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一件落着、地の神殿へ


あれから。


「ご心配をかけて、すみませんでした…」

皐と一緒に宿に戻った愛は、ランスに向かって頭を下げた。


「ああ、いや。無神経なことを言った僕が悪かったんだ。ごめんね」

「いえ、そんなっ!」


「まぁまぁ、神子様も無事に戻ってきたんだしいいんじゃねぇの?」

謝り合いに発展しそうなところをハルトが止める。


「あ、そのことなんですけど」

「なんだサツキ?」

「それです。愛ちゃんのことも、名前で呼んでやってください」

「しかしそれは…」

「大体、彼女は神子なんて名前じゃないんです。なのにそう呼ばれまくったら、自分自身を否定されている気分になるでしょう?」

「考えてみれば、神子様と呼んでいれば身分がバレてしまうというのも、この先考えられる。次は確か…」

「うちとは犬猿の仲であるあのマキニア国を通ってかなきゃいけない、んだよねぇ…そう考えたらここらで身分を隠すために名前で呼び合った方がいいかもってのはあるか」

「そんじゃ、マナ、って呼ぶけどいいのか?」


「はい、お願いしますっ!」

愛が嬉しそうに返事をする。


「あ、やっぱ呼び捨てにしていい?あんまり友達にちゃん付けしないんだよね…」

「う、うん、大丈夫だよ」


そしてその翌朝、一行は地の神殿に向けて旅立った。


「ねぇ、昨日言ってた、犬猿の仲って、どういうこと?」

「あ、ああ…初代の王同士の仲が悪くて、それが今の時代まで続いた国らしいんだが…みんなよく分からないうちに敵対視してしまっているから、どうにもな…」


「国の特色として見れば火山が近いから、温泉が多い」

「へぇ…」

「まぁ、実際は敵国というわけでもないんだが…微妙な関係ってわけで、極力素通りしたいところだな…」


そんなことを言っている内に数日が経ち、いよいよ神殿近くの国境にさしかかろうとしていた。


普通の旅人の振りをして国境を抜ける、というのが今回の方針だ。


ただの御者に変装したジル以外の全員が馬車の中に入り通り抜ける。

怪しくない限りは国境の門番も引き止めることはないという。


国境を越えてまたしばらく山道を抜けると、地の神殿にたどり着いた。


外見は砂漠の遺跡といった風合いで、地の神殿にふさわしい作りをしているようだ。



「地の神殿は、今まで修繕などでは人の手が入ってないらしいね」

「それだけ頑丈なのか、それとも…」

「…?何か臭わないか?」

「何の臭いだ?」

「火薬のような……」

「火薬?」


ジルの言葉に、他の面々が首をかしげたその時。


「え…?」

さして大きな音もなく、愛の足元の床が崩れ落ちる。


「間に合え…!」

皐は駆け出すと、思い切り愛を突き飛ばした。

すると、皐の目論見通り愛はハルトたちの方に倒れこみ、皐は崩れる床に飲み込まれていく。


「サツキ!!」

ヒロトがすんでのところでその手を掴んだが、彼の足元もまた崩れ。


「くそ…っ」

落ちていく中で、掴んだままの皐の手を引き寄せたヒロトは、彼女の身体を包むようにして抱きしめる。


強い衝撃を受けて二人は気を失い、頬の砂の感触にやっと自分たちはかなり下まで落下したのだと理解した時には、入口にいた皆が既に神殿内を進んだあとだった。


「…っ…いたたたた…」

目を覚ました皐は起き上がろうとするが、身体が動かない。

何事かと思うが、目の前にある端正な顔でどういうことか理解できた。


「ちょ、ヒロト…起きてっ!」

「う…ここは…そうか、下まで落ちたのか」


ヒロトが起き上がると同時に身体の拘束が緩んだため、皐も起き上がる。


「ぐ…っ」

「えっ、どうしたの?!」

「いや…なんでもない」

「なんでもないわけないじゃん…私を庇ってくれたからでしょ?」

「まぁ、そうなるだろうが、大丈夫だ」


そう言うと、ヒロトは痛み止めの薬液を一気に飲み干す。


「とりあえず、兄貴たちと合流しないとな…足音は聞こえないから、近くにはいないだろうし…神殿を進んだんだな」

「多分…でも、どうして床がいきなり落ちたんだろう…」

「そういえばジルが、火薬の臭いがどうのと言ってたな…」

「っじゃあこれ、人為的に起こされたってこと…?」

「そうだとしても、一体何が目的で…まさか、精霊の解放を阻止しようと…?」

「え、何で?」

「精霊が解放されると、その土地の持つ力は活性化する。ただ、ここのエレメントが活性化したら…」

「地の神殿の近くだから、火山の活動が活発になるかもしれない…?」

「ああ。焔の精霊も既に解放された今なら…おかしな話じゃないだろうしな」

地と焔。どちらの要素も豊富に含む火山は、間違いなく活性化するだろう。


「じゃ、じゃあ、ここの精霊を解放したら次に急がないといけないんじゃ…」

「そうだな。しかし、冷静に考えてみると、風の神殿を最後にした理由が分かる気がする…」

「え?」

「セントマギアにある城からそう離れてない場所にあるんだ。だから…」

「風の精霊が解放されれば、風に関する災害に襲われるかもしれない…ってこと?」

風に関する災害は、台風や竜巻、その他諸々。

どれも大惨事を招くものだ。


「可能性はある。だから、世界を救うことが出来るからといって、神子を大々的に歓迎していないのはそういうことだ」

「…目先のことが大事だから?」

「そうなる」

「……そんなの、神子がただの生贄みたいじゃん…!」

「生贄…そうなのかもな。大災害が起きても神子が精霊を解放したせい、魔族との戦いに勝てなくても神子が無力だったせい…そして魔族を倒せた場合にのみ賞賛される。そして用が済めば元の世界に帰す。歴代の神子の中には、王族の見栄から帰してもらえず、死ぬまでこの世界にいたという話もある。現実なんて、そんなものだ」

「……」

確かに、そうだ。

皐が今まで知る物語でも、そういう華々しい面からは見えない裏が見られるものはあった。

その時は幼心にもよく考えられているな、と感心するばかりだったが、こう物事が分かるようになって、その当事者側になってみると、複雑だ。



「俺たちがちゃんと神子様を助けて、魔族を倒せばいい話だ。そのためにも早く合流しよう」

「…そうだね…って、また神子様呼び」

「ずっと神子様と呼んでいたからな…まぁ、本人の前では気をつける」

「ホントかなぁ~?」


とりあえず二人は、石造りの神殿内を上へ向かうように進むことにした。


「ところで、聞きたかったんだが」

「うん?」

「あんたはどうして戦えたんだ?あの身のこなしは素人のものじゃないだろう?」

「…あー…私、子供の頃に武術習ってたんだよね…」

「武術?」

「小柄だったからね。心配した両親が少しでも怪我をしない身体捌きを覚えて欲しいってことで、結構長くやってたかな」

「そうか、それで…今はやっていないのか?」

「色々忙しくなって、やめちゃった。…とにかく、私がなんとか動けたのはそれが理由」

「だったら実戦を積んだわけではないんだな」

「そりゃそうでしょ」

「それなら、なるべく無理はしないでくれ。あんたを守るのは俺の役目だ」

「あ、そっか。帰るまでは護衛任務も解けないんだよね」

「……そうだな」

「それまでは、よろしくね」

「…ああ」


しばらく二人は黙ったまま歩く。

会話をしていては爆薬を仕掛けた人間に位置を知らせるようなものだし、愛たちの足音も聞こえにくい。


そんな風に静かに動いていたからか、戦闘音がはっきり聞こえてくる。


「この音は…急ぐぞ!」

「うん!」


そこは既に祈りの間の手前だったらしく、愛はいない。


扉を守るように立つランスと、その前を固めるハルト、ジル。


「っ加勢する!」

ヒロトはそう言うと、ハルトに並ぶ。


「よく無事で戻ってきたな、怪我は?」

「二人とも、少し体を打ったくらいだ」

「ならよかった」


「神殿の床を崩してまで分断したのに…しぶとい奴らだ…!」


「何故自国の神殿を崩す必要があったんだ!」

「何故だと?!地の精霊を解放することがどういうことか、分かって言ってるのではあるまいな!」

「大地の力の活性化…このまま火山活動が活発化すれば、近隣の村などひとたまりもない!」

「それでも精霊を解放するのか、貴様らは!」


「そうしなきゃ、人は魔族とやりあえない」

「だから村の一つや二つ、犠牲になるのは仕方ないというのか」


そんな事を言う男に、ハルトたちは口を閉ざす。

その沈黙を破ったのは、皐だった。


「じゃあ、あんたらが魔族の親玉を倒してきてよ。今すぐ」


「なっ」


「今日明日災害が起きるわけでもないのに精霊の解放を止めるってことは、精霊を解放して人間自体の力を底上げしなくても勝てるんでしょ?」

「で、できるわけないだろう!」

「大勢の人のために頑張っている人を、何もしないで見ている人が、自分たちの都合だけで邪魔するなら…私も自分の都合で、あんたたちを倒す」


どちらにせよ文句しか言わないのなら、障害とみなすまでだと、男たちを睨みつける。


「小娘が我らマキニアの騎士を倒すだと?片腹痛いわ!」

「そうだ、やれるものなら、やってみるがいい!」


皐に向かってくる男たちに、彼女は冷え切った目をしながら自分に強化魔法をかける。


「はっ…!」

生身で本物の瓦を割ることに比べれば、強化された身体で破壊する騎士の防具など板切れを割るようなものだ。


「ぐぁ…っ」

呻き声を上げた男が、防具の破片をまき散らしながら吹っ飛んでいく。


「まだまだぁあ!!」

「させるか…!」


皐の死角から振りかぶられた剣を、ヒロトが受け止める。


「確かに文句も邪魔も…魔族を倒せる方法を思いついてからでないと、迷惑なだけだな」


剣の腕だけなら魔法騎士団でも郡を抜くヒロトは、相手の騎士を軽くいなしていく。


「く、くそ…」

「おっと。確かに威厳はないが、俺だって魔法騎士団引っ張ってんだ、簡単にやらせるか、よ!」

ハルトが使っているのは魔法を撃ちながらでも使える片手剣だ。

男が使っているのは重い両手剣だったが、ただの斬り払いだけでそれを弾き飛ばしてしまった。


「神殿を破壊したのは貴殿らだ。地の精霊が怒るとしたら、そちらだろうな…同情はしないが」


ジルが短刀を突きつけて冷たく言い放つと、劣勢と見た男たちは退いていった。



「お待たせしました…あっ、皐ちゃんにヒロトくん…無事だったんだ、良かった…」

「心配かけてゴメンねー」

「本当に心配したんだよ!怪我とか、してない?」

「私は、ヒロトに庇ってもらったから大丈夫だけど…」

「俺も身体を多少打っただけだ、問題ない」


皐はヒロトを心配そうに見るが、彼はぶっきらぼうにそう言い返す。


「…ヒロト、その態度は…」

「ジル、よく見てみろ。心配されるのは嬉しいが素直に礼を言えず照れてるだけだ」

「照れてない!というかなんだその長ったらしい説明は!」


古びた神殿に、そんなヒロトの声が響いていた。


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