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救世の英雄は吸血姫に忠誠を誓う  作者: 丁太郎
二章 騒乱の始まり
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三十七話

「やっちまった……」



 牢屋の中。小さな窓から見える月明りを眺め、宗司は膝を抱えて嘆くように呟いた。

 下級区で騒ぎを起こした犯人として取り調べを受けた彼は、なぜか間諜として囚われていた。

 その理由は取り調べでの宗司の対応にある。




*    *    *    *




 衛兵に捕まり、あれよあれよのうちに宗司は尋問室に連行されていた。

 逃げられぬように枷をはめられ、薄暗い部屋の中で待機を命じられる。世界こそ違えど、捕まった時の緊張感に変わりはない。胸が苦しくなるほど宗司の心臓は脈打ち、冷や汗が滝のように流れ落ちていく。

 しばらくして現れた担当者は、優しそうな年配の男であった。

 部屋に入ってすぐに宗司を観察して、彼が既にプレッシャーに押しつぶされていることに気づく。



「……あのね、騒ぎを起こしたって言っても、相手が相手だしお咎めなしだと思うよ」



 努めて優しく声を掛ける。

 それだけで、宗司の気は軽くなった。



「本当ですか?」

「壁壊したのだって盗賊を退治してくれたことと合わせてちゃらだよ。今からの尋問だって状況を少し聞くだけだから」



 尋問官の言葉に、ほっと胸を撫で下ろす宗司。てっきり問答無用で牢屋に放り込まれるとばかり思っていたのだ。男の言うとりだとすれば、夕飯前には家に帰れるだろう。

 宗司の緊張がなくなってきたことを確認して、尋問官は席についた。



「それじゃあ名前から教えてもらってもいいかな」

「えっ」



 壮絶に嫌な予感が宗司を襲った。動揺を隠せないまま、名前を告げる



「……あ、あま、じゃないや、宗司天城です」


(目が泳いだな……偽名か? いや、だったらこんなの名乗らないか)



 挙動が怪しい宗司を少し不審に思いつつ、尋問官は尋問を進めた。



「で、どこから来たの?」


(……終わった)



 そう。宗司が恐れていたのはこの質問であった。まさか異世界からですと答えるわけにもいかない。かといってこの街の住人と偽ればすぐにボロが出る。

 だが、そんな彼の脳裏にある会話がよぎった。



『後は国の名前じゃな。これは言えないからといって疑われることはない。セガンのある国、【フィダル王国】と【ガド帝国】。この二つさえ覚えておけばよい』

『フィダル王国とガド帝国……っと』



「ガド帝国です」

「なに?」



 宗司の答えた国を聞いて、尋問感が片眉を吊り上げた瞬間だった。

 扉の外から衛兵の声がした。



「報告! 所持品から入国証確認できず!」



 こうして宗司はめでたくガド帝国間諜として捕まる事になったのであった。




*    *    *    *




 一方その頃、ローゴ宅では。



「ソージが捕まったぁ!?」



 宗司の姿が見当たらない事に疑問を覚えたリリア。ローゴが恐る恐る告げた理由を聞いて、彼女は声を荒げた。反射的にローゴは臨戦態勢に入り、万が一に備える。

 幸い、彼女も意図せず大声を出してしまっただけのようで、極力平静を保ちながら事情を聞いてきた。



「それで、なにがどうしてソージが捕まるような事態になったのじゃ」

「……スリに遭ったからそれを取り返そうとしたんだ」

「なんじゃと?」

「い、いや、ちゃんと取り返すとこまでは行ったんだがな。きづいたらあいつがいつの間にか衛兵に捕まってたんだ」

「捕まる? もしや街中で騒ぎを起こしたのか? いや、それにしても盗賊相手ならばすぐに釈放されるはずじゃろ」



 辺境で引きこもっていたが、流石に常識ぐらいはリリアも理解していた。だからこそローゴの説明に納得できないところを問い詰めていく。

 しかし、それはローゴが事情を知っていればの話である。彼もまた、首をかしげながら宗司の置かれている状況をリリアへと伝えた。



「それがなあ、なんでかガド帝国からの密入国ってことになって間諜扱いらしい」

「なっ……」



 いわゆるスパイ容疑を掛けられたということである。どうしたらそうなるのかという最悪の事態に、リリアは思わずめまいを起こした。

 先ほどのように声を荒げなかったのは、彼女に思い当たる節があるからである。

 それは、宗司が尋問された際に思い出したのとまったく同じ会話だ。だが、その会話の解釈は二人の間で大きく異なっていた。

 宗司は七聖地の中でも特に力のある国として覚えていたために、出身国だと口走った。だが、リリアの真意はまた違う。確かにガド帝国は聖地を有しており国力は高い。だが、その実態は軍事力を背景に白土大陸の覇権を狙う軍事国家なのだ。リリアが覚えておくように言ったのは、関わらないように注意するためであった。

 宗司にきちんと説明しなかったことをリリアは悔やんだ。そして、あることを思い出した。



「なあローゴよ」

「ん」

「確かフィダルでは重罪人はすぐに首都に送還される……じゃな?」

「そうだ。ソージも遅くても明日には護送される」



 つまり時間は無いということである。

 ローゴの返事を聞くや否や、リリアは自室に戻り支度を整えた。玄関に戻ると、ローゴはまだそこに立っていた。



「いくらあんたでも、奴がどこにいるのか知らなければ取り返せないだろ」

「……黙ってついてこんか」



 遠回しに協力を申し出たローゴに対し、リリアは照れくさそうに悪態をつく。


(主従揃って素直じゃねえなぁ……)


 そして二人はあっという間に闇夜に消えて行った。


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