9話「閑話」
鼻づまりがツラーい
パシャっ。
「あーもう、可愛い!」
パシャっ。
「はぁはぁ……その冷えた目も最高!」
パシャっ。
「あともうちょい足出してくれたらお姉さん嬉しいなぁ〜。ほら、絶対領域って萌えるでしょ!?」
「誰がするかんなこと! ってか男にそんなことさせて楽しいのか!」
「だってぇ、クロノちゃんってどちらかと言うと女顔だしぃ、背はあるけど外から見たらそれほどがっちりした体型でもないから女装したらそんなこと分かんないよ?」
「そこは分かってほしかった!」
「それに男の子が女の子の格好して恥じらってる姿が堪らなくそそる!」
「この変態! あと恥じらってねぇ!」
俺が何をしているのか、女装なんて恥を晒してまで何をしているのか、と言えば借金の返済という他ない。
この女神には大きな借りを作ってしまったからな。
女神と言うが、『かめら』とかいう四角い物体を構えて鼻息荒げる様はその辺の変質者と大差ないという残念仕様の女神サマだ。
「さぁてと、次はこれ着てね〜」
「まだあるのか……」
渡されたのは何やら不思議な刺繍が施されていて、スカートの部分は横に大きなスリットが入った服だった。
『ちゃいなどれす』というらしい。
「まだまだあるよ〜。ゴスロリにメイド服にナース服、ネコミミもあるな……。あーどれにしよう!?」
意味は分からないが不穏そうな単語が聞こえてきたのでゆっくりと退散を試みる。
「あ、まだ帰っちゃだめだよ?」
ちっ!
「そ・れに〜、私には大きな借りがあることをお忘れかなぁ?」
むぅ……。
「あんなに蘇生薬あげたのにな〜」
………ちっ。
「分かったよ……。もう、好きにしろ」
「やたっ! クロノちゃん大好き!」
「クロノちゃんってば甘いよね」
「なんだいきなり……」
「敵味方関係なく誰も死なせたくないだなんて」
「……悪いかよ」
「悪いとは言ってないよ。甘いけど悪くはない」
「ならほっとけ」
「ふふ。本当に先祖代々変わんないね、あなたたちは」
ついこの前まで起こっていた戦争。
人族と魔族の戦争は魔族側が突然戦争を放棄したことにより瓦解した。
そんなことをすれば人族側が攻め込んでくるのではと思うかもしれないがそれは不可能だった。
理由は簡単。資金難だ。
どちらがどちらの領土を獲得したとかいう利益の全く出ない中での戦争の継続。
それにはいつか限界が来る。
人族は魔族のように自由に魔法が使えるわけではない。
勇者という例外がいるがあくまで勇者は一人。
必然、質で劣るなら量を積むしかなく、比例して膨れ上がる軍事予算。
対して俺たち魔族は俺含め8人の強力な魔法使いに加え全員が魔法を使える。数も人族よりは少ない。
この差はかなり大きいだろう。
だから俺はどちらも死なせないことにより戦争を完全に硬直させた。
どちらも死ななければどちらも優勢とならず劣勢とならない。
運悪く死んでしまった奴はすぐに蘇生させた。
蘇生薬を手に入れるために恥を晒すことにはなったが、まぁ目的のためには手段を選んでいられなかった。
こんなくだらないことで誰も死なせたくなかった。
そして人族側の戦争の継続が不可能になりかけたところでの魔族側の戦争の放棄。
人族の民にはさぞ不満が募っていたことだろう。
何の利益も出せず金をどぶに捨て続けるくらいならもう止めてくれと。
そしてこちら側が手を引けば、もう戦う必要はないじゃないかと。
そりゃ、この好機に攻め込めばこれまでの不利益をチャラにできるだろうという声もないではないだろうが、攻め込むことすら危うい程の不況となればそうはならないだろう。
そして戦争は終結、というか、自然消滅した。
「本当にそっくりねぇ」
「……うっせぇよBBA。もう何回も聞いた」
「バ…!? ち、違うもん! 神だから年取らないもん! こんな美女のどこを見て言っているのかしら!?」
「美女? はて、そんな奴いたか?」
「むぅぅぅぅぅぅ!! …………そんな意地悪するならまだ着てもらいたい服、あるんだけどなぁ〜」
「ウワー、メガミサマ、チョー、ビジン」
「よろしい!」
「……っとそろそろバイトの時間だ」
「バイトって………。まぁ、殺し合いよりよっぽど平和で良いとは思うけど」
「じゃあなー」
「いってらー」
これで一部終了です。
二部もありますが話数は2、3話で終わるでしょう。ネタないので……。