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自分の立ち位置、そして旅立ち

皐と愛が異世界、ファンタジニアに召喚されて三日。

いよいよ旅立つという日の前日の朝に、皐はやっと旅の主要メンバーの顔を見た。

そして、夜にはあることを思い出してベッドに沈み込んでいた。


「…何かこんなシチュエーション覚えがあると思ったら…この間までやってたじゃん…」


皐がハマりこんでいた乙女ゲームの中に、同じような姿の登場人物がいたのだ。

もっとも名前と細かな特徴に違いはあるのだが、異世界からの神子召喚という風習があるこのセントマギアという名前の国は聞き覚えがあった。


「名前のことは気になるけど、私の立ち位置って相手にされてないサブキャラじゃん」


攻略対象には神子のおまけとしか見られていない上、自分についた隠しキャラである護衛騎士を束縛していて、攻略時にヒロインに諭される役。


「ま、関係ないか」


せいぜい死なないようにしよう、と皐は目を閉じた。


そうしてやってきた、旅立ちの日。

神子の装束を着ている愛と、適当に用意された服を着る皐。


「…いくらなんでもこれでは守りにくいんだが」

「制服汚したら帰れないし、私としては構わないんだけど」

「動きづらいだろう。俺だけでは限界がある」

「剣の達人だって聞いたけど?」

「…剣が通らない魔物だっているんだ」

「へぇ、物理じゃなく魔法が効くってことか」

「……」


皐の言葉に、突然ヒロトが黙り込む。


「ヒロトは、昔から魔法が苦手なんだ、あまり言わないでやってくれ、サツキ」

「あ、ハルトさん」

ハルトは魔法騎士団の団長で、ヒロトの兄だという。

神子の護衛を務めるに辺り、皐を心配する愛の希望で弟であるヒロトを皐の護衛にするように進言したのも彼だという。


「魔力は俺よりも高いはずなんだが…魔法力がからっきしでね」

「魔力と魔法力って何か違うんですか…?」

「魔力はどれだけの回数魔法が使えるか、魔法力はどんな魔法が使えるかってのが基準になっているんだ」


「なるほど…つまりヒロトはエネルギーは有り余ってるのに回路がダメってことか」

「そうなるね」

「も、もういいだろう。兄貴は神子様の護衛なんだから、さっさと持ち場に戻ったらどうだ」

ヒロトのぶっきらぼうな物言いは、ハルトが団長としてではなく、兄として声をかけてきたと分かっているからだ。

皐の護衛を務めるようになってからというもの、目上への礼儀を重んじる彼の真面目さは何度か見てきた。

同時に初対面の時のあの態度には疑問が残るが、神子のおまけなのだから仕方ないとは思う。

それでも割と失礼だった気はするが。


「拗ねるな拗ねるな。そうだ、暇があればおさらいも兼ねてサツキに魔法を教えてみたらどうだ?」

「…魔法を…教える…?」

「最初から出来ないと思ってるからいつまでも子供レベルなんだ。勉強しなおすつもりで、な。それじゃあ、俺は神子様のところに戻るから」


ちょうど、愛が神官長との会話を終えたようで、すぐに一行は出発することになった。


「魔法って、ちょっと勉強すれば使えるもんなの?適性とか…ないの?」

「魔力が少ないとか、魔法力が足りないとかでなければ、大体少しは使える。俺にだって、小さな雷くらいは起こせるからな。見せただろう?」

「ああ、あれね…」

本当に静電気じゃなくて魔法のつもりだったのか、と皐は思ったが、黙っておくことにした。


「魔力は…まぁ、後で見てもらえ。魔法力について俺が教えるのもおかしな話だが、大体はどんな現象を起こしたいかで決まる。そこからどういう風に力を働かせたいかを考えて発動させる」


「じゃ、この世界における魔法は、魔法力次第で何でも出来る力ではあるんだね?」

「常識の範囲内なら」

「じゃあさ、剣を降らせたりとか出来るかな?」

「さぁ…見たことはないが」

「傷を治したりとか?」

「そういえば、神官長がやってたな…」

「じゃあ、でっかい炎で攻撃するとか…」

「ランスさんが魔物の討伐で。小規模な炎で攻撃するなら騎士団の大半が出来る」

「…え、じゃあそれは出来るんだ?」

「……大半、と言った」

「あ、うん」


つまり自分にはできないが、ということらしい。


「でもさ、それなのに何で魔法騎士団?」

「…うちの家系は、魔力が高ければ魔法騎士になる者ばかりだからな。魔力は十分である俺が例外になるわけにはいかなかったんだ」

「ふぅん…」


その日は魔物が出ることはなかったが、旅に同行している魔術師のランスが魔力を使った探知をした結果、日が暮れるまで間に合いそうにない、とのことで道中での野宿となった。


「霧野さん、ずっと歩き通しだったけど大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。変な道が少なかったからウォーキング程度のものだよ。鳥山さんは?」

「ずっと馬車の中にいたから大丈夫」

「あ、そっか」


しばらく無言で炎を見つめ続ける。


「……霧野さん、私のこと責めないんだね」

「何で?」

「だって、何の関係もないのに巻き込まれて、こんな旅に連れてこられて…」

「んー、責めるって意味が分かんない」

「え?」

「あの時手を掴んだのは私だし。旅だって、あの城にはいられないにしても、街に出て住み込みで働くってことも出来たのに旅についていくことを選んだのは私…そこに鳥山さんの意志はないじゃん」

あの時、愛の脳内で決められたであろうことを、否定することだって出来た。

だが、そうしなかったのは皐の意志だ。


「なかなか男前な考え方だねぇ」

「!」

「ランスさん…聞いていたんですか?」

「まぁ、こんな場所じゃね。それよりサツキ、キミ魔法を覚えたいんだって?」

「え?!」

「違うの?ヒロトが適性を見てやってほしい、って言ってたんだけど」

「…そりゃあ、適性があるなら…」

「なら、今から見てみようか」


ランスはそういうと、皐の前に手を翳した。


「へぇ…魔力量は可もなく不可もなく。魔法力次第ってとこだね」

「じゃあ、使えなくはない、と」

「そうなるね」


凄い才能というわけでも全くないというわけでもない中途半端な状態だが、皐はそれが自分に似合っていると思う。


「じゃ、早速適当にやってみます」

「ああ、うん、頑張って」


ひらひらと手を振られ、皐は少し離れた広場にやってきた。


「魔力さえあれば、どんな魔法かを考えれば出せるって言ってたよね…それじゃあ…」

適当に魔法の構成を考え、手を翳す。


すると。


「うわ、本当に出た!」

頭に思い浮かべたのは地面から氷のトゲを発現させる魔法。

そして皐の目の前の地面から、大きな氷柱が生えていた。


「…ってことは…ヒロトって、想像力不足?」


「俺がどうした?」


「うわわ?!」


「一応あんたは護衛対象なんだ。どこかに行くならせめて一声かけろ」

「ごめん、忘れてた。それと、ランスさんに魔法の適性のこと頼んでくれたんだってね。ありがと」

「…別に。それで、使えたのか?」

「うん」

「……そうか。何で俺には使えないんだろうな」

「えぇと、多分、発想が乏し…ゴホン、想像力が足りないんだよ」

「どちらにしろ貶されてるな」


「…でも、冗談抜きにヒロトは真面目だから、ぶっ飛んだ空想を現実に具現化する力が足りないんだよ、きっと」

真面目というより融通が利かないと言ったほうが正しい気はするが、それは言わないことにした。


「俺が、真面目?」

「そ。心のどこかで、急に爆発が起きるなんておかしい、とか思ってるんじゃない?」

「それは…子供の頃から、そうではあったが…」


「あ。試しに、私がやったのを真似るつもりでやってみなよ。そしたらイメージしやすいんじゃない?」

「別にいい。魔法が使えなくて困っているわけでもない」

「じゃあ、魔法騎士なのに魔法が使えなくても、別に何とも思わないんだ?悔しい、とかも」

「ああ。俺には剣があればいい」

「…魔法が使えないのが悔しくないならそうやって落ち込むのは何でなのさ」

「それは…」

「……ま、いいけどね」

悔しかったから剣の腕を磨いたのだろうという問いかけが口から出かけたが、寄り添うようにして接したところで"お前に何が分かる"と言われてしまうのが関の山だと思い、口にするのはやめた。


自分はただの、ヒロインのおまけなのだと言い聞かせるようにして。


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