INDEPENDENCE DEV4
ウィルが運転する車は出発してから二十分ほどで目的地である自然公園に到着した。この公園はUFOの中央部の真下に位置しており、UFOファンの間ではすっかり聖地と化している。
ホイットが車から降り、上空を見上げる。巨大UFOは依然変わりなく、そこに留まっている。
「ほお、なるほど。確かにがっつり開いてやがるな」
UFO底部にあるハッチが開放され、そこから光の柱が伸びている。ウィルが車内で説明していた通りだった。
曰く、「UFOのハッチが突然開いた。何かの前触れかもしれないのでホイットと共に現場に急行し調査してほしい」とのこと。
公園は既に噂を聞きつけた見物人や周辺の警備に動員された官憲でごった返しの大混乱が起きている。
非常事態のため公園の中央付近は軍によって封鎖されており、関係者以外の立ち入りはできなくなっている。その境界を越え、ホイットとウィルはハッチの真下に近づく。
「真下に行くとキャトられるかもしれねえな。ほら、牛が光に導かれて浮いていくやつ」
「・・・なるべく近寄らないようにしましょう。ところで彼はよかったんですか?」
「別にいいだろ。アイツは民間人みたいなもんだしな」
口ではそう言っていたが実際のところは叩いても叫んでもデイヴが昼寝をしたまま目覚めなかったのが理由だった。何とか起こそうとしばらく粘って、それでも目覚めなかったので面倒くさくなってそのまま車内に放置してきたのだ。
「さて、ここまで来てみたが、どうする?」
UFOから降りている光の柱にギリギリまで近づき、円盤を見上げる。開いたハッチの奥からは眩い光が放出されており、中を確認することができない。
「い、行ってみますか?」
「よし、行くか」
二人がハッチの真下、光の柱へ足を踏み入れようとした瞬間、陽気な音楽がUFOから流れ出した。それと同時に、それまでは白く輝いていた光の柱が赤や青、緑と様々に色を変え、さらにミラーボールの乱反射のような無数の細かな光が周囲に振り注ぎ始めた。
「なんだ、スターのリサイタルでも始まるのか⁉」
ホイットとウィルは思わず後退りしてしまう。
突然始まったディスコパーティに戸惑っていると、開いたハッチから、賑やかに変色する光の柱の中をふわふわと踊り降りてくる数人の影があった。
二足歩行でウネウネとした触手のような腕、セラミックのような質感のスーツを身にまとっており、肌の色はくっきりとした原色の赤、青、緑。誰がどう見ても宇宙人だった。
「△○□%○!○△◇~%□」
地上に降り立つなり、宇宙人のリーダーと思われる一番偉そうな雰囲気の者が目の前にいるホイットに向かって語りかける。
「は、初めまして。私は地球人のホイット。そしてこっちがウィル」
ホイットは「まずい、何を言っているのか全くわからない」と思いながらも礼儀として自己紹介から始める。
「・・・・・・???%○△△□○!△パ○◇@※□?」
どうやら宇宙人の方もこちらの言葉が分からないらしく、共に降りてきたメンバーと何やら話し合い始めた。
「○○□※@△□%!」
「*□◇?+%△△※@※○□△」
「◇○※○□◇%@※○○□△◇*元□%!」
深刻そうに話し合っているが、ホイットを始めとして、周りで見守っている誰もがその内容を理解できない。せっかくUFOから宇宙人が降りてきたというのに、コミュニケーションが取れないのだ。
「どうしますか?彼らも揉めているみたいですけど」
「どうもこうも、言葉がわからんからなあ。お?」
ウィルとホイットが話しているうちに宇宙人たちの会議が終わりを迎えようとしていた。
「△△@□*%!」
「◇□○□△※○@#?」
「・・・・・・$○△@」
宇宙人たちは会話を止め、静かにホイットたちの前に向き直る。
「・・・っ⁉」
ホイットはもとより、その場にいた全員が凍り付く。宇宙人たちの手には、銃が握られていた。真ん中に立つ宇宙人が、ホイットたちの後方にあるセコイアに銃口を向け、引き金を引いた。タンッと軽い音と共に光線が射出され、樹齢数百年の巨木が一瞬のうちに蒸発した。
「○%$△#□◇」
宇宙人が語りかける。その内容は分からなかったが、彼らがもはや話し合いに応じる気がないということは明らかだった。すなわち、実力行使。武力を持ってこの星を支配するつもりなのだ。先ほどのセコイア消失ショーは無駄な抵抗はせずに降伏せよという勧告なのだろう。
「くそ、マジかよ」
ホイットがつぶやく。想定していた最悪のパターンが実現してしまったのだ。
「何か手はないか・・・?」
ホイットが反撃の手がかりを探ろうとしたその時、地獄の警笛のようなおぞましい怪音が公園に響き渡った。そしてその音はどんどん大きくなっていく。まるでこの世の終わりが近づいてくるかのように。
「な、なんだ⁉」
「また何か起きるのか・・・?」
「○△#!□%◇☆⁉」
「□%*◇○$!」
観衆も宇宙人も、突然の怪奇現象に戸惑い、口々に不安を叫ぶ。
だが、ホイットにはこの音、この現象に覚えがあった。そしてそれこそがこの絶望的な状況を打破する最後の希望となりうるかもしれない、そう考えた。
デイヴが、空腹によって目覚めたのだ。