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水の神殿、向き合って

前日の雨とは打って変わり、天気は晴天。

一行は水の精霊を解放すべく、神殿へと向かった。


「わぁ…綺麗…」

「竜宮城って、こんな感じかなぁ…」


愛と皐が神殿を見回して感嘆の声を上げる。


しかしそれも束の間のことだった。


「うぅ…湿気と濡れた床が…」

「水の神殿だからねぇ…」


「水中にあるとかじゃなかっただけまだマシだと思おう…そうしよう…」

「何を一人でブツブツ言ってるんだ。前回みたいに置いて行かれても、俺は知らないからな」

「ちゃ、ちゃんと歩いてるじゃん…」


皐は不服そうに、それでも滑らないように歩を進めているが、先に歩けるはずのヒロトが皐とそう変わらない速度で歩いていることには、皐はもちろん本人ですら気づいていなかった。


「この部屋は、水を凍らせないと先に進めないね」

ランスがそう言ったのは、まるでプールのようになった部屋だ。

その奥が祈りの間に続く部屋のようで、とても広いのが分かる。


「足場を作るくらいでいいんじゃないか?」

「神子様がいるから、出来れば全体を凍らせたほうが安全だよ」

「そりゃそうだけど…余力を残さなきゃいけない。平気そうか?」

「魔法自慢がもう一人いるからね…って言っても魔力量が足りないかな…」


「…俺が、やってみます…魔力量なら、あるので」

「いやいや、そもそも魔法力がゼロに等しいんだよ?」

「けど、魔力がゼロになっても問題なく戦えるのは…俺だけでしょう」

「そりゃそうだけど…」


ヒロトは魔法が使えないと思っているからこそ渋るランス。

役職を取り除いてしまえば友人の弟だ。

やってみてまた使えなかったら、今度こそ精神的に立ち直れなくなるのでは、という危惧もあるのだろう。


そんなランスを横目に、ヒロトは皐に近づいていく。


「…力を、貸してくれないか?」

「えっ」

「あんたが言ったんだろう。俺の魔力を使って、あんたが魔法を放出する。そうすればいいと」

「…そうだけど…さんざん渋ってたじゃん…」

「でも、今なら出来る気がするんだ。頼む」

「分かった。やってみよう」


「…糸を繋ぐというのが想像出来ないから…肩に、手を置いていいか?」

「うん…えっ?」


皐はそう頷いたものの、正面に立ったまま肩に手を置かれ、困惑した表情を浮かべた。


「って、おーい。ヒロト?緊張してるのバレバレだぞ。正面だったらお前が氷漬けだぞー」

「そ、そうか…そうだった…」


ヒロトは皐の後ろに回って、肩に手を置いた。

皐は、自分のものではない魔力が身体を満たすのを感じ、手を前に差し出した。

イメージは、どんなに重いものが乗っても割れないスケートリンクだ。


「…っ出来た…!」

「これを、子供より魔法が出来なかったヒロトが…?」

「二人分の魔力と魔法力か…すごいな」


危なげなく氷の床を渡り、愛は祈りの間、その他はその前の部屋で待機する。


「…俺にも、魔法が使えるんだな」

「魔法を使ったのは私なのに~?」

「魔力の元は、俺だ。なら、俺が使ったと言ってもいいだろ」

からかうように言った皐に向かい、ヒロトは拗ねた口調で開き直る。

その口元は少しだけ上がっていた。


「あはは…吹っ切れたんだ?」

「…少しは…だが、ジルとアレをやるのは、糸の感じが掴めるようになってからだな。やるとしたら戦闘中だろうし、いちいち近づいていられない」

「…ああ。そんなことをしていてはまとめてやられる」

「訓練するしかないか」

「広いところがあれば出来るな…」

「なぁジル?お前はどういう魔法を使おうとしてるんだ…」


ヒロトはそう突っ込みを入れるが、ジルは内心、恵まれた魔力の持ち主には分からないだろう、と思った。

そして、そんな気持ちをヒロトに対して抱くのはいつぶりか、とも。


どんなに成長しても変わらない魔力。

それなのに、魔法力は乏しいものとはなってくれず、使いたい魔法は増えていく一方だった。

しかし、やってみたところで子供だまし程度しか使えない。


隠密部隊に参加したのも、ジル自身の身体能力の高さを買われていたこともあったが、あまり魔法が必要な役職ではないからだ。


しかし、ヒロトは違う。

魔力自体は彼の兄以上にあり、魔法力が乏しいだけの魔法騎士。

騎士としての実力は高く、剣の腕だけなら魔法騎士団で敵うものはほぼいない。


初めは先ほどと同じ感想を抱き、その卑屈な考えに苛立ちもした。

魔法に関すること以外では似たもの同士だと分かったので、今は親しくしているが。


「…ん?」

「どうした、ジル」

「いや…何か今、声がしたような…」

「まさか、魔族が…?」

「脱出する時は、注意しなければな…」

「ああ…」


そう頷きながら、ちらりと皐を見るヒロト。


「サツキに、血を見せたくないのか」

「は?!何を言って…」

「違うのか?」

「そんなわけが、ないだろう…神子様の方を心配するならまだしも…」


そんな会話の最中、愛が祈りの間から出てくる。


「今回は一気に戻れるわけじゃないんだね」

「そんなに甘くないってことだろ」


入口付近まで戻ってくると、入口側から男性の叫び声が聞こえてきた。


「何…?!」


叫び声の方に急ぐと、ここに来た時船取り祭りの準備をしていた男たちが魔物に襲われていた。


「焔の神殿ではよくも俺様をコケにしてくれたな!」


「タライ程度で気絶したのはあんたでしょ?それとも何?アレはポーズだったって言い訳する?」


「ぐぬぬぬ…」

皐の挑発に、男は彼女を睨む。


「お前こそ、男に守られてるからそんな大口が叩けるんだろォが!これでも喰らえェ!」


「?!」

男はあっという間に皐の眼前に迫る。


「っ!」

咄嗟に防いでいなすが、勢いは殺せない。

皐はバランスを崩してしまった。


(…この服、動きにくい…!)

どうせ中にも着ているのだからと、二撃目を構える男を睨みながら服を脱ぐ。


「何故脱ぐ―…っ?!」

身体能力を上げる魔法をイメージして自分にかけ、その上で男の顔面に蹴りを食らわせる。


「動きやすい格好なら、十分やれる…!」


「…っとりあえず、この状況で戦うってんなら相手になるぞ?」


「ッチィ!置き土産だ、畜生!」

男が逃げ去っていくとともに、大量の魔物が召喚される。


「…っ?!」

「鳥山さん下がって!」


唯一明らかに戦えない愛の前に皐が立つ。


「魔物に肉弾戦をしようとするな、魔法も使え、サツキ!」


「ハルトさん…了解です!」


数々のゲームをやってきた経験上、皐は戦闘向けの魔法が得意だ。

というより、えげつない威力の魔法も多く記憶している。


「…うーん、僕、楽が出来ていいなぁ…」

ランスは本来、戦闘が得手ではない。

他の者がいるとしても、自分だけが近くにいる状況になった時、神子を守り切れる確率ははっきりと低いと分かる。

だから極力戦わなくても良いルートをと考えていたのだが。


「っていうか、強くない…?」


大量にいたはずの魔物が、あっという間に霧散していた。


「ふぅ…」

これが、数分前まであった命を奪った感覚か、と皐は自分の手のひらを見つめる。


「おい」

「ん、ヒロト?」

「動きにくい服なのは認める。だが、だからって脱ぐやつがあるかこの痴女が!」

「ちっ、痴女って何?!大体昨日から人のことを痴女痴女って…!」

「事実だろう。街に戻るまで、これを羽織ってろ」

「わっ…これ、外套…?」

「こんな水浸しの服を着たいのか?」

ヒロトが持ち上げたのは、脱ぎ捨てたせいで床の水をすっかり吸った服。


「…うわぁ…確かに着るのは、ちょっとなぁ…」

「だったら大人しく着て、激しく動くな」

「はいはい…」


皐は長い外套を羽織りながら、大人しく従うことにした。

その時、後方から鈍い音。


「え、鳥山さん?!」

「…大丈夫、気絶しただけだ…考えてみれば魔物との戦闘は初めてだ。刺激が強すぎたんだな」

床に倒れるのをすんでのところでハルトが抱きとめていたが、愛は気を失っていた。


「街に戻ったら、ちょっと診てみるよ。過剰症だったら大変だ」

「ああ、その方がいいな…」


そうして、水の精霊を開放した一行は、倒れた愛を休ませるため、街へと急ぐことになったのだった。


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