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8 2人プレイ

 今日は日曜日。例のゲームをプレイして一晩が経過した。身体がダルい。


 寝る前はそんなでもなかったのだが、「クローン・モノクローム」というゲームは思ったよりも体力を使うようだ。


 ご飯を食べれば幾分マシになるかと思ったが、あまり変わらない。さっき妹の分のヘッドマウントデバイスを買いに電気屋へ自転車を走らせたが、それが関係している様にも思えなかった。


 これからルゥと一緒にゲームをしようということになっているのだが、こう疲れてたのではなんとなく気が乗らなくなる。これは「ゲームするな」っていう神のお告げかなんかなのかな。


 昨日ルゥを甘やかして一緒に寝たことが何か関係しているような気がするが、多分気のせいだろう。気のせいだと思いたい。


「あんた、寝てる時にわたしになんかした?」

「えっ!?」


 念のため聞いてみたところ、何故か想像以上にビックリされた。


「なんかって、何?」

「なんかとは、なんかよ」


 大雑把にカマをかけてみる。なんとなくダルいだけだけど、さも何か知ってるみたいに聞いたほうがこういう時は効果的だ。


「で、なんかした?」

「……さ、さあ?」


 この子は嘘を吐くのが下手だ。もっと上手くやれば良いのに。


「……したのね?」


 見る間に彼女の顔が青ざめていく。たらり、と一筋汗が垂れた。こんなにわかりやすい反応も珍しい。


「ご、ごめんなさい!」


 わたしの視線に耐えきれず、ルゥは謝ってきた。目には涙を溜め、深々と頭を下げてくる。こんな風に謝られたのはいつ以来だろうか。一番最初にトイレに乱入された時、マジギレして以来かな。


「……素直でよろしい。次からしないでね」

「え? 許してくれるの? というか、何したか聞かないの!?」


 ルゥが意外そうな顔でこちらを見てくる。


「まあ、気になるけど、あんたも言いたくないでしょ?」

「う、うん……」


 聞くと、ルゥはあからさまにションボリした顔をしてくる。


「わたしだって怒りたくないし、今回は良いや」

「ほ、ホントに!? 結構スゴイことしちゃったけど、良いの?」


 うっ……、そう言われると気になるな。そう言えば、起きた時からお腹がじんじんしてるような気がする。「クローン・モノクローム」のせいだと思ってたけど、そうじゃないのかな? でも、まあ良いや。


「うん」


 気になるけど、ちょっと疲れるくらいだしね。それに、何されたか覚えてないし。


「ただ、もうやめてね」

「わかった、もうしないよ」


 めっちゃ目を逸らしながら言われた。繰り返すが、この子は嘘が下手だ。


「わたしだってたまにはあんたと一緒に寝たりしたいんだから、次からは本当にしないでね!」


 そう言うと、ルゥがキラキラした目でこちらを見てきた。


「おねぇって、ホント優しいね!」

「え、うん……」


 こんな風に言われると、自分が正しいのかちょっと不安になる。あれ? これ許していいんだよね? なんか取り返しのつかない事態に向かって突き進んでる気がするけど、大丈夫だよね?


「それって『またしてね!』ってフリでしょ?」


 ああ、そういうことね。コイツは冗談が好きだな。ツッコミは入れないぞ。


「はいはい、もうわかったからそろそろゲームするよ」


 ディリアルをするという話なのにいっこうに進まないため無理やり会話を本題に戻す。姉妹仲が良いというのはこういう時困る。


 あれ? なんだかめっちゃ嬉しそうな顔をしているが、なんでだろう? ディリアルが楽しみなのかな? まさか、さっきのが冗談じゃないとかないよね?


「あ、おねぇ! その前に……ちょっと良い?」


 さっきまでの顔を曇らせ、何かを言いたげな顔をするルゥ。切なそうな、苦しそうな、そんな表情だ。空気が重くなる。


「おう、どうした妹よ?」


 その空気がなんとなく嫌で、わたしはちょっとだけ変なテンションで答えた。


「……今日もまた……一緒に、寝ようね?」


 それを聞いてなんだか拍子抜けしてしまう。さっきわたしが怒ったから、もう一緒に寝てくれないかと思ったのかもしれない。


「なんだそんなことか。いいよ、また一緒に寝よう」


 その言葉を聞いて、ルゥはパッと表情を輝かせた。


「うん、絶対だよ!」

「はい、じゃあこれ被ってー」


 わたしは適当に返事をしつつテキパキと準備を進めていく。封を切ったばかりのヘッドマウントデバイスを彼女の頭へとやる。


「なんか雑じゃない!?」

「そんなことないそんなことない。はい、これ被ったら横になってー」


 わたしとしては早くゲームをしたい気持ちもあるし、いそいそとスタンバイを始める。昨日と同じようにヘッドマウントデバイスを被った。


 ルゥはというと、不満そうに唇をとがらせているが大人しく言うことを聞いてくれているようだ。


「じゃあ、スイッチ入れるからそのままね」


 デバイスの操作をしつつルゥの横に寝る。しばらくすると、わたしたちの意識は溶けるようにしてこの世界からなくなった。


--


「はい、つみきちゃん! いらっしゃーい、ってあなた誰!?」


 VRゲーム「クローン・モノクローム」の案内役である妖精、リッピーは礼儀知らずも甚だしい様子でそう言った。


 ディリアルを立ち上げたわたしたちは、さっそく「クローン・モノクローム」の世界にやってきていた。


「誰って言われた!? というか、これ妖精さん?」


 いったい何から説明すれば良いのやら。なんとなくこうなることは予想していたけど、実際目の当たりにするととても困る。案内役はリッピーだって言ってたし、任せておけば良いのかな?


「これとは何か! 私は可愛い可愛い妖精のリッピーちゃんです!」


「マジで! 妖精さんって本当にいるんだー! だったら、サンタさんも……?」

「いや、どっちも本当はいないからね!?」


 思わずツッコミを入れると、リッピーとルゥはどちらも「ガーン」という効果音が背景に見える顔でこちらを向いた。なんだこれ、わたしが悪いみたいになってるじゃんか……。やっぱ任せておけば良かった。


「リッピーはひとまずおいといて、ルゥはもう中学生でしょ? まだサンタさん信じてたの?」

「いや、信じてないけど、でも目の前に妖精さんがいれば他のもいるかな? って思うじゃん」


 おおう、これがドリームゲームエンジンの力か。まあ、わたしも最初はそうだったし気持ちわかるけどね。神様に祈っちゃったし。


「ほら、やっぱ妖精はいるんだよ! 私がその証拠!」


 わたしにおいとかれて更に「ガーン」という顔になっていたリッピーが追撃してくる。


「リッピーは悪ノリしないで! この子は初めてだし、そろそろこのゲームの説明してよ!」


 暴力的なまでのボケの応酬。さすがにツッコミが追いつかないのでわたしは案内役に進行を促した。「はいはーい」とわかってるのかわかってないのか判然としない返事が返ってくる。大丈夫かな……。


「おっしゃ、じゃあいっちょ説明をしていくよ! っとその前に、そちらのお嬢さんにはコイツを読んでもらおう」


 軽快なトークに続いてリッピーが天へと手をかざす。すると、空から巨大なパネルが降ってきた。それは音もなくゆっくりとスライドし、妹の目の前で止まる。わたしも以前目にした「契約内容」だ。


 そう言えば、わたしこれあんまりちゃんと読んでないんだよなー。これを機に読んでみようか。いや、現時点で普通にプレイできてるし、大丈夫だろう。あと、面倒だし。


「あれ? おねぇ、妖精さんが気になって仕方ないんだけど……」

「とりあえずそのパネル見てみようか。その辺も書いてあるから」


 多分だけどね。


 わたしの言葉により、しぶしぶといった感じで読み出すルゥ。難しそうな顔をしている。そんなに難解なことが書いてあるのだろうか。


 まあ、利用規約みたいなものだし、堅苦しい言い回しが多いのだろう。眉間にシワを寄せながら、時折「ええー!」とか「ウソ!?」とか「うわー……」とか言ってコロコロと表情を変えるのがなんとも微笑ましい。


「……おねぇ、おねぇはこれ、ちゃんと読んだの……?」


 突然、改まった様子でルゥが聞いてくる。なんだろう、そんなヤバいことでも書いてあるのだろうか?


「うん、読んだよー」


 無料ってところだけね。


 わたしが答えると「おねぇも一緒だし、おねぇは昨日もうプレイしてるし、大丈夫だよね……?」とぶつぶつつぶやき出す。


「何かあった?」


 その様子にわたしは思わず不安になって尋ねる。


「ううん、大丈夫だと思う」

「そっか、なら良いや」


 恐らくだが、このゲームがホラーものだから警戒しているのだろう。コイツは怖いのあんまり得意じゃないからなぁ。ここまでホラーなのを黙って連れてきちゃったし。


 それか、ドリームゲームエンジンとかのくだりかもしれない。まあ、あれも一時的なものだし、リッピーに言えば弱めてもらえる。何も問題はないはずだ。


「オーケー、おねぇ。読み終わったよ」


 彼女はそう言って、パネルの最下部にある「規約に同意してゲームを始める」を押した。その瞬間「うおぅ!?」と何かに驚く。


「環境音スゴっ!」


 ああ、プレイヤーになるまでは、これ聞こえてないのか。思い返すと、わたしの時もそうだったな。彼女の様子に倣って、モノクロームシティの恐ろしさを語るような不気味なざわめきに、今一度意識を向けてみる。


「どう、スゴイでしょ? これ、うちの会社のゲームなんすよ」


 へへへ、と調子に乗ったように彼女が笑う。我が物顔とはこういうことを言うのかとちょっと思った。


「ああ、契約内容読んだならわかると思うけど、わたしもこのゲームの一部ね!」


 リッピーが再度我が物顔をし、自分のことを親指でさした。


「ええー、じゃあやっぱサンタさんはいないのかー」

「だからそうだって言ってるでしょー」


 今のこの子なら「実はいるんだよ!」とか言えば信じちゃいそうだが、可哀想なのでやめておく。


「夢が壊れてしまったついでに、夢も希望もないホラーゲーム『クローン・モノクローム』、はっじまっるよー!」


 リッピーが変なテンションで言う。なんだろう、昨日とちょっとキャラ違うけど、今日はこんな感じでいくのだろうか。彼女は案内役を始めて日が浅いというし、色々模索中なのかもしれない。


「あれー? 元気がないぞ? みんなも一緒に! せーの――」

「――わかったから! そろそろゲームの説明して!」


 ゲームが進まないので無理やり流れを切る。歌のお姉さんのつもりだったのかな? よくわからないけど、またショックだったのか「ガーン」としている。「昨日はウケたんだけどな……」と小声でつぶやいているのが聞こえた。


 もうちょっとやらせてあげても良かったかもしれない。


「はい、じゃあ気を取り直していくよー」


 と思ったが、意外と立ち直りが早かった。コイツはメンタル強そうだな。


 そこからは、カクカクシカジカと丁寧かつ迅速に説明を進めてくれた。わたしに話してくれたことをほぼ同じように話すので、情報を文字列で保持できるというのは本当なのだなと感心した。


 また、今回は二人プレイになるので、役職が微妙に変わるという話もあったが、基本的には前回と同じだそうだ。わたしが「警部」でルゥが「警部補」とのこと。


 なんだか、逆だとわたしのフラストレーションが半端なさそうだし、いい感じになって良かった。いくらわたしが負けるの好きだと言っても、いつも下だと思ってる妹に負けるのはなんだかイヤだ。


 なにより、この子を連れてきたのはお姉ちゃん面をするためでもある。今回はゲイシーに勝つ方法をしっかり考えてきているから、もう自信満々だ。


「じゃあ、そろそろ捜査官のお二人には、ゲイシー逮捕に向かってもらおうかな?」


 リッピーが問いかけてくる。


「無論だ、あいつはこの先にいるんだな?」


 ドリームゲームエンジンの支配が増すのを感じる。わたしの意識を別の人格がじわじわと侵食していく。


「警部ー、こんなのの言うこと、ホントに信じていいんですか……?」


 ルゥもわたしと同じようで、すっかり役に入り込んでいる。頼りない感じはルゥらしくもあり、また新米警察っぽくもあってなかなか良い。


「信じていいかどうかは、街の中で会った時にまた改めて考えてみて」


 リッピーがそう告げるや否や、わたしたちの前に黒い渦が現れ、二人仲良く飲み込まれた。

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