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10 悪魔の殺し方

 昨日、首だけで空を舞ったが、その際にいろいろな発見をした。まず、この街がドーナツのような形をしていることだ。


 タイトル画面で見たあの不気味な塔を囲うようにして大通りが円を描いており、それを挟むようにして建物のラインが二本走っている形である。もちろん、わたしもその全てを見た訳ではないから確証はない。ある程度探索して確認しても良いが、ひとまず後回しだ。


 わたしたちは、出発地点から斜め左前を目指して歩き、そこからジグザグと細い道を抜けて今度は右の方を目指す。


「あれ? おねぇ、こっちはゲイシーがいるから行かないんじゃないの?」


 不安そうにルゥが聞いてくる。


「ゲイシーは避けていきたいけど、実は目的地こっちなんだよね。ちゃんと作戦はあるから安心して」


 そう彼女に告げると、少しだけ表情が和らいだ気がする。ルゥは初プレイなわけだし、もうちょっと説明しながら進んだほうが本当は良いのかもしれない。だが、やはり会話も「音」だ。これでゲイシーに気づかれては意味がないのである。


「お、こっちの方ってことは、ゲイシーの家に向かってるんでしょ?」


 リッピーが声をかけてくる。いちおう「キャラクターの知識」として、ゲイシーの家の住所は知っている。だから、こっちの方にいけば彼の家に辿り着くであろうことはわかっている。


「確かに、探索は基本だもんねー。行ってみたら何かわかるかもしれないし、そうとなれば勝手にお宅訪問しちゃおうぜぃ☆」


 と、リッピーが舌を出しつつウィンクをするが、あいにくわたしはヤツの家になんて行くつもりはない。


「ゴメンね。目的地にはもう着いたんだ」


 そう言って、後ろにいる二人へと向き直る。すると、二人とも変な顔をした。


「ここがそうなの?」


 ルゥが不思議そうに小首を傾げて見てきた。


 人を貼り付けにしたモニュメントが飾られた白っぽい建物。壁には、その白に差し色を添えるかのような赤や青の原色が映える。


 教会だ。


 わたしは死の直前に、ここの神に祈った、許してくれと。その神様の力を利用しようなんて、わたしは本当に罰当たり者だ。


 ふと見ると、リッピーが焦った様子で口をパクパクしていた。その様子に、わたしは少しだけ口の端を持ち上げる。


「どうかした? リッピー?」

「いや、こんな教会なんかより、ゲイシーの家のほうが、ヤツを倒す手がかりとかあるんじゃないかなーって思って……」


 バレバレな嘘だな、と思った。恐らく、ここに入られるのはゲーム制作サイドとしては都合が悪いのだろう。まあ、わたしは昨日のプレイで先に進まないと知り得ない情報を知ってるわけだし、向こうの考えなんて知ったこっちゃない。わたしは容赦なく教会の戸に手をかける。


 ギギギ………、と音を立てて軋みながら、その茶色い木の板が口を開けた。


 冷たい空気が顔を撫でる。驚くほど静かだ。人の気配はしない。多分だが、ここでは敵と出会うことはないだろう。


「さ、早く入って」


 歩みを進めるわたしに対して、後ろの二人はたじろいだようにしてオロオロしている。


「でも、リッピーはゲイシーの家に行けって言ってるよ?」

「お姉ちゃんの言うこととソイツの言うこと、どっちを信じるの?」


 ルゥの質問に、わたしは逆質問で返す。当然のことだが、彼女は私を信じてくれたようで、ノロノロと協会の床に足を降ろし近づいてくる。リッピーはというと、酷くつまらなそうな様子で口を尖らせ、ゆっくりとこちらに向かってきた。


「よし、じゃあそろそろ説明しようか」


 わたしは、教会内に敷かれた長いカーペットの真ん中辺りで両手を広げる。天井や窓にはめ込まれたステンドグラスから光が注がれ、薄暗い教会の中でわたしはなかなか様になっているのではないかと思った。ただ、二人のリアクションはイマイチで、なんとも言えない顔をされてしまっている。ちょっとだけ、顔が熱くなるのを感じた。


 コホン、と咳払いを一つしつつ手を降ろす。なんだよ、なんか言ってよ……。


「おねぇ。説明って、なんの?」


 ドリームゲームエンジンは利いているハズだが、ルゥはもうあんまりロールプレイをしていなかった。もしかすると、捜査中でも二人きりの時はいつもの呼び方が出ちゃう仲の良い姉妹という設定があるのかもしれない。だったら、わたしもそれに倣おうか。


「ルゥ、ゲイシーが『悪魔憑き』って呼ばれてるのは知ってるよね?」

「え、うん。ムービーでそんな話があったと思うけど……ひょっとして、あれって本当なの?」

「そう、本当なの」


 ルゥが愕然とした表情でこちらを見てくる。


「そんな……、悪魔が本当にいるなんて……」


 ああ、ここだとドリームゲームエンジン利いてるのね。まあ良いけど。


「信じられないでしょ? でも、わたしはこの目で見たのよ。だから、マジ」

「そっか……。でも、だったら『煙のように消える』って話にも説明がつくか……」


 彼女は「なるほど」と言うように顎に手をやった。


「で、ここからは『多分の話』になっちゃうけど、アイツは悪魔から『煙のように消える能力』を貰ってる。だから、どれだけ追いかけても逃げられてしまっていた、ってことだと思うんだ」

「私もそう思う」


 うんうん、とルゥが頷いた。


「あと、これもはっきりとは言えないけど、アイツは『ナタ』も悪魔から貰ってる」

「え、ゲイシーのって、なんか特殊なの?」


 普通の警官は、アイツのナタがどれほどの切れ味を持つか知らない。だが、わたしは知っている。首を切り落としてもその被害者が気づかないほどに一瞬で断ち切るあの力は、恐らく悪魔のものだ。


 それをルゥに説明すると、彼女は顔を伏せてしまう。


「そんなヤツに私たち、勝てるのかな……?」


 妹は不安そうな声を出した。


「普通にやったら無理だろうね」


 わたしは笑顔で言う。そう、まともにやりあって勝てるような相手ではないのだ。


「つみきちゃん、ならもうちょっと探索しようよー。ゲイシーの家に行けばなにかあるかもしれないし……」


 リッピーが何か言ってる。なら、わたしの考えに間違いはないんだろう。


「いや、多分ここならアイツの能力を封じられるんだよ」


 面白くなさそうな顔をしているリッピーへと言葉を返す。


「ゲイシーの力が全て悪魔の力なら、この教会で無力化できると思うんだ」


 そこまで伝えると、ルゥは「そっか!」と声を上げ、リッピーは顔を曇らせた。それが、わたしの自信を補強する。


「多分だけど、ここならゲイシーをやり込められる。わたしたち、アイツに勝てるんだよ!」


 その言葉を聞いて、ルゥはガッツポーズをする。同じ警官だし、きっと求めるものが同じだからだろう。


「あ、でも、もし教会でも悪魔の力を無力化できなかったらどうするの?」


 ガッツポーズしていた腕を下げ、ルゥは首を傾げた。


「その時は、この教会の中でアイツをまいて、外に逃げよう」


 教会の前の方に小さな扉がある。それなりに大きな建物だし、ここ以外にも部屋があるのだろう。小さな部屋が続いていれば、ゲイシーだってそう簡単に追いかけられないはずだし、どうしてもまけない状態なら、ヤツの性質を利用してあえて追い詰められ、見逃してもらおう。上手くいかなくても、試す価値のある作戦のハズだ。


 わたしは二人にこの内容を「ゲイシーの見逃し」の部分だけ除いて説明した。コイツの性質の話は、聞けば油断を招く。ルゥは初心者だし、変に気を抜かれて勝てる勝負を捨てたくないからだ。この話を聞いて、ルゥはすっかり勝つ気なってくれている。その様子を見て、わたしはいっそうの自信が心の奥から湧いてくるのを感じた。


 しかし、わたしはこの時完全に見落としていた。


 ヤツの性質を知って自分が少なからず油断していたことを。そして、不運というものの存在を。


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