INDEPENDENCE DEV1
第二章インディペンデンス・デヴ
2299年。二十三世紀が終わろうとしていた頃、地球人類は未曽有の危機に瀕していた。
「ったく、一体どうしろって言うんだよ」
コーヒーを飲みながら、通信技師のホイットは愚痴をこぼす。彼は数日前、政府関係者と名乗る男に半ば強引に仕事を命じられ、政府会館の一室に缶詰にされていた。
部屋には数台のコンピューターが設置されており、そのモニターには様々なシグナルが表示されている。シグナルはとある物体から発せらる周波数を表しており、ホイットはその解析を任されているのだ。そしてそのとある物体というのが、地球人類の目下の懸案事項であった。
地球の上空約5000メートル、雲よりも近いその位置で、黒とも銀とつかない不思議な色をしたそれはホイットの住む街を覆うように存在していた。
「U・F・O。Unidentified Flying Object、未確認飛行物体・・・・・・。まさか実物が拝めるとはなあ。それもこんな近くでよ」
窓から空を見上げる。依然変わりなく、UFOは空に留まっている。もううんざりだ、あれが現れてから自分はこんな部屋に閉じ込められ一日中モニターとにらめっこしなけばならなくなってしまったのだから。
数か月前、そのUFOは突如として地球に飛来した。
最初にそれが確認されたのは、アメリカ・ワイオミング。そのまま大気圏を航行し、南米、南極海、アフリカ大陸、ヨーロッパと旋回し、最期にホイットの住むメタボシティの上空でピタリと動きを止めた。
周辺住民たちは初めのころこそ珍しがっていたが、長い間UFOの動きがなかったためか、今ではすっかり関心をなくしてしまっている。そればかりか、UFOの陰になって日が当たらなくなったと役所に文句を言うものまで現れる始末だ。
政府は何度も対話を試みたが、一向に反応が得られない。しびれを切らして立ち退き命令を出したがこれにも応じられず、最後の手段として軍を派遣させて強制退去を試みた。結果として、UFOの自動反撃装置に迎撃され、部隊は壊滅した。これに政府はすっかりやる気を失い、民間に協力を依頼することになったのだ。そこで白羽の矢が立ったのが、言語学者のホイットだった。
「白羽の矢ってのは元々は生贄を決めるためのもんだからな。はあ、貧乏くじを引いちまったもんだ」
政府としてはこのまま領空に正体不明の、それも軍の部隊を壊滅させてしまうほどの力を持った物体を放置しておくわけにはいかない。ホイットには一刻も早い解決策が求められている。
そういったわけで、彼は毎日UFOからのシグナルを解析している。しかし、一向に成果が見られない。
「・・・ん、来たか」
モニターを眺めていると玄関のチャイムが鳴った。扉を開けると眼鏡をかけたスーツ姿の真面目そうな男が立っていた。
「おはようございます。どうですか、調子のほどは?」
にこやかに、男が話しかける。彼はこそがホイットに今回の面倒事を押し付けた張本人。政府外務局の職員、ウィルだ。