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十五話

 宗司は最悪の気分で目覚めた。フラッシュバックした痛みと酷い吐き気が収まらないでいる。そのあまりの耐えがたさに、一旦横になろうとして、そこで今の状況を思い出した。

 あたりを見渡すと、やはりあの時の女がそこにいた。メアリスである。彼女は切株に腰掛け、宗司が起きるのを待っていたようだ。

 体を起こした宗司を見ると、声を掛けてくる。



「ようやく起きたの、寝坊助さん。気分はいかが?」

「……最悪だね」



 吐き捨てるように答え、宗司はメアリスからさらに距離を取った。

 明確に拒絶の意思を示され、目アリスは眉を顰める。



「なに、そういう態度取るわけ?」

「生憎と誘拐犯と仲良くするほど友好的な性格はしてないんで。それにあんたリリアの敵だろ。なら俺にとっても敵だ」

「ふぅん……そう。なら、まずは身の程を知りなさいな」



 敵対的な態度を示し続ける宗司に苛立ちを覚えたのか、メアリスは魔法を向けてきた。

 彼女が得意とする精神を蝕み痛みのみを感じさせる魔法である。

 指が弾かれると同時に、宗司の体に激痛が走った。うめき声をあげて宗司は蹲る。



「従順にしていれば、こんな思いしなくてよかったのに。馬鹿ね」



 呆れたように言いながらメアリスは魔法をかけ続ける。

 その間、宗司はただ痛みに耐え続けていた。歯を食いしばり、額をつよく打ち付け正気を保ち耐えた。

 しばらくして、メアリスが魔法を解いた。宗司の体を苛んで痛みが綺麗に消え、その直後にまた同じ痛みが襲った。解いたのはフェイントだったらしい。愉快そうにメアリスは笑みを浮かべるが、宗司は悲鳴を上げずに堪えていた。その様子を見て、メアリスは不満げに魔法を解いた。



「なによ、本当に生意気なのね」

「……。一つだけ、聞きたいことがある」

「……まあいいわ。答えてあげるから、早く言いなさい」

「リリアを殺す気か?」



 宗司の質問を聞き、一瞬メアリスは驚いたように目を見開き、そしてすぐに高笑いをあげた。



「アハハハ、あなたそんなにあのおままごとが気に入ってたの? 心配しなくてもあなたの『ご・しゅ・じ・ん・さ・ま』を殺したりなんかしないわ。ククッ、アハハハハ」



 相当つぼに入ったのか、お腹を押さえて笑い続けるメアリス。対する宗司は馬鹿にされてより敵対心を募らせていた。

 笑いすぎて出た涙を拭き、メアリスがこちらに問いかけてくる。



「ね、実際あの子と契約とか結んだりそういう話したわけでもないんでしょ? なんでそう肩入れしてるのよ」

「……言うつもりはない」



 メアリスの問いかけに宗司は答えることを拒んだ。当然だろう。

 その頑なな態度にため息をつき、メアリスはまた同じ魔法をかけた。だが、そうくるだろうと予想していた宗司は、脂汗こそ大量に流し顔色を悪くしながらも、姿勢は変えずに彼女を睨みつけた。



「……鬱陶しいわね」



 魔法を使うには魔力を消費する。宗司に今掛けている魔法だけならばメアリスはいつまでもかけ続けることができるだろう。だが、彼女はリリアとのにらみ合いでの消費に加え、もう一つ魔力を費やしているものがある。いくら魔女と謳われるメアリスとはいえ、今は魔力の消耗を抑えたかった。

 忌々し気に思いながらも、魔法を解いた。また気の緩みをつこうとしたが、先ほどのことを考えると宗司が引っかかるとは思えない。



「……さっきより、短いけど……、どう、したんだよ」

「ふん、息も絶え絶えの状態で情けなく強がっちゃって。せいぜい足掻くと良いわ。あと、いくら殺さないとはいえ、あの子があなたを助けに来るとは思わない事ね。おままごとの玩具にそう執着しないでしょうし」

「……別に、助けを待ってる、わけじゃない。ただ単に、あんたが、敵ってだけだ」

「…………ねえ、一つ訂正してあげる」



 そういうとメアリスは切株から立ち上がって宗司へと近づいた。宗司はふらつきながらも遠ざかろうとするが、足がもつれてへたり込んでしまう。

 その様を見下ろし、メアリスはとびっきり冷ややかに笑いながら言った。





「あの子……リリアはね、人間じゃないの」






「ヴァンパイアよ」

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