18 ドクターストップ
すさまじくえっちく、その上グロく書いたつもりなので苦手な人はご注意ください。
「それなら、そっちで治すのがスジじゃないんですか?」
自分は神を超えていると言う相手に対して、本音が口をついて出る。
考えあっての言葉ではなく、感情論。それこそ、クレーマーのような言葉を言い放ってしまった。
無音。今の言葉でBGMすら止まる。多分怒っているのだろう。ただ、そんなのはこっちも同じだ。
「自分のこと神とか言うなら、これくらいできますよね? わたしの妹のこともお願いできないですか?」
挑発、になってしまっているのだろうか。
ただ、この時は何故か自分のことを止められなかった。恨むなと言われたからか、ただのショック症状と言われて妹を軽く見られてると思ったからか、それとも単純に焦っていたのか。それはわからない。
なんにしろ冷静ではなくなっている、とまるで他人事のように感じた。
「あんまり調子に乗るなよ」
その言葉と共に、体の中に何かが流しこまれるような感覚がした。
カッと、全身が熱くなっていく。
「神がいちいち愚民を助けるだなんて思うな。でも別にできないワケじゃないんだぞ。そんなことでモニターを逃したくないから、あえてしないんだ。本当は出来るんだ! 本当だぞ! クソッ! クソッ!」
その言葉を聞いている間にも、わたしの身体はどんどんおかしくなっていく。両手足の先から膿んでいくかのように、皮膚が厚くなるような嫌な痛みが広がっていく。身に着けているもの全てが刃物のように肌をえぐる気がした。
「なっ……なに……これ……っ……」
「君、こういうの好きでしょ? 遊んであげるよ」
痛いのは好きだけど、こんなものは求めてない。
こんなワケの分からない状況で流しこまれるように自分が変えられるなんて、それはなんか違うと感じた。
「ち……違……違う……」
やっとの気持ちでそれだけ口にした。もう、喋るだけでも痛いのだ。身体がパンパンになっている気がする。
「知ってるよバーカ! ただの嫌がらせだよ! ボクのことを侮った罰だ! 本当は……本当は出来るんだからな! 言い訳じゃないぞ! クソッ!」
リッピーの口から言葉が流れ出る度に痛みが増す。全身が痺れたようだ。
水ぶくれみたいに、熱湯を浴びせられたみたいに、電気でも流れてるみたいに、激痛が皮膚の内側を這い回る。
「あ……かはっ……あ……ぁ……」
息をするのがしんどい。
痛みで身体が動くだけでも辛い。
苦痛で溺れる。
気絶したい。
「はっはっは、ぐうの音も出ないだろ? ボクのゲームを不純な動機で遊んでる罰だよ。これで許してあげようってんだから、ボクは本当に優しいよね」
多分、感覚だけが捻じ曲げられてるのだろう。身体には全く異常がないためか、意識はやけにはっきりしていた。ひょっとすると、そういう補正をしているのかもしれない。
「さーて、どうしようかなー。あー、じゃあこういうのはどう?」
途端に、全身の骨が痛みだした。
「ぐぁああああぁああああぁあ!」
桁が違う! 無理! 耐えるとかそういうんじゃない! こんなの無理!
「あっあー、あれよあれ。骨を削られる痛みって、人間が感じられるものの中で最高らしいよ。その感覚をね、試しに流し込んでみた」
ブルブルと腕が、足が、全身が震える。その震えが新たな痛みを生み出す。身体のあちこちから集まった痛みが背骨でぶつかり合って、脳みそを貫くようにして駆け抜けた。
「ぎあがががぁああぁあっ!」
いくら叫んでも軽くならない痛み。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
どうしたら助かる?
どうしたら逃げれる?
道がない。打つ手がない。先が見えない。
痛みが脳を削る。意識を削ってくる。
しかし、それなのに目の前がいっそうはっきりしていく。痛みの一つひとつが明確になっていく。
地獄。これは地獄だ。
「うぇ、気持ち悪っ。ゲイシーとかこんなん見て楽しんでんだね。すげぇや。目ん玉ひん剥いて、舌突き出して、人間の顔じゃないみたい」
どこまでも鋭くなった感覚が、その妖精の口から漏れる音を拾う。
その言葉が、わたしの心に電流を走らる。
考えがまとまらないが、そこにわたしの求めるものがある気がした。
気持ち悪っ、という言葉じゃない。
人間の顔じゃないみたい、でもない。
……ゲイシー。そう、ゲイシーだ。
骨を削られる痛みを、わたしは前に感じたことがある。
最初のプレイで、目を突き刺された時。
その球体を収めるための穴を、あの硬くて太いのが押し広げて無理やり入ってきた時に、ゴリゴリとその周りを削ってくれた。
あの時の痛みだ。あの、愛おしい痛みが全身を包んでいる。
「あっはああぁああぁああぁああっ! ぃいああぁあああっ!」
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
死ぬほど気持ちいい。全身がゲイシーに愛されてるみたいだ。
ああ、ゲイシーゲイシーゲイシーゲイシーゲイシー!
もっと、もっと欲しい。
そう思うと同時に、頭を抱え、うずくまるようにする。
快感が凄すぎて目の前が真っ白だ。
バリバリと頭皮が剥がれるんじゃないかってくらいに頭を掻きむしる。そうでもしないと全身の感覚に飲まれてしまいそうだった。
「え、マジで……? あっあー、マジもんかこの子」
何か、雑音が聞こえた気がする。
でも、気にしない。わたしにはもっとするべきことがある。
あの時、ゲイシーは自分の目と同じにしてくれた。わたしの顔をお揃いにしてくれた。
だから、もっと気持ちよくなるには、こうすればいいんだ。
「え、え、え、何する気? え、マジ? さすがにそれは引くっていうか……あっ」
ぐずり、と頭の中で音がする。
右眼が良い感じに潰れてくれた。生暖かい液体が指を伝って袖を濡らす。指先にヌルヌルとした感触がした。
柔らかくて固い、変な触り心地だ。
でも、頭の中はあの時の素敵なことでいっぱいだ。あの硬いのを無理やりねじ込んで、ぐちゅぐちゅって、わたしをいじめてくれて、それで、それで――。
「あぁ……いいよぉ……気持ちいいのこれぇ……もっと、もっとぉ……」
いやらしい水音が頭の中にガンガン響く。痛みが端から快感に変わり、脳みその中をミミズのようにのたうっている。奥を引っ掻くようにする度に、白い光が目の前で散って綺麗だった。その光が、思考をドロドロに溶かしていく。
気持ち良い。気持ちいい、気持ちイイ。
「イイよぉ……あはぁ……っ……あっ……あぁんっ!」
身体がのけぞり、その衝撃で全身の痛みが弾ける。脳みそが爆発したんじゃないかという錯覚に陥った。それと同時に、下半身がしぶいた音が耳に届く。
「あっあー、こりゃゲイシーが負けるわけだわな。あれじゃ勝てねぇ。マジ面白だわ。こんな人間いんだな。世界パネェ」
困ったような、呆れたような乾いた笑い声が聞こえた気がした。
「えっとー、どうしようかなー。このままボクが本気出したらこの子ガチで壊しちゃいそうだし、あとのことはリッピーに任せちゃおうかなー、なんつって」
わたしが更に激しく穴の中をほじくっていると、近くで飛んでいた黄緑の光がふらついた。
「うぇっほっ! げほっ! うぇ、なんでこんな目と喉かわいてるの? 苦しい、って言うか痛ったー……。あれ、なんか声? いや、悲鳴? なにこれ……って、つみきちゃん!?」
なにか聞こえたみたいだけど、気にしない。
もっと気持ちよく、気持ちよくなりたい。
膝を着いて、ブリッジするみたいに上半身を逸らせながら、焼き切れそうな頭を回す。
穴の奥をもっとぐちゃぐちゃにしたい。もっと、ゲイシーのしてくれたことを思い出したい。
何かないか、と思って左手を伸ばすと、偶然何か棒状のものに触れた。
硬くて、太くて、ゲイシーのことを思い出させてくれるもの。
それは、警棒だった。
彼に首をはねられたあの時、わたしが持っていた武器だ。
「……あはぁっ、これなら奥もっとぐちゅぐちゅって……ずぷずぷって……かき回せるの……」
痙攣するように震える左手で乱暴に警棒を抜く。
それでも、右手は止めない。水音をさせ続けるそれは、自分でも驚くほどの速さで上下していた。ブルブル震えながら中身をめちゃくちゃに泡立てている。
その手の横にあてがうようにして、硬くて太い棒を添える。
これを入れたらどうなるのかな。どうなっちゃうのかな。
根本まで飲み込んじゃいたい。取り返しのつかないことをしたい。
そう思いながら、わたしは上下し続ける右手を押しのけるようにしてその棒状のものを、わたしのぬれそぼった穴へと――。
「――つみきちゃんストーップ!!」
耳をつんざくような声がした気がする。
その声を追うように、黄緑色の光がわたしの周りをグルグルと回り出し、オーロラのような光のベールが何層にも折り重なって降ってきた。