4話「短気で何が悪いッ!」
誰も悪いとはいってないやろ
と、ツッコミをいれてみる
私の名はイラ。
魔王軍幹部『憤怒』を勤めていた者だ。
私は昔から怒りの沸点が低かった。
それはもう、産毛が少しでも風に揺れれば頭に血が昇り、3分のインスタント麺でさえ待てなかった。
特に夏は酷かった。
あの時期と言えば暑い怠い痒いの三重苦。
気温の高さに殺意が湧き、猛暑に摩耗していく体力に殺意が湧き、飛び回る蚊に殺意が湧き、蚊に刺された痕に殺意が……痒い。
気づけば住んでいた家屋は灰塵と帰していた。
無意識の殺意が起こした悲劇だった。
それが明くる年も明くる年も繰り返されてきた。
申し訳なさに胃が痛んで殺意が湧いた。
ある日、唐突に魔王様が仰った。
「俺、魔王辞めるわ」
お言葉通り魔王様は退位なされ、それに伴い魔王軍も解体となった。
各々に散っていく中、私だけ一人動けずにいた。
一体これから私はどうすればよいのだという言葉だけが脳内に散乱していた。
しかし答えは案外すぐに出た。
それは、
「よし、修行しよう」
剃髪し修行僧となった私の日々は辛く険しいものだった。
些細なことですら湧き上がる殺意をひたすらに鎮め続ける日々。
座禅に足が痺れようが、滝に打たれたようがひたすらに迸る殺意を鎮め続けた。
そして今、私の心は月を鮮明に映す水面のように凪いでいた。
殺意も何もかもを超越し明鏡止水へと至った私の心は例え天地が割れようと動じないだろう。
ブーンっ
む? 蚊か。はは、最早お主も我が不動の前には敵では、
ブーンっ
敵では、
ブーンっ………ぶすっ
むはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
ぶち殺してやる!
虫風情が調子に乗るなぁぁぁぁぁ!!!
死ねぇぇぇぇぇぇ!!
「なぁ、最近大規模な山火事が起きたらしいぜ」
「物騒なもんだな」