瞬間ぐらふぃてぃ。
(――ふうっ、緊張するなぁ……)
私は今、一枚の紙を手に、ある所を目指して階段を上っている。
紙には『入部届』と書いてあり、その下には「苗代 夕夏」と、さっき書いたばかりの私の名前があった。
(怖い先輩とか、居ないと良いんだけどな)
そう思うと、自然に『このまま引き返したい』という思いが頭をよぎる。
頭の中を埋め尽くしそうになった考えを、私は頭を振って何とか消し去ろうとする。
(いけないいけないっ! 入る前から弱気になってちゃ)
一度立ち止まり、大きく深呼吸して、最後に両手で頬を叩く。
「――よし」
意を決して残りの階段を上り終えた先に、目的の部室はあった。
スチール製のドアの上には『写真部』とある。
(ここに、あの写真を撮った先輩が居るんだ……)
その写真を見たのは、私が中学三年生の頃。
運動は人並みで成績も中間ぐらい。顔も、周りの子と比べたら「中の中」(※ 友達談)と、良く言えば「平凡」、悪く言えば「地味」な私。そんな自分でも唯一自慢できる、かもしれないものを見つけた。それが写真。
きっかけは家の父さん。昔、いわゆる「カメラ小僧」と呼ばれる程のカメラマニアだったみたいで、今でも休みの日になると、ちょくちょく外へと鳥や風景などを撮りに行く。
で、私が中学生になった頃。父さんは一人で撮る事が寂しくなったのか、たびたび私を誘って来る様になった。
写真なんて、その時は全く興味無かったけど、『一緒に来てくれたらデジカメ買ってあげる』と言うので、最初はデジカメ欲しさに付き合う程度だった。
けど、撮った写真を友達に見せたら思いの外褒められて、父さんにも『将来大物の写真家になれる!』と、親馬鹿丸出しな絶賛を受け、今まであまり褒められた事の無かった私は、それですっかり舞い上がってしまい、調子に乗って写真を雑誌やコンクールなどに送るようになった。
もちろん殆どは落選したけど、奇跡的に一つだけ『全国 青少年写真コンクール』に入選という形で賞を取れた。
会場内では様々な写真が展示されていて、その中には私の写真もあったけど、正直言って場違いな気がする。それほど、中にあった写真はどれも素晴らしいものばかりだった。
その中で、私は『あの写真』を見つける。
「うわぁ……」
何処かの川原で、一人の髪の長い女の子が桜の木の下で佇んでいる写真だった。後ろを向いていて顔は分からないけど、多分私と同じ位の年だと思う。白いワンピースの裾が、風によってふわりと浮かんでいて、腰辺りまで真っ直ぐ伸びている黒い髪も、風によって静かになびいていた。桜の花びらが写真の中で一杯に散って、まるで女の子の周りの空間を、花びら達が包んでいるかの様だった。
「きれい――」
私は、その写真を食い入る様に見入ってしまう。もし、一瞬でも撮るタイミングがズレてしまったら、こんなに綺麗には撮れなかっただろうと思うと、自然に撮影した人へと興味が移る。
(誰が撮ったんだろう?)
写真の下には、『高校生の部 大賞 写真部二年 秋原 咲太』とあり、学校の名前も記されていた。
(え? ここって、私の家の近所にある高校じゃ……)
こんなに素敵な写真を撮れる人が、近くに居るなんて――。
「会って、みたいなぁ」
その時に、私は決心する。この人に会って、私も綺麗な写真を撮りたいと……。
(――第一印象が大事だしね、ちゃんとしないと)
部室に入る前に一旦トイレに入り、身だしなみを確かめる。
ここの学校は学年ごとに上履きやネクタイ、リボンの色が分けられていて、一年は赤、二年は緑、三年は青となっていた。まだ着慣れない藍色のブレザーを整えて、一年生の証である首元の赤いリボンの位置を直し、チェックのスカートの裾をちょっと払った後、両肩に流れる、二つに括った髪を撫で付ける。
あの写真を見た次の日から、写っていた女の子の様なサラリとした黒い髪に憧れて伸ばし始めたけど、今はまだ肩の辺りまで伸びている程度だった。
(卒業する時までには、腰まで伸びてるといいんだけどなぁ)
最後に、掛けていたメガネを外し、ブレザーの胸ポケットに入れていたハンカチでレンズを拭く。
(メガネ、ダサいって思われないかな……)
またしても不安に襲われたけど、既に部室の前まで来てしまっている。鏡に写る自分に向かい、私は呟く。
「大丈夫、自身持て私っ」
トイレを出てもう一度、今度は強めに両頬を叩く。
「――よし!」
そのままの勢いで、私は部室のドアを開けた。
「し、失礼しますっ!」
と、同時に。
「いいいいぃぃぃっよっしゃぁぁぁあああっっっっっ!!! リーチ一発メンタンピン、イーペーコードラドラぁっ!!」
「ひゃっ!」
突然、部屋の奥から大声が聞こえ、慌てて辺りを見渡す。そこは「部室」というよりも「物置」といった方がしっくりくる様な、とにかく物が散らかっている所だった。
それでも一応、部屋の真ん中辺りにある大きなテーブルには、写真部の部室らしくカメラやレンズ、フィルムのケースや本等がごちゃごちゃと置かれてあった。そのテーブルの右手にはホワイトボードで写真がいっぱい貼り付けられていて、反対の右手には、本棚が壁一面に置かれている。
「ひゃっはっはっはっはぁ! ついに、ついに未久の服を剥いでやったわぁっ!!」
テーブルの向こう側、私に背を向け、窓枠に片足をかけて一人の男子生徒が外に向かって叫んでいた。その足には青いラインが入った上履きが履いてあって、三年生だとわかった。さっきの声も、たぶんこの人だろうと思う。
「あ、あの……」
恐る恐る話しかけてみる、だけど。
「未久ぅ! お前の服が、透けて見えるぜぇっ!!」
こっちを振り向く気配はまるで無い、というか気付いてないらしい。よく見てみると、外に向かって、では無く手に持ってる携帯電話に向かって叫んでいるみたいだ。二、三歩程部屋に踏み入り更に見ると、耳の辺りからコードが出ている。多分イヤフォンで音楽を聴いていて私の声が聞こえていないみたいだった。部員の人はこの人以外今は居ないらしい。仕方ないので更に近づいて、もう一度声を掛ける。
「あのう、すみません!」
その時だった。
「うるさぁいっ!」
「あべしっ!!」
「っ!!」
瞬間、目の前に居た先輩が横に吹き飛ばされた。
「え、え、ちょっ、えぇ?」
見ると、今まで無かったゴミ箱が先輩の傍にあり、中に入っていたであろうゴミが先輩を覆い隠していた。それにしても、何でゴミ箱が?
「――ったく。現像中は静かにしろって、ん?」
声がした方向を見ると、そこには、入って来た時は本棚に隠れて見えなかったのか、入り口のドアとは違い木製のドアが開かれていて、そこから一人の女子生徒が姿を現した。
短めのショートヘアに、意志の強そうなつり上がった目。すらりと伸びた手足は、同性である私の目も惹きつけた。首元にある青いリボンを見つけて、この人も上級生なんだと分かる。
「ええっと、どうしたの? もしかして、あの馬鹿に何かされた?」
上級生の人はそう言って、未だ起き上がらない先輩を指差す。
「あ、いえ、そうじゃないんです。けど、大丈夫ですか?」
心配になって倒れたままの先輩に目を向ける。
「あぁ、コイツは大丈夫。むしろ喜んでる位だから」
苦笑いで答える上級生の人は、次に私の手元を見る。
「あれ? それ、もしかして入部届?」
「あ、そう、そうです! すっかり忘れてた!」
急いで私は上級生の人に入部届を差し出そうとする。すると突如、今まで倒れたままの先輩が「ピクっ」と反応したかと思うと急に、
「マジでかぁぁっっ!!」
「ひゃぁっ!」
エサに飢えたハイエナみたいに、勢いよく私に飛び付いて来た。
「いやっ、ちょ、なっ……」
真正面から肩をがしっと掴まれると、鼻息荒く先輩はまくし立てた。
「マジで、マジで入ってくれるの? おいおい、『従順で清楚で妹系なメガネっ娘が入ってきてくれたらイイなぁ』なんて思ってたけど、まさかホントに来てくれるなんて! 毎日神社を探し回って願掛けした甲斐があるってもんだなぁオイ!! よぉし、それじゃあまず入部試験として、女子限定でモデル適正検査をするからちょっと脱い」
「黙れぇっ!」
「ひでぶっ!」
今度は壁に叩き付けられる程の、綺麗な跳び蹴りが先輩の顔面に直撃した。
「――全く、この馬鹿はこれだから。少しは部長の自覚持てっての。大丈夫?」
「ひゃ、あ、はい……」
びっくりした。まさか、まさかこんな人が写真部に、というかこの学校にいたなんて。
これだったらまだ「怖い先輩」の方がマシだった気がする。
……っていうか、今。
(『部長』って、言わなかった?)
恐る恐る、私は上級生の人に聞いてみる。
「あのぉ、ちょっと、いいですか?」
「ん、何?」
「今、他の部員さんって何をしてるんですか? 何処かに、写真撮りに行ったりとかしてるんですか?」
入ってきて早々、こんな変な人に会うなんて夢にも思っていなかった。だから、他の部員の人はせめて普通の人であって欲しい、普通に活動していて欲しい。そう思っての質問だったけど。
「いないよ」
「――え?」
「今の写真部は私とそこの馬鹿の二人だけなの。あ、そういえば紹介がまだだったね。私は副部長の冬村 羽美。でコイツが……」
上級生の人――冬村先輩――は、再び倒れた先輩を指差して、知りたくなかった事実を私に告げる。
「部長の、秋原 咲太よ」
「……はぁ」
あの日から数週間後の日曜日。今や日課となった散歩の途中。いつもはデジカメを持ち歩いて周りの風景を撮りながら行くんだけど、今日は何時にも増して足が重い。
結局、その日は入部届は出さずに帰ってしまった。それにしても、一年前から密かに憧れていた人が、まさかあんな人だったなんて。
(――ヘンな人だったなぁ、ホントに)
数日前に見た秋原先輩の姿を思い出す。所々がハネている寝癖だらけの髪に、だらしなく着崩したブレザー。緩められた青いネクタイに、ブレザーの内から覗くよれよれのワイシャツ。どう見たって、あの綺麗な写真を撮った人には思えなかった。
(そりゃあ、少しは期待してたのもあるけどさ)
「憧れの先輩」は、実は「変人」。よりによって、冗談にも程がある。
(あぁもう! とにかく、あのことはもう忘れよう、うん!)
と、決心したのは良いけれど……。
「ここ、どこだろう」
ぼんやりしながら当ても無くさ迷い歩いていたからか、全く知らない場所に来てしまっていた。
(家からそんなに離れてない、とは思うんだけど)
途端に不安になり、きょろきょろと辺りを見る私。すると、
「……川の、音?」
不意に気になり、音がする方へと足を向ける。
「――ここって」
そこには、見覚えのある風景が広がっていた。
「あの写真の、場所?」
写真では桜の木は一本だけだったけど、実際の川原は桜並木になっていて、一列に桜の花が満開になっている景色は、見ていて圧巻されるものがあった。
「――あれ、ひょっとして夕夏ちゃん?」
「ひゃあっ!」
いきなり後ろから声を掛けられ、慌てて振り返る。
「あ、冬村、先輩……」
そこには、数週間振りに会う先輩の姿があった。
「――ふぅん、そうだったんだ」
冬村先輩に誘われて私達は、川原の近くにある喫茶店に入る。あの日から来なくなった訳を話すと、冬村先輩は最初に「ゴメンね」と謝ってきた。
「アイツ普段からああなの。もうあんな事は二度とさせないから、出来れば、もう一度入ってくれること、考え直して欲しいんだけど」
「……でも」
そうは言われても、憧れていた先輩の本当の姿を知ってしまった以上、ためらってしまう。
うつむいている私に、冬村先輩は優しく話しかけてくる。
「夕夏ちゃんはあの写真を見て、うちの部に入りたい、って思ったんだよね?」
「え? はい、そうですけど」
「あの写真に、髪の長い女の子が写ってるでしょ?」
「はい」
「あれね、実は私なんだ」
「ええっ!」
周りの席に座っていたお客さんが二、三人ほどこっちを見たけど、私は驚きを隠せなかった。
「そんなに驚く事無いじゃない」
「すいません。けど、今と全く印象違うから」
後姿だとはいえ、その雰囲気は今の先輩とは違っていたし、何より、髪が長い冬村先輩の姿を想像する事が出来なかった。
「まぁ、そりゃそうだよね。私もそう思うもん」
冬村先輩は苦笑いして話を続ける。
「髪を伸ばしてたのは、あの頃が最初で最後、たぶんもう伸ばす事は無いだろうし」
「何で、切っちゃったりしたんですか?」
私が聞くと、冬村先輩はふぅ、と息をつき、俯きがちにに答える。
「その頃ね、写真部に好きな人がいたんだ」
「そう、なんですか?」
「うん、私が中学校の頃に好きだった人でね。その人が『長い髪の子が好き』っていうから、高校に入るまで切らずに伸ばしたんだ」
「え?」
(何か、私と似ている気がする――)
その時の事を思い出しているのか、冷めてきているコーヒーの水面を静かに見つめて、冬村先輩は言葉を続ける。
「で、今の高校に入学した後、あの人が写真部に入った事を知って、私も写真部に入ったんだ。アイツも確か、その後しばらくして入ってきたっけ」
「入って来た時から、あの人は、その、ああなんですか?」
遠 慮がちに私が聞くと、冬村先輩は顔をしかめながらも笑顔で、
「まぁね。あの人も毎日呆れてたし、私も実際、『あまり関わりたくない』って思ってたしね」
「はは……」
オレンジジュースを飲んで、その時の写真部を想像してみる。
(……大変、だったろうなぁ)
「で、その時まで写真のことなんて興味なかったけど、あの人に近づくために、写真やカメラについていっぱい勉強した。今思うと、入試勉強よりも必死に勉強したんじゃないかなぁ」
ふふっ、と冬村先輩は笑うと、コーヒーカップを持ち、残っていたコーヒーを飲み干す。
「その人も、私ががんばっている事を知って。時々、撮り方とか教えてもらったり、一緒に写真を撮りに行ったりとかしてくれたんだ」
「へぇ、良かったですね」
「それで、一年後位かな。私、やっと決心して、その人に告白したんだ。校舎の裏側に呼んでね。で……」
かちゃり、とコーヒーカップを置き、視線を窓辺に広がる桜並木に移すと、冬村先輩はぼそりと呟いた。
「振られちゃった」
「え……」
「『付き合ってる人がいるから、ゴメン』って、それだけだった」
少しの間、私と冬村先輩の間を取り巻く空気が、重くなったように感じた。
「それでね、泣きながら顔真っ赤にして部室に入ったら、間の悪い事にアイツと会っちゃってね。私が告白して振られた事がばれちゃったんだ」
「馬鹿にされたり、からかわれたんですか?」
「ううん。でも、変な事を聞かれたんだ」
「変な事?」
「『もしかして、その髪切るつもり?』って」
「へ?」
恥ずかしそうに先輩は笑って、先を続ける。
「アイツね、私が好きな人のために、髪伸ばしていたのを知ってたんだ。それで、その人に振られちゃったから、その髪も切るつもりなのかって。何か、私が好きだった人のこともばれてたみたい」
「どうして、そんなことまで?」
「『周りから見てりゃ、誰でも分かる』だってさ」
視線をテーブルに戻した先輩は「でも」と呟いて、
「その時のアイツは、からかうとかじゃなく、真剣に聞いてたような気がするんだ」
「それで、何て答えたんですか」
「ま、私ももう伸ばし続ける理由が無くなったしね、そうだって答えたら、アイツこう言ったんだ。『切る前に、その姿を写真に撮っておきたい』って」
「それが、あの写真なんですか」
「アイツ自身ホントは、コンクールなんかに出す気は無かったらしいんだけどね」
再び視線を川原に向ける冬村先輩。つられて私も目を向ける。
「撮る前にアイツに聞いたんだ。『何で私の写真なんか撮るんだ』って。そうしたらアイツね、真面目な顔してこう答えたんだ――」
『だって、お前が髪伸ばすこと、もう無いかもしれないじゃん。だったら今撮っておかなきゃダメだろ? 俺さ、そういう、何ていうか、『今その時にしかないもの』を撮りたいんだよな。撮らないと、後で後悔する気がするし』
「――それを聞いてさ。あぁ、コイツは普段ふざけてばかりだけど、写真に対しては真剣なんだなぁ、って」
「…………」
私は、自然と俯いてしまった。
「あ、そろそろバイト行かなきゃ、もう行くね。代金は私が払っておくから」
「え、あ、すいません!」
「いいよ、気にしないで」
立ち上がり、伝票を手にレジへと向かおうとした冬村先輩は、思い出したかのように振り返って私を呼んだ。
「夕夏ちゃん」
「はい」
「本当に写真が好きだったら、入ってくれると嬉しいな。絶対に、後悔はさせないから」
そう言って、笑顔で手を振ると、そのままレジへと向かった。
翌日、私は再び『写真部』のドアの前に立っていた。
手にはあの時渡せなかった『入部届』がある。
正直、今でも不安はある。でも、冬村先輩が言った、秋原先輩の言葉を思い出す。
(今、その時にしかないものを撮りたい――)
秋原先輩が写したあの写真のような、私みたいに、見た人の心を動かす写真。
私も、そんな一枚を、撮ってみたいから――。
大きく深呼吸をして、私はドアを開ける。
「失礼しますっ!!」
私の夢は、ここから始ま――
「そぉいっっ!!!」
「ひゃぷっっ!!」
ろうとした矢先に、私の目の前は真っ白に包まれてしまった。
(え、何? 何が起こったの?)
余りにも突然の出来事に呆然とする私の周りで、シャッター音が連続して鳴り響いていた。
「いやぁ、やっと来たかメガネっ娘! 待ちわびたぞ! 何日も何日もシュークリーム片手に待機してたんだぜ! あの堅物女にばれない様にするの大変だったんだぞ!」
「シュー、クリーム?」
呟いて、私の足元を見ると、茶色いシュークリームの生地、だったものと、白いクリーム、だったものがごちゃまぜになって落ちていた。多分、何でだかは分からないけど、私が入ってきたと同時に秋原先輩がシュークリームを私の顔面に投げつけたのだろう。でも何の為に?
私の頭が疑問符でいっぱいいっぱいになってる中で、秋原先輩は満面の笑みでしゃベリ続ける。
「やっぱり予想通り、いや、予想以上だぜこいつぁ! 『メガネっ娘に、練乳入りシュークリームをぶつけたら絵的に良さ気じゃね?』とか思ってやってみたが、想像を遥かに超えるエロさだぜおい! そのぽかーんと呆気にとられてる表情もグッとくるし、何よりメガネにかかってる練乳が、まるで本物のせいえ」
「何してるのかな、秋原君?」
「……あ」
怒気をふんだんに孕んだその声に、秋原先輩はおそるおそる振り返る。
満面の笑みを浮かべながら、冬村先輩は秋原先輩に告げる。
「何か言いたいことがあるなら聞くよ? 聞くだけだけど」
「え、えーっと」
秋原先輩は終始、あたふたと視線をさ迷わせていたが、やがて意を決したのか、自信満々の口調で、親指を立てて、これ以上ない位のドヤ顔で言った。
「大丈夫、練乳は合法だから」
その後、秋原先輩に、容赦ない鉄拳制裁の嵐が降り注いだのは、言うまでも無かった。
それを見て、私は思う。
(――やっぱり止めようかな、入るの……)