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救世の英雄は吸血姫に忠誠を誓う  作者: 丁太郎
二章 騒乱の始まり
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四十二話

「性質の悪い……?」



 困惑しているローゴに、リリアはすぐにわかるとだけ返す。腑に落ちないながらも、ローゴは魔族のいる暗闇へと視線を戻す。

 すると、向こうから焼き焦げた死体が飛んできた。意図的に投げられたのか、地面を転がり彼らの足元で止まる。

 恐る恐る観察すると、その死体はもはや誰だったのかもわからないほどひどく炭化していだ。馬車に火ではこうはならない。死体は魔法によってわざと真っ黒に焼かれていた。

 一瞬でそれを理解し、ローゴがその所業に憤っていると、暗闇の向こうでは相変わらず魔族たちがせせら笑いしていた。



「お探し物はそれかい?」「原型とどめるのも大変なんだぜ」「丁寧に焼いてやったんだからちゃんと受け取れよ」



 彼らの言葉を聞いて、ローゴは目を見開く。まさかと思い、焼死体を見る。

 しかし、誰だか判別できないとはいえ、その死体は宗司とは全く大きさが違った。一応リリアの様子をうかがうと、彼女は全く動揺した様子を見せず、更に色濃く殺気を放っていた。

 ようやくローゴにも合点がいった。



「……なるほど。こういう奴らか」

「そういうことじゃ。それが無意味と分かっているのが更に性質が悪い」



 ゆっくりと息を吐きながらローゴは頷いた。

 つまり、挑発するためではなくただ自分が楽しむために相手に嫌がらせをしているのだ。

 この死体も、別に本気で宗司が死んだと思わせるためでなく、嘲笑うために焼いたものだろう。

 確かにリリアの言う通り性質の悪い相手だ。

 しかし、いかにも小物然とした行動をとっているが、感じ取れる魔力は膨大である。

 ローゴはリリアに尋ねた。



「こいつらをどうするつもりだ?」

「捕まえてソージの居場所を聞く。それしかあるまい」



 聞くまでもなく予想通りの答えが返ってきた。

 とんでもない奴と関わってしまった、とローゴは苦笑いを浮かべる。

 そして、のそりと一歩前に出た。



「一応聞いておくが、ソージは近くにいないんだな?」

「うむ」



 リリアが返事をするや否や、ローゴは目にもとまらぬ速さで魔族へ斬りかかった。

 剣聖と称されるローゴの、全力を込めた最速の一撃。まともに食らえば、鉄塊すら両断してしまうであろう神速の剣閃が魔族を襲う。


 だが。






「なんだよ、こんなもんか」

「うわわーななななんてことー」



 あっさりと長身のほうの魔族に受け止められてしまった。

 魔族の手には魔法陣が浮かび、ローゴの一撃は余波すら出すことなく完璧に受け止められてしまっている。全く驚いた様子もなく、魔族たちは無駄な抵抗とローゴを嘲笑っていた。



「ほらほら、ケガしないうちに帰りな」「お姫様は俺たちがたっぷり相手するからよ」「失せろや雑魚が」



 適当に煽り立てる魔族。

 ローゴはそれを全く意に介することなく、今度は蹴りを入れた。

 攻撃ではなく、相手を大きく弾き飛ばすだけの前蹴り。もちろん余裕をもって魔族は防いだ。

 そうして、また笑みを浮かべて、長身の魔族は吹っ飛ばされた。

 なんのことはない。先の一撃は速さこそあるものの、彼本来の威力を伴っていない。簡単に防げると油断したところで、その防御の上から相手を吹っ飛ばす。それがローゴの目的だった。


(あの場で戦ったら巻き込まれかねないからな)


 先ほどまで隣で感じていた殺気を思い出して、ぶるりと体を震わすローゴ。しかし、こうして距離をとれば後はやることは一つ。クソ性格の悪い魔族にツケを払わせることである。

 そして、追撃のためローゴは宙を舞う魔族を追っていく。

 だが、相方の魔族がそれを簡単に許すはずがない。油断しきったせせら笑いを消して、ローゴを追おうとする。



「チッ、小癪な真似を」

「させるものか」



 そしてそれをリリアが許すわけがない。その行く手に穂先を向ける。苛立たし気に魔族の男は足を止めた。リリアは既に臨戦態勢に入っていた。手に持つのは彼女が多用する黒槍ではない。闇夜に煌めくのは銀の槍。《神槍セレイネ・ヴェロス》

 魔族の男は少し驚いた様子を見せながらも、余裕たっぷりに対峙した。



「ッ……へ、なんだよまだそんな力があったとはな。……やろうってのか」

「はて、貴様にその気概があるとは思えんが」



 小首をかしげて、ここぞとばかりにあおり返すリリア。その表情はわざとらしくニヤついていた。だが、その目は笑ってはおらず、殺気は容赦なく向けられている。

 リリアは一見十五にも満たぬ少女だ。そんな彼女に殺気と自分以上の余裕を見せられ、魔族の男はあっさりと冷静さを失った。



「……上等だぁ、テメエの前で捕まえた野郎どもまとめてぶち殺してやらぁ!!」



 怒声を張り上げ己に向かって伸びた穂先を蹴り、男はリリアへと突貫していく。

 彼女もまた、手元に戻した銀槍を構えて迎え撃つのだった。


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