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五話

 従者の朝は早い。どのような立場の者だろうとそれは変わらない。主人より早く起き、身支度を整え、朝の準備を整えてから主人を起こしに行くからだ。

 それは下僕一日目の宗司であろうと同じ事である。

 そうあるべきなのだ。


 リリアは腕組みしたまま、ベッドを睨みつける。そこにはボロ布にくるまれ穏やかな寝息を立てる宗司がいた。ビキリ、とリリアの眉間に青筋が浮かぶ。

 そして罵声とともに宗司の体が宙へ舞った。



「いつまで寝ておるかッ」


「うぉっ!?」



 驚きの声を上げながら、宗司は部屋の隅まで飛ばされる。

 寝起きのポンコツ頭脳で何が起こったのかと見渡せば、ベッドのそばでリリアが仁王立ちしていた。



「……おはようございます」

「うむ、律儀に挨拶をするその心意気に免じて寝坊の件は不問としてやろう。ほら、さっさと起きんか」

「あっ、はい」

「食堂で待っておるからな」



 そう言ってリリアは部屋から出ていく。

 未だに衝撃が抜けず、ふらつきながらも宗司は着替え始めるのだった。



    *    *    *    *



 食堂についてあたりを見渡すと、先にいたリリアが声をかけて来た。



「遅かったの」

「そりゃあベッドがひっくり返されてましたからね。次から気を付けますんで、あれは勘弁してください」

「そうか。ならば今度は外へ放ってやる。……ま、それはそれとして、今日はもう少しこの屋敷を案内してやろう。何をするのかも教えてやるからの。ではついてくるのじゃ」

「お願いします」



 食卓を過ぎて厨房へと向かっていくリリアの後ろを宗司が付いていく。

 リリアが立ち止まったのは大きな扉の前でだった。



「ここは?」

「食料庫じゃ。今あるのは保存食ばかりじゃが、十年は暮らせる分はあるぞ」

「すげー……」



 目の前に積み上げられた大量の食糧を前にして、宗司は感嘆の声を上げる。



「本来ならばこれを料理するのも仕事と思っておったんじゃが」

「すみませんでした」

「わかっているならばよい。夜にまたその腕前を見せてもらうとして、今はそのままで我慢しとれ」



 そう言いながらリリアは手近にあった袋の封を切り、中身を寄越してくる。

 宗司はそれを受け取り、恐る恐る口にする。



「……あんまり美味しくないですね」



 率直な感想である。

 この保存食、おそらく何らかの肉を干したものなのだろうが、如何せん塩味が強すぎる。元の肉の味がほとんど感じられない。それでいて堅く、咀嚼するにも一苦労だ。駄菓子の魚肉シートをたくさん重ねたような食感だ。

 これ単体で食べるには向いていない食糧だろう。

 まずい、という表情を隠そうともしない宗司を見て、リリアは面白そうに笑って言った。



「不味いじゃろ? なにせ湯で戻すのが前提じゃからな」

「あれですか。そういうドッキリですか」

「ちょっとした悪戯じゃ。寝坊した罰はこれぐらいにしといてやろう」



 それで満足したのか、彼女は外へ出て宗司に手招きする。もうここでの用は済んだのだろう。結局悪戯されただけというのは納得いかないが、調理が必須ということはわかった。宗司は好意的にそう解釈した。

 そして宗司が出たと同時に、リリアが壁のレバーを引き扉を閉めた。


(レバー……?)


「それは?」

「ここを閉めるときは必ずこれを引け。腐るからの」

「わかりました」



 聞きたいのはそう言うことではないのだが、電気がなくてもレバーで何かが作動するのだろう。宗司とて食料庫を開きっぱなしにするリスクは理解しているので、レバーの存在はしっかりと覚えておくことにした。




 この時、宗司が扉を見ていれば気づけただろう。

 リリアがレバーを引いた瞬間に、青い複雑な模様が浮かび上がったことに。


本当の干し肉はしっかり美味しいです

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