が何とかしてくれると思いますが」
「胴上げをしてもらいたいんだ!」
胴上げ。デイヴはあまりにも重すぎて生きている間はもとよりおそらく死んでもできないだろう。一度友人にやってもらった時、十人がかりで何とか持ち上げたはいいものの、あまりの重さにそのまま下に落とされてしてしまい、地面にめり込んでしまった。それ以来、胴上げはデイヴの一生叶わぬ夢として封印されてきた。しかし、今この場には何万もの人がいるのだ。
「ま、まあこんだけの数がいりゃできるんじゃねえかな。てかそんなんでいいのかよ」
「では私が皆さんに呼びかけるのでデイヴさんはステージの上に登って待機していてください」
英雄を胴上げするためにステージの前に大勢の参加者が集まる。デイヴはその光景をステージの上から見つめる。ついに自分の長年の夢が叶う時がきたのだ。
「それじゃあ、今から飛び込むよ~!」
助走をつけ、デイヴはステージから勢いよく人の海へと跳び込んだ。デイヴが大勢の人の手に支えられ、一度、二度と宙を舞う。憧れの胴上げは今まさに、成功したのだった。
「や、やった~!ついに悲願の達成だ!」
何度も何度もデイヴの身体は浮き上がり、その度にデイヴは万歳のポーズをとる。そして、胴上げは加速していく。押し出されては落ち、落ちては跳ね、繰り返し繰り返し、胴上げは続き、いつしかデイヴは時空の彼方に消え去っていた。
第二章 インディペンデンス・デヴ FIN