7話「無職だが何が悪いッ!」
サブタイ思い付かない……。
これまで数え切れない程嫉妬した。
全てを圧倒する力、絶世の美貌、誰からも寄せられる人望。
この世の全てに嫉妬してきた。
嫉妬することは息をする事と同義であり、嫉妬こそがわたしの全てだった。
はずだった。
ある日、魔王様が魔王様じゃなくなった。
魔王軍も魔王軍じゃなくなった。
わたしも『嫉妬』じゃなくなった。
そんなこと、別にどうでもいいはずだった。
『嫉妬』なんて所詮与えられた肩書きだ。
なくなったところでわたしから嫉妬が消えるわけじゃない。
魔王軍『嫉妬』のレヴィでなくなるだけ。
ただのレヴィになるだけ。
頭ではそう考えていた。
けれど大きな区切りがついたせいか、ふと冷静になった。
嫉妬する意味ってなんだろうと思ってしまった。
意味なんてこれまで考えたことがなかったし考える暇もなかった。
嫉妬しなければ死ぬ。
嫉妬することでしか強くなれないわたしは死ぬ。
思えばそれが始まりだったんだろう。
それは義務的な嫉妬とでも言うものだった。
本心からの羨望ではなく生存本能に突き動かされた嫉妬。
あいつより速く動かないと死ぬ。
あいつより強い力がないと死ぬ。
あいつより硬くないと死ぬ。
力が欲しい。力が欲しい。
その恐怖がいつの間にか当たり前のものになっていた。わたしは染められていた。
だけど殺される恐怖が無縁となった今、それはプツンと切れてなくなってしまった。
疲れた。
どうしようもなく疲れた。
ともかく疲れた。
疲れたったら疲れた。
それだけが今までの嫉妬の渦に成り代わるようにわたしの心を支配していた。
嫉妬という激情に、感情を大きく動かすことにどうしようもなく疲れた。
もう嫌だ。何も、誰のことも考えたくない。
あんなことはもうまっぴらだ。
「ほら、起きなさい! もう昼よ」
「うぅ…………まだ15時間しか寝てない」
「寝すぎよ! 逆に頭痛くなるわ!」
「では、おやすみ……」
「こら!」
わたしは実家に帰った。
いきなりのことに両親は酷く驚いていたけれど帰るなり即寝たわたしを何故か心配し始めた。
職場で何かあったのかと思っていたらしい。
その後魔王軍の解散を知って納得したけれど、今度は次の職を探せと言われた。
これまで稼いだ分が腐るほどあるというのに……。
働くことでメリハリがつくだのなんだのと言うけれどその気は毛頭ない。
もう感情を動かすことに疲れたんだ、もう他人になんて関わりたくない。
家から一歩たりとも出てなるものか。
ニートでもいいじゃないか。金ならある。
だから、
「布団から出なさい!」
わたしことは放っておいてくれ………。