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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

私は最強の○○になりたい

 世界には二種類の人間が居る。

食うか食われるか。ちなみに私は食う側の人間。


他人をムシャムシャ食べる訳では無い。

俗に言う闇金融だ。金を貸して高金利を吹っかけて回収する。

ターゲットは世の中に弾きだされた社会性の乏しい人間達。


 今も金を回収しにボロいアパートのインターホンを連打している。


「おーい、海藤さーん、居るんでしょー? 居ないなら居ないって言ってくださいー」


今はクソ暑い夏。エアコンの室外機がしっかり回っている。

居留守するなら切れや。


「居ないって言わないって事は居ますよねー、早く開けてー、お金返してー」


ピンポンピンポンピンポンピンポン連打。すると中から「居ません……」と小さな声で返事が来た。

そうか、居ないか。居ないなら仕方ない。


「じゃあ……確か山口の実家に妹さんが居たっけ……そっち行くか……」


するとドタドタと中から足音が。

玄関を開け放ち、ボッサボサの髪にトランクス一丁の男が出てきた。


「い、妹になにする気だ!」


「その前にお前が私に何する気だ。せめてズボン履け」


開け放たれた玄関から土足でボロアパートの中に。

部屋の中にはビールの空き缶、お菓子の空袋やペットボトルが足の踏み場も無いくらいに散乱していた。


「汚ねえなぁ……お前さー……ビールとか買う余裕あるなら金返せよ、今いくらか分かってんの?」


「ぼ、暴利だ! 最初借りたのは五万だった筈だ! それが何で数百万になるんだよ!」


「今現在三百万飛んで十五円ね。で? 金あるの? ないの?」


「あ、ある分けないだろ! そんな金! さ、詐欺だ! 警察行く!」


「あっそ、じゃあ五万でいいよ。それで借金チャラ。はい、五万払って」


だが、それでも渋い顔をする男。

モジモジしながらタンスの引き出しを開け、封筒を手渡してきた。


「なんだ、金あるじゃ……」


封筒の中を確認する私。中には三千円しか入ってない。


「おい、五万も無えじゃん……何この三千円」


「ぜ、全財産です……」


カレンダーで日付を確認。確かこの男の給料日は二十日だった筈だ。

今日は二十一日。


「お前……給料は?」


「え、えっと……その……」


モジモジ……モジモジ……と太ももを擦りつける男。

腹の肉がタプンタプン揺れている。


「モジモジすんな、気持ち悪い……金どうしたんだよ。もしかして……私の他にも借金抱えてんのか?」


「え、えっと……キャバクラで……」


皆さんはプロレスは詳しいだろうか。かつて、ジャイアント馬場が力道山によって使用禁止にされた技がある。

それが脳天唐竹割りという技であり……私の得意技でもある。


というわけで食らえ!


「い、いたいッス!」


「いたいッスじゃねえ! キャバクラで残り三千になるまで遊ぶってどういう事だ! ここの家賃は?! 確か先々月から滞納してたよな!?」


「え、えっと……まだ払ってないッス……」


皆さんはプロレスは詳しいだろうか。かつて、ジャイアント馬場が力道山によって使用禁止にされた技が……


というわけで食らえ!(二回目)


「い、痛いっす!」


「大家さんに土下座して来い! 私に土下座するのはその後でいいから! お前住む所無くなったらマジで死ぬぞ!? どうすんだ!」


「え、えっと……お金貸してください……」


私の中で何かがキレた。ダメだ、コイツ。


「お前さー……キャバクラ行くくらいなら私に言えよ。良い女紹介してやるのに……」


「え、そ、それって……ヤーサンっすか……」


「違う。服着ろ。お前もうだめだわ。売り飛ばすから」


「え、そ、それって……か、勘弁してくださいッス!」


「ダメ! もう堪忍ならんわ! 給料日狙って来たのに五万すら無いってどういうことだ!」


鞄から携帯を出し、いい加減なんか臭いので窓を全開にしてベランダに出る。

そのまま私が懇意にしているオカマバーのオーナーに連絡を取る私。


「あー、花子ちゃん? 私私、あのさー、一人紹介したいんだけど……うん、紹介料五万でなんとか……え、ダメ? そんなぁー、そこをなんとか……」


と、その時腰の部分に強烈な熱を感じた。

例えるなら、アントニオ猪木の燃える闘魂を流し込まれたような……


後ろを振り向くと、震えながら両手を真っ赤に染めている借金男。

そして私の腰には包丁が刺さっていた。


「お前……」


「お、俺は悪くない……俺は悪くない……」


あぁ、こいつ本当にバカだ……。

私の所で金借りる時点で分かってた事だけど、ここまでバカだとは思わなかった。


そのまま膝から力が抜け、汚い部屋に倒れる。

せめて部屋を片づけてから刺してくれ……。

あんまりだ……。うわ、目の間に使用済みのティッシュが……


最後の力を振り絞り、なんとかそのティッシュだけを遠くに投げ捨てた。


「う、うわぁぁあ!」


逃げやがった、アノヤロウ……携帯からは花子ちゃんの声が。


『ちょっと! どうしたのよ! 大丈夫!?』


あぁ、なんか凄い眠くなってきた。

思ったより痛くないな……と言う事は死ぬのかな……。


やけに冷静だな……次生まれ変わるなら……そうだな、海の生き物がいい。


ぁ、でも食われるのは嫌だ。イカとかタコとか食われそうだな……サメが良いかな……。


ぁ、でもサメも人間に食われるか。サメの中でも最強で、人間じゃ狩れないくらいのデカイやつがいいな……


もし、生まれ変われるのならの話だけど。





 青い。ひたすら青い世界。

ここは……なんだ、あぁ、海の中か……。


気持ちい。私やっぱ死んだのか。

死ぬと海の中に戻るんだ。初めて知った。


あぁ、最高だ。最高の気分……


『はーい! みんなー! 大きな声で呼んでー! せーのー!』


って、ぎゃぁぁぁ!

な、なんだ! 耳が、耳が痛い! 

ん? あれ? 耳って何処だっけ……ん、っていうかなんか……体が思うように動かん……


『ルーナー! シャチのルーナちゃーん!』


ぎゃぁぁぁ! 声が! うるせえぇぇ! 誰だ! 上か?!


そのまま勢いよく上へ上へと昇る私。水面から飛び出し……って、あ?

周りには衆人観衆、円形のステージ、そして海……っていうかプール?


ん?! なんか……水面にシャチが映って……


えぇぇ! わ、私……シャチ?!


そのままザッパーン、と再び水の中に潜る。

その直後、きゃぁーと楽しそうな悲鳴が聞こえてきた。


ま、間違いない。私……シャチだ。

そしてここは水族館か。良く見たら水槽の中じゃん! 外から私を物珍しそうに見る人間が居る!


『はーい! じゃあもう一回呼んでみましょうー! 今度はゆっくり出てきてねー! ルーナちゃんー!』


むむ! またお呼びか!

なんかだんだん記憶が蘇ってきた。私は闇金業者……じゃない、水族館で生まれ育ったシャチのルーナ。

あのお姉さんの名前は雨宮 桜。優しい私の天使! 天使が呼んでいる! 


今度はゆっくりと出てきてねと天使が言っている!


ゆっくり……ゆっくり……って、まてゴルァ!!


再び勢いよく水面から呼び出し、客に水をぶっかける私ことシャチのルーナ。


「ちょ、ルーナ! ゆっくりって言ったでしょ!」


マイクを切って桜さんが話しかけて来る。

そんな事言われたって……私は闇金業者のシャチよ! いや、人間だったのよ!


ムム、記憶が混濁してる……私は闇金業者で……シャチで……水族館で生まれた人間で……。


「ルーナ! 次ステージに上がってね! 分かった?!」


ン? あぁ、あれか。うん、分かったでござるよ、桜ちゃん……ってー! 違う! 私は金を回収しにアイツの家に行って……刺されたんだ! それで死んで……


『はーい! ではルーナと、そのお友達の紹介をしまーす! ステージに上がってー!』


お友達……他にも何か居るのか?

仕方ない、ステージに上がってやるか。

桜ちゃんを困らせる訳には……いやいや、私は金を回収しないと……あぁ、わ、私はどうすれば……!


『あれー? ルーナ遅いなー、ルーナー!』


はっ! 桜ちゃんが困っている!

早くステージに上がらないと!


そのまま助走? を付けて一気にジャンプ! ステージの上へ!

滑るように桜ちゃんの傍に……傍に……って、なんか居る。


「ふぉぁ! 姉さん近いッスよ! もっとゆっくり上がってきて下さいッス!」


な、なんだコイツ……アシカ?


「何言ってんすか。アシカのアッシーっすよ。ボケたんすか?」


なんか凄いデジャブが……いや、あれは違う小説か……。


っていうか……アシカのアッシー、凄い美味そう。

脂肪が良い感じに乗ってて……


「ちょ、ちょぉぉ! なんちゅう目で見てんるんッスカ! ぼ、僕は食用じゃないッス!」


あ、そうなの?

てっきり私のエサかと……。


「何いってんすか! 長年のパートナーじゃないッスカ! 本気で僕の事忘れたんスカ?!」


んー……お、だんだん思いだしてきた。

そうだ、アシカのアッシー。私と幾度となく関節キッスを繰り返してきた仲だ。


「勘違いされそうな言い回ししないでクダサイ! キャッチボールっすよ! ボールをトスしあってるだけッス!」


フフ、恥ずかしがり屋め!


「も、もう姉さんとはボールで遊ばないッス! たとえ桜ちゃんの指示でも!」


その時、ちょうど桜ちゃんがボールを出して来た。


『ではではー! ルーナとアッシー、一緒にバレーボールしたい子ー!』


はーい! と手を上げる子供達。

ふむふむ、子供をステージに上げてバレーするのか。

そういえばなんか練習したような記憶が……。


「ふんだ! 姉さんとなんかバレーしないッス!」


いつまで駄々捏ねてんだ……アッシー、ごめんて。


 数分後、桜ちゃんが一人の子供を選んでステージの上に連れてきた。

おぉ、人間の子供ちっさい。私こんな生き物だった時があったのか……。


『ではではー! 皆も一緒に応援してねー!』


桜ちゃんが子供にボールを渡し……アッシーにトス!

でもアッシーは今だに拗ねている!


「ふんだ! ボールなんか……って、えぇ!」


そんなアッシーに体当たりしてプールに突き落とし、私がボールを桜ちゃんにトス!


『えぇ!? ちょ……何してんのルーナ!』


思わず素の状態でマイクで叫びながらトスする桜ちゃん。

会場は大盛り上がりだ! 客席が爆笑で包まれている!


「う、うぅ……姉さん酷いッス……」


そこに戻ってくるアシカのアッシー。

ヨタヨタと桜ちゃんに慰めて貰おうと近づいている!

なんて奴だ! 桜ちゃんは私の天使……って、違う!


いかん……すっかりシャチとして順応してる。

私は人間なのに……こ、こんなの何かの間違いだ!


夢か!? そうだ、夢に違い無い……起きろ……起きろ!


と、その時頭の上にボールが当たる。

そのままプールまで転がっていくボール。


『はーい、ルーナの負けでーすっ!』


な、なに!? 私の負けだと?!

桜ちゃんは子供にマイクを向け、頭を撫でながら褒めたたえている。


うぅ、私も桜ちゃんに褒めてほしいぉ……

どうすれば褒めて貰えるのかしら。


ぁ、とりあえずボール取ってくるか。


 桜ちゃんが子供にインタビューしている間にステージ上を滑って移動し、プールの中へ。


むふぅ、やっぱり水の中が一番気持ちいな。

プールと言っても、ここは巨大な水槽。

私が泳ぐ様を人間が見て喜んでいる。


ふふ、憧れの眼差しで見おってからに!


あ、ボール回収しないと……。


 そのままボールを回収しようと水面に上り顔を出すと、何やら会場から酷い悲鳴が。


「に、にげてー!」


ん? なんじゃ? 

どうせ……またショーか何か……と、桜ちゃんの方を向くと必死に子供を抱きかかえて守ろうとしていた。


なんだ、マジでなんか震えてるな。どうしたんだ?


「姉さん! 大変ッス! ホオジロザメっすよ!」


な、なんじゃと! この水族館そんなモンまで飼育してんのか?!


「いや、違うッス! 海水を取り込む為のトンネルから入ってきたんすよ! 今桜ちゃんが狙われてるッス!」


何ぃ!! おい、アシカ! お前囮になれ! 私が二人を避難させりゅ!


「え、えぇ! そ、そんなん無理ッス! 相手は野生っすよ……!」


っく……ホオジロか何か知らんが……私の桜ちゃんに手は出させぬ!


水の中に潜って当たりを見回すと、ゆっくりとステージ上を意識するように旋回しているサメが居た。


奴か! おい、貴様! さっさとデテイケ!


「……あ? おんどりゃ誰に口聞いとるん。儂は天下の……」


御託を並べるサメに特攻し、背ひれに噛みつく私ことシャチ!

フカヒレよこせゴルァ!


「いだだだだだ! いきなり噛む奴がおるか! ちょ、痛い痛い!」


うるせえ! だったら出てけ! ここはお前みたいな凶暴な奴が来ていい場所じゃないぞ!


「や、やかましいわ! エサが無いんじゃ! この水族館に全部持ってかれたんじゃ! だったらここは儂のエサ場じゃゴルぁ!」


なんて滅茶苦茶な奴だ!


だったら私がお前を食ってやる!

シャチは海のギャングだぞ!


「じゃかしいわ! シャチがホオジロザメに勝てるわけあるかぁ!」


【注意:水族館などではフレンドリーで可愛いシャチですが、実際はホオジロザメを捕食するほど獰猛な生き物です】


「ま、マジで……?」


作者の解説が初めて役に立った!

驚いて放心しているサメの腹に食いつく私!


キャビアよこせゴルぁ!


「いだだだだ! そんなもんあるかぁ! ちょ、分かったから! 出てくから!」


むむ、そうか。

ならば許してやろう。


「って、んな訳あるかぁ! エサが無い言うとるやろが! 上の人間食ってやるわ!」


そのままステージの上に登ろうとするサメ!

おのれ、騙しやがったな! 元人間の私を騙すとは何て奴だ!


っていうか桜ちゃんに手だすなぁ!


助走を着けてステージに上るサメ!

私もサメの行く手を阻むように上り、体当たりしながら再びプールの中へと突き落とした。


「おんどりゃ! 邪魔すんなや!」


ふざけんな! 桜ちゃんに手出すな……って、なんか腰の当たりが熱い。

例えるならアントニオ猪木の燃える闘魂を流し込まれたような……


って、なんだコレ……銛?

え、なんで私に刺さってるん……


「ふはは! 馬鹿め! 狙い外しおったな! 今の内に人間食うたるわ!」


ちょ、やばい……体が動かん……


あぁ、これじゃあの時と同じじゃないか……


このまま……また……


と、その時目の前を数体の黒い影が横切った。


奴らは……


「もう大丈夫よ。頑張ったわね」


私の体を支えるようにして運んでくれるシャチ。


他にも数匹のシャチが駆けつけ、ホオジロザメを抑え込んでいた。


あぁ、ダメだ……なんか凄え眠い……


「ルーナ! ルーナ!」


ぁ、桜ちゃん……無事だったのか……


よかった……


私の……天使……






 ――数か月後


 銛を打たれた私は数か月集中治療を受けた。

もう普通に泳ぐ事は出来ず、恐らくストレスで死んでしまうだろう、と獣医達が言っているのを耳にした。


 そんな私は、今アシカのアッシーとボールのトス練習をしている。

リハビリのような物だ。もう普通に泳ぐ事が出来ないなんて嘘だ。

私は意地でも元に戻って見せる。


「姉さん……少し休みましょうって……体に障るっすよ」


五月蝿い、黙って付き合え。

私はやらんとならんのだ!


「はぁ……人間だったころの方が楽だったなぁ……」


あ?

何いってんだコイツ。お前アシカだろ。


「あぁ、いいッス、別に信じて貰わなくても……姉さんが銛で刺された時思いだしたんッス。俺、人間だったころに借金取りを刺殺しちゃってて……はぁ……その直後に階段から滑り落ちて死んだんッス」


な、あれ!? こいつ……もしかして……


「あーあー、あの頃は良かったなぁ……金借りてギャーギャー五月蝿い女さえ何とかすれば……生きていけたし……」


ふ、ふむ……なるほど……良く分かった……


「って、姉さんどうしたんッスカ。なんか凄い顔して……」


「アッシー、いや、海藤。今からお前食うから。私の血肉となれ!」




その後、アッシーを追いかけ回しながら泳ぐ練習をした私は、なんとかショーにも出れるくらいに回復した。




「おい、アッシー。かき氷買ってきて」


「アシカに何言ってるんですか……」




これからも私はシャチとして過ごして行くんだろう。

だが一つだけ変わらない事がある。


私が私である事。


シャチだろうが人間だろうが、私は奪う側の存在で有り続けよう。


いつか、大切な人を守れるように。



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