2話「薄くて何が悪いッ!」
良い具合のサブタイ思い付きません……。
誰だよこの方式にした奴←
「ふぃ〜、今日も終わった」
魔王改め、元魔王クロノは生活の繋ぎとしてバイトをしていた。
そして今日も恙無く業務を終え帰宅の途についていた。
「ん?」
前方になにやら行列ができていた。
列を目で辿れば先は本屋だった。
「行ってみよう」
クロノも興味本意に列に混ざる。
そろそろとなると列の目的も分かった。
どうやら有名らしい漫画家の即売会らしい。
しかし本人の姿はいまだ列で見えない。
5人、4人、3人、となってきたところでようやく姿が見えた。
「……は?」
漫画家は女性だった。
しかしそれはクロノもよく知る人物。
(故)魔王軍幹部『色欲』のアリス、その人だった。
「まさか、お前が漫画家やってるなんてな〜」
「え、えと、………はい」
『色欲』のアリス。
彼女は人間とサキュバスの混血であるハーフサキュバスであり、幻術を得意として数々の戦果を上げてきた幹部の一人である。
豊満な体しており、当時は露出の激しい服装で敵味方共々に魅了していたものだが、今はどうだろう。
露出はむしろ0に等しく、服装は大人しめ。
そして何より目を引いていたはずの山は限りなく平原に地盤沈下していた。
その部位だけというより体自体が全体的に幼くなっている。
幼いとか言っても元が大人っぽすぎただけで今は胸部装甲を除けば平均ぐらいだけど。
それに言葉遣いも常に色っぽさを滲ませていたそれは片鱗すらなく、一人称など「私」から「ボク」に変わっていた。
曰く、嘗められないために姿は幻術で誤魔化し、それに合わせて言葉遣いも変えていたのだと言う。
「いつからだ?」
「………五年前くらいからです」
五年前といえば人族と魔王軍の戦闘が一番苛烈を極めていた時期である。
その頃は魔王も含め魔王軍全体が常に気を張って拠点がピリピリしていた。
アリスも巧みな幻術で敵軍を翻弄し大いに戦果を上げていた。
しかしその裏では僅かな暇を全て原稿に費やしていた。
「あの頃は締め切りがヤバくて……」
「もしかしてやたらと手やら首やら痛めてたのは……」
「はい。貫徹続きで辛くて」
「はぁぁぁ……」
魔王はあの頃、まさか幻術使いのアリスに攻撃を当てるほどの使い手がいるのかと思ってかなり警戒していた。
しかし蓋を開けてみればただの腱鞘炎。
マジであの頃の緊張を返せと叫びたいクロノであった。
「んで、どんなん書いてんだお前」
「え、えと、いや、そのぉ、魔王さまにお見せするほど物でもないかな〜って……」
「俺はもう魔王じゃない。クロノと呼んでくれ」
「………クロノさまにお見せするほどの物じゃないです」
そう言い本を体で隠すアリス。
「そう言わずにさー」
「だ、ダメです!」
「だが断る!」
「だがしかし断る!」
頑なな拒否である。
余程見られたくない物らしい。
「そんなに嫌がるなら仕方ない。諦める」
「ほっ……」
「と、思っていたのか! 隙あり!」
「あ!!」
「どれどれ〜。…………な に こ れ」
そこに描かれていたのは熱く口づけを交わし合う美少女と美少女だった。
所謂、百合である。
己の所業を知られたアリスは顔も耳も真っ赤にしてぷるぷると俯いていた。
「……………」
「……………」
「…………………あの」
「……………」
「…えっ……と」
無言になったクロノにアリスはなにやら言おうとするが上手い言い訳が湧いてこない。
最早虚空を一点に見つめて言い訳をなんとか捏ねようとしているアリスの横でクロノはひたすらにページをめくり続けていた。
「いいな」
「………………ふぇ?」
「わりと好きかもしれん、これ」
自分でも意外なくらいに好きだな。
「こういうのまだあるか?」
「い……家にあります!!!」
「今度貸してくれないか!?」
「わわ分かりましたです! 同士よ!!」
そして元魔王とその元部下による薄い本で繋がった新たな関係ができた。