水無月さん(仮名・男性作家さん)
面白実話恋愛エピソードですか。
私の場合、笑えない話しかないですねぇ。
何と言いますか、恋愛に必要な感情が欠けていた、とでもいえばいいのでしょうか。晩生とかヘタレとかいう表現できかないくらい奇怪な行動によって、いくつもの恋愛への道を自ら閉ざしてきました。
その都度、相手の女性には悲しい思い、嫌な思いをさせてしまったと思います。
もっとも典型的なのは、同期入社の女性でした。
うちの会社はいくつもの業務系統があり、入社後系統別に新人研修を受けていたのですが、私は営業系。女性社員はまず営業系にしかならないので、大卒女性社員はみんな一緒になりました。
営業の新人研修期間は最も長く、約二か月あまり。講義を受けたりあちこち現場へ実地研修に出る度、よく一緒になる女性社員がいました。
今思えば、しきりと何らかのサインがあったような気がします。
記憶に鮮明なのは、二人一組で高所の現場へ上がる(他系統の現場に行くのもあったのです)というのがあり、私はその女性と一緒になりました。そうしたら彼女、ずっと私の腕にしがみついたまま離れず……。まあ、怖かったのもあると思います。泣いてましたし。それにしても、ああもしっかりしがみつくものでしょうか。下に降りたとき、他の女性社員達がにやにやしていましたから、何かの含みがなかったとはいえないかと。
他の現場研修で広い工場を見学していたとき、私がふと興味のある機械を眺めていて一団から遅れました。すると、なんと背後に彼女が。てっきり自分一人だと思っていたので驚いていると「水無月さん、私のこと、好き?」(実際はもっとフレンドリーな呼び方をされていました)
……ああもう、すごい自己嫌悪です。
何がって、それにきちんと答えてあげられなかった自分が。
研修後、別々の職場に配属されましたが、彼女から年賀状をもらいました。その年賀状にはなんと「お嫁にしてください」と書かれてありました。
そこまではっきり意思表示するということは、女性にとって相当重大な決心だと思うんですね。今だから、すらりとそういう理解ができるんですけれども。
あとはもう、語るまでもありません。
結局私の態度が不鮮明なまま時は流れ、何年目のときだったか彼女は退職しました。その後聞いたところによれば、男性医師と結婚なさったとか。
何が言いたいかって、告白されていたのにもったいない、とかいうことではありません。気持ちに応えてあげることをせず、本当に彼女には申し訳ないことをしたという、後悔で一杯です。今はせめて、彼女が幸福であるようにと心から願うだけです。
胸が非常に苦しくなってきましたので、このへんにしときます(笑)