とあるワンシーン
建物の外で響く騒音を聴きながら階段を上る。最上階のその上、屋上階へたどり着くまで2分とかからなかった。
屋外へ通ずる扉の前に立てば、騒音はより鮮明に聴こえる。スラックスのポケットに無造作に入れてあった金属質の無骨なそれを手に、扉を開けた。
夏の逆光で思わず細めた目が明順応していくにつれ、蒼穹を背景に白妙と形容するに相応しい姿の無機質な天使が飛行している姿が視界に映る。
それは常人であれば、幾度となく見ても美しいと心奪われるだろうし、力強く羽ばたかれる純白の翼は些細な穢れなどでは失われる筈がない、と無意識に考えてしまう位には現実離れしている。
しかしながら、彼は無感動に金属質の無骨なそれを天使へと向け、人差し指に力を込める。
――――――タァン――――――
乾いた発砲音と共に放たれた禍々しい弾丸は、白妙に一点の黒をつけ、美しさを汚した。
派手な行動など一切ない、あっさりとしていて、ふと目を離した隙に終わってしまいそうなそんな一瞬の出来事である。それだけで白妙の天使は力を失い地に堕ちた。
同時に純白であった色はひどくくすみ、先程までの美しさなど見る影もなくなった。きっと心奪われていた者が見れば悲しみと喪失感に押し潰されてしまうことだろう。
悲劇の光景に彼は興味を示すこともないまま、背を向けてつい今し方来たばかりの扉へ戻って行く。
その扉が閉まるのと、天使が崩れて塵となり消滅し始めたのは、同時であった。
ちなみに白妙には
表の意味として「白い衣」
真意として「死装束」という意味があるらしいです。
きっと当時の私は純白と白妙をかけて、旨い事言ったつもりだったんでしょう。