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救世の英雄は吸血姫に忠誠を誓う  作者: 丁太郎
二章 騒乱の始まり
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二十八話

 それから宗司の質問は一時間にわたって続いた。

 丁寧に答えてくれる店主の話を片っ端からノートに書き、ふと時計を見る。既に時刻は昼時になっていた。

 慌てて質問を切り上げて、宗司は感謝を伝える。



「ありがとうございます店主さん」

「いえいえ。こちらもちょうどいい暇つぶしになりました」



 嫌な顔一つすることなく、武具屋の主人は柔和そうに笑っていた。本当にいい人である。

 ふとこのまま帰っていいものか、と宗司に疑問が浮かぶ。


(色々教えてもらっといて手ぶらっていうのもなぁ……)


 ここは店だ。であれば何か買うのが教えてもらった側のマナーだろう。

 そう考えて、宗司は手頃な物がないかあたりを見渡す。とはいっても武具屋なのだから、周りにあるのは彼にはよくわからない武器や防具の数々である。


(本格的な物はちょっと手が出せないなー……ん?)


 武器がずらりと並ぶ中、ずいぶんとこじんまりした細工物が店の隅に飾られているのが見えた。

 近づいてよく見てみると、いわゆるプレートネックレスと呼ばれるもののようである。しかし、宗司の知っているそれとは比べると、あまりにもシンプルだ。チェーンがなければ何かの部品にすら見えるほどであった。

 値札は貼られていないが、高いものではないだろう。少なくとも使えないであろう武具を買うよりは高くつくことは無い。

 宗司は顎に手を当てて買ってもいいだろうかと考える。


(んー……俺が武器買うよりかはマシか)


 使えない武器よりも着けられるアクセサリーを取ることにした。

 宗司は一つ手に取って店主に渡す。



「これいくらになります?」

「えーっと、4000Gですね」

「あー……ちょっと待ってください」



 告げられた金額がどれだけになるのか、脳内で電卓を叩く。


(魚一尾20Gでパン一つ10Gってことはその二つだけで食事をしたら一食30G。+αを考えると50Gぐらいが一食の値段だとして、だいたい80食分で3週間ないぐらいの食費か……。いや、待てよ?)


 そこまで計算してから宗司はある事に気づいた。


(ローゴにたかればただじゃん)


 なにせ剣聖ローゴ・パーコイダなのだ。たかだか4000Gぐらい訳もないぐらいには稼いでいるに違いない。

 奢ってもらえること前提だが、恐らく問題ない。

 そう考えて、躊躇いなく宗司は鈍色のプレートのネックレスを買った。

 包装を断りその場で身に着ける。



「お買い上げ、ありがとうございます」

「こちらこそ色々と教えてもらってありがとうございました。それじゃ」



 しっかりと感謝を伝えて宗司は店を出た。




    *    *    *    *



 店の外ではローゴが大欠伸をしながら店先の商品を眺めていた。

 ドアの音に気付くと、のろのろと近づいて一言文句を垂れる。



「長い」

「ごめんな。どうにもテンションが抑えきれなかった」

「気持ちは分かるがな……」



 よほど退屈だったのだろう。次は勘弁してくれ、とでも言わんばかりにだるそうな態度を隠しもせずため息をついた。

 その拍子に、ふと宗司が買ったプレートネックレスがちらりと見えた。

 見覚えのあるそれ(・・)に思わずローゴが問いかける。



「おい、それって……」



 だが、その途中で慌てて口をつぐむ。


アレ(・・)買ってんだから一々聞くのは野暮だな)


「なに?」

「いや、何でもねえ。それより帰らなくていいのか? お嬢が待ってんだろ」

「大丈夫だ。家事は済ませたし食事なら弁当を渡してある」

「家の中で弁当ってお前……」



 確かにリリアに対する細やかな気遣いは忘れない宗司であるが、まさか自分の外出のために彼女に弁当を用意するとは思っていなかった。

 ローゴは呆れて宗司を見る。

 そんな視線を一切気に留めることなく、宗司は昼食を何にするべきかについて考えを巡らせていた。


(この世界この国の食文化を知るなら大衆食堂は外せない……けど出店があるならそっちの方が色々食べれるし……ローゴの金でいっそ高い店っていうのも…………)


 これがただの外食であれば宗司とて長々と考えたりはしない。

 だが、あくまで今回は異世界の文化を知るという、ある意味勉強のために来ているのだ。

 食欲という観点だけでなく、より有意義なものを選ばなければなるまい。

 またも妙な気真面目さを発揮して、宗司は長考に入った。



「……またかよ」



 そしてまたもローゴが退屈することになる。

 という流れは彼も十分わかっている。ただでさえさっきも散々待たされたうえ、今は昼時だ。

 ローゴは宗司を置いて、適当なお店を探しに行った。

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