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十二話

  朝食をとった二人は、すぐに魔法の訓練に取り掛かった。



「まずは魔石の魔力を感じるところから始めてみるのじゃ」



 宗司に目隠しをして、リリアは一回り強力な魔石を握らせた。

 彼女は、宗司は魔力を持っていないのではなく、魔力を感知できていないと見立てていた。持っていない人間は珍しくないが、肉体再生ができる以上宗司が魔力を持っていないということはあり得ないのだ。

 だから、まず魔力を知覚してもらうことにした。先ほど渡した魔石は強力なだけでなく、魔力を一定の間隔で垂れ流している。魔石が変化していることに気が付けば、すぐに魔力を認識できるようになるだろう。目隠ししたのは、他の情報を遮断するためである。耳栓なども用意したが、どうやらそれでは違和感の方が勝ってしまうらしい。

 とりあえず、視覚だけを封じてみることにしたのだ。

 しばらく、その状態で放置する。自力で気が付けば、第一段階はクリアだ。



「リリア」

「……」

「それは昼食のパンなので、食べないように」

「……ちっ。音ではなく魔力に集中せんか」

「はいはい」



 しかし、魔力に集中しろと言われても宗司には何もわからないのが現状である。握った石がほんのり暖かくなってきたのは、これは恐らく魔力ではない。

 確かに視覚を封じて感覚が鋭くなった気はするが、一向に魔力らしきものが感じられない。むしろリリアのパンを食べる音の方が気になってしょうがない。

 雑念を振り払うように、宗司は大きく深呼吸した。


(ん?)


 息が喉を通る時、何か違和感を覚える。

 それは久しぶりの感覚だった。





「ゴホッ、ゴホッ、オエッ」

「咽るなバカ」

「ン゛ッ、……失礼しました」



 かなり久々に咽た宗司は、改めて手に握った魔石へと集中を向けた。しかし、何か感じられるようなものはない。試しに左手に持ち替えても違いは感じられなかった。

 そもそも宗司にはこれが本当に魔石かどうかすら分からないのだ。よくわからない綺麗な鉱物にしか思えない。それを握って魔法だなんだと言われても、実感がわかない。

 なんとなく馬鹿馬鹿しく思え、人差し指で魔石を弾く。


 メキャッ



「……リリア」

「なんじゃ」

「魔石……割れたんですけど」

「なんじゃと!?」



 宗司が手を開くと、魔石には丁度指がめり込んだような跡があり、そこから亀裂が走っていた。

 力を入れてしまえば容易く砕け散る程度には、しっかりと割れている。さらに、宗司にはわからないが、込められた魔力もきれいさっぱり霧散していた。

 予想外の出来事に、慌ててリリアが駆け寄ってくる。



「あ、パン屑ついてますよ」

「言うとる場合か! 一体、何をしたら魔石が割れるんじゃ!」

「何って普通に指を弾いただけなんですけども」



 宗司の感覚としては確かに軽くはじいたつもりだった。間違っても石を穿つような力など籠めてはいない。それがまさか割れるとは思ってもいなかったのだ。

 そんな戸惑いがリリアにも伝わったのだろうか。彼女は、それ以上は何も聞かず無言で宗司から割れた魔石を受け取った。

 まじまじとそれを観察して、亀裂が内側から走っていることに気づく。



(弾いたのは偶然か……)



 亀裂が内側からできているのなら、外部の刺激で割れたわけではないのだろう。

 つまり宗司が石を弾いたのは全くの偶然で、魔力の訓練の成果はなし、ただ魔石を一つ無駄にしただけである。

 さんざんな結果にリリアは思わずため息をついた。



「まあ、そう上手くはいかないじゃろうな」

「……すみませんでした」

「貴様のせいではない。そもそも魔力の扱いは感覚的な物じゃ。魔石が割れたのは少し痛いが、貴様が成長するまでは妾がいくらでも作ってやろう」



 なんともありがたいリリアの励ましではあるが、一部宗司が教えてもらった情報と違う。

 つい先日、人工の魔石は複数人での儀式レベルだとリリアから教えてもらったばかりである。

 だが彼女は、「妾がいくらでも作ってやろう」と言ったのだ。



「作れるもんなんですか?」

「ん? 妾は作れるぞ。この間教えたのはあくまでも普通の者たちの話じゃ。妾にかかれば魔石なんぞ、貴重でも何でもないわ」

「そうなんすねー」



 どや顔でとんでもない事を言い放つリリア。

 もともと不思議なところがある彼女だが、どうやら規格外でもあるらしい。

 顔が引きつりそうになるのを誤魔化し、宗司は適当な返事をするのだった。


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