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抱えた悩み、追いかけて


「え、鳥山さん?!」

皐が驚いて声を上げる。

部屋の中にいたのは、おそらく愛を呼び止めようとして片手を上げたままのランス。


「ランス、何があったんだ?」

「…あの子の恐怖心に寄り添ってあげられなかったっていうか、さ…魔術師としては優秀でも、人としては半人前なんだなーって…はは…」

「魔物や戦いに対して、恐怖心が芽生えたってことか…」

「無理もありません…こちらに召喚される前は、普通の少女だったのでしょう」

「サツキが平気だったから、平気だとばっかり…」


「私と鳥山さんのメンタルを一緒にしたらダメですよ」

そもそも二次元のものが大好きで、年齢制限が出るようなアクションゲームも守備範囲である皐と全く興味のない愛では耐性が違う。

というよりも、皐はあの時ヒロトが服のことを咎めたせいで、色々なものが吹っ飛んでしまったということもあるのだが。


「とりあえず、追いかけてみますよ」


同じ世界の人間の方が話はしやすいだろうと、皐が愛のあとを追いかける。


「って、外まで出てっちゃったのか…」

この展開は、絶対まずいなぁ、と独りごちて、皐は走り出す。


「―いいじゃねぇか、一人なんだろ?」

「なーんにもおっかねぇことはしねぇからさぁ…」

「い、いや…っ」


「やっぱりね…!」

ヒロインがちょっとした揉め事で飛び出して行けば、迷子になってその末に何故かチンピラに絡まれる。

本来ならそれを救うのがヒーロー、つまりはイケメンの登場人物なのだが、追ってきた人物が自分で申し訳ないな、と皐は場違いな考えに浸る。


「すみませーん、その子私の連れなんで、その辺で」

「あ?何だこいつ」

「だから、連れだって言ったでしょ。帰ろ、鳥山さん」

「で、でも…」


「何勝手な事して…なっ?!」

男の片方が、皐の腕をつかもうとしてくる。

が、それよりも早く、皐は男の腕を掴んだ。


男はこの町の海に鍛えられた漁師だ。

たまたま雨降りの翌日で漁が中止になったから酒場で酒を飲んでいたが、左腕とはいえ、少女に掴まれ動けなくなるほど弱くはないと自負している。


「お兄さん、こんなことしてたら、奥さん泣きますよ?それ、結婚指輪でしょ?」

「あ、ああ…」

「水の神殿で挙げたんですか?」

「きょ、去年…」

「新婚じゃないですか。だったら漁の調子が良くなくても、奥さんといるだけで幸せでしょ。今日たまたま不調でも、明日はどうか分からない。でしょ?」

「そ、そうだなぁ…あいつ、今一人で家にいるんだよなぁ…」

「だったら、早く帰ってあげてくださいね」


そう言うと、男は元々気のいい漁師だったようで、連れの男にも声をかけ、帰っていった。

愛に、「すまんかった」と謝罪するのも忘れず。


「いやぁ、本物のチンピラとかじゃなくてよかったね。大丈夫?」

「う、うん…でも、どうして…」

「あのお兄さん、かなり日焼けしてたでしょ。この街であれだけ日焼けするなら漁師かなーって。酔っ払ってたみたいだし、昨日の雨で漁が不調だったのかと思って」

「そうじゃなくて!どうして、追いかけてきたの…?」

「何、私じゃない方が良かった?」

「ち、違うけど…でも、追いかけてくる理由が分からないの」

「…少し座ろう。鳥山さん、混乱してるんだよ」


昼間ヒロトと並んで座ったベンチに、今度は愛と座る。

その時の心持ちとは違い、皐はどうしたものかと頭を抱えそうになる。


「ねぇ…霧野さん…聞いていいかな…?」

「何?答えられることならいいけど」

「あの…神殿で魔物を倒したとき…怖くなかったの?」

「いいや。怖かったよ。自分が命を奪ってしまったって、そう思った」

「うん…」

「でも、それがこの世界に生きる人たちの普通なんだよ」

「普通…?」

「それを否定したら、私たちに良くしてくれるみんなのこと、否定することになっちゃう」

「うん…でも…」

「別に、鳥山さんは戦わなくてもいいんだよ。もし魔物が可哀想だと思うのなら、その魂が安らかに眠れるように祈ればいい。それが神子なんじゃないかな」

「祈る…?」


「そ。神子にはピッタリでしょ?」


「私…あの、私、霧野さんに謝らなきゃいけないことがあるの…」

「うん?」

「この旅に霧野さんを巻き込んだこと…本当は霧野さん、ついてきてくれるなんて一言も言ってないのに…私の意思で、巻き込んだの…」

「ああ言ったのは、わざとだったんだ」

「独りになりたくなくて…だって、みんな私のことを、名前で呼んでくれないの。神子とばかり呼ぶ…だから、そう呼ばないでいてくれる霧野さんに、付いてきて欲しかった。だけど、友達でもなんでもない相手に、命懸けの旅に付いてきてなんて言われても…誰もついて行かない、と…そう思って…ごめんなさい」


城で、皐が旅についてくる前提で話されていたのは、ただのせっかちではなく、不安な気持ちの表れだったという。


「んー…確かに、私にとって鳥山さんは全然違う部類の人だし、友達でもなかった。でも、だからって旅についてきてほしいって言われて断るほど、傍観者になりきれるかっていうと、そうでもないんだよね」

「傍観者…?」

「言うなれば、私は異世界人としては招かれざる者で、イレギュラー。だから、本当は傍観していることもできた。だけど…」

「だけど…?」

「…自分の立場に責任がないのをいいことにのんびり傍観するのは、立場を弁えてとかじゃなくて、怠けてるだけだと思うんだよね。出来ることがあるなら、私はそれを全力でやりたい」


旅についてきていなければ、神殿の仕掛けを自分の経験を活かして解くなんてことを出来るとも思わなかった。

魔法が使えないと諦めていたヒロトを一生懸命励まそうと思うこともできなかったと思う。


「それに、結構この旅、楽しいし」

「…霧野さん…」

「逆に、巻き込んでくれてありがとうって感じ?」

「…っ…」

「少し落ち着いたら帰ろうか…愛ちゃん?」

「っうん…皐ちゃん…!」


そうして微笑んだ愛は可愛らしく、やっぱりヒロインだなぁと皐は思わずにいられなかった。


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