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師走さん(仮名・男性作家さん)

 僕が高校生だった頃、「壁ドン」が流行りました。

 僕は二度ほどチャレンジしたことがありましたが、実はどちらのときも壁に穴を開けてしまいました。

 今回はそのうちの一つについて書かせていただこうと思います。


 この話をするにあたって、まず、僕が通っていた高校の建物は、風が吹けば窓が揺れ、雨が降れば天井から水が漏るほど古い建物だったということを第一の言い訳とさせていただきたく思います。


 普段、別段壁が脆いなど思ったことのない場所がありました。

 そしてそれは、校舎内で一番人気のない空間を囲う壁でした。


 あるときの放課後、当時交際していた彼女とその場所でふざけて──神に誓ってまことに本当に健全な──キャッキャウフフしていたところ、ふとした拍子に全くの平面の床でなぜだか本気で足を踏み外した僕が、彼女に寄りかかる(全力でぶつかる)……なんて訳にはいかず、とっさに非常にちょうどいいところにあった近くの壁に手をついたところ、「ザシュッ」という音がし、気づいたら僕の手は十センチほど壁にめり込んでいました。

 二人とも驚きましたが、とりあえずまずは冷静に手を引き抜こうということになり引き抜いてみたところ、たまたま僕が掴んでいた壁の残骸を握ったまま引き抜くことができました。


 よし、では次ははめよう、ということになり、その残骸を──自分でもなんですがかなり上手く──元通りにはめることができ、まぁひとまず一件落着ということで、僕らは場所を変えました。


 二人の共通の帰り道に、壊れかけの小さな神社がありました。

 僕と彼女はそこへ移動して、神社の中の社の裏手で、彼女の門限ギリギリまで……あまり神様には誓えないような感じで遊んでいました。(全然関係ないですが、蚊にめっちゃ刺されました)


 そのときには数分前のこと(いくら脆いとはいえ学校の壁をぶっ壊したこと)の少々スリリングなテンションもあり、僕たちはかなりゆるい壁ドンを試してみることになりました。


 以下、神社での口説き文句、のようなものです。


「美雪」

「なに?」

「あのさ。さっきのやつ、も一回してみてもいい?」

「うん。でも、壊さないでね?」

「わかった。いきま~す……」

「──まだ?」

「ハイスミマセン」


 壁トン。(もはや『トン』)


「……今日のテスト、どうだった?」

「世界史と数Ⅱだったよね。二ヶ所わかんなかった。海斗くんは? どうだった?」

「数Ⅱはまぁ……できた、と思う」

「百点?」

「うーん、たぶん……」

「世界史の、マジマジの乱の選択肢って、答え二番で大丈夫かなぁ?」

「うん、たぶん」

「いいと思う?」

「思う」

「……ね、いいと思う?」

「……思う」


 はしょりますが、壁トンで向き合ったままその日の試験の答え合わせをして、彼女が僕の学ランをちょっと引っ張って、どちらに主導権があるのかもわからないままにキスをしました。

 互いの顔が近すぎて恥ずかしくて死にそうでしたが、とりあえず社は無事でした。

(さすがに神社を壊してしまうと祟られそうな気がしますからね。そしてこの際なんで開き直って言いますが、この頃の僕はヘタレでした)


 キスの直後(というか最中というか、した瞬間)、物音がしてヘタレな僕は飛び上がりました。

 当然キスはそこで終わりました。

 僕は心臓が有り得ないくらいバクバクしていて、一方の彼女は一人爆笑でした。

 その後、彼女を見送った僕は自転車を忘れて家に帰りました。


 このときの物音は、神社に生えていた杉の大木から、枯れた枝が落ちてきた音でした。

 あの一瞬、びびりすぎて僕は本気で自分は死んだかと思いました。


 当時僕は陸上部に所属していました。

 なので、自転車通学だったり、道を全部走って通学したりしていました。


 あのとき僕は動揺しすぎて、その日は高校まで走って来たものだと思い込んだようで。

 しかし、その朝はしっかりと自転車で登校していて。

 まぬけなことでしたが、僕はあとから一人、神社に自転車を取りに戻りました。


 神様にはなんか色々申し訳なかったと思いましたので、後日、彼女とその壊れかけの神社でゴミ拾いという名の放課後デートをしておきました(笑)


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