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Once again…  作者: 折原奈津子
第1章
9/48

美味しい話は少し不安が付きまとう

やっとの事で1話だけ更新します



 席が空いて、テーブルについた。

翔太はチーズとたらこ、餅の入ったお好み。

私は広島風お好み。

一緒にサラダと、鶏塩もんじゃ焼きを一つ追加した。

「おや?藤森さんではないですか?」

聞き覚えのある声に振り返ると、にこやかに笑った大木部長と小栗さんがいた。

「部長、小栗さん…。今お帰りですか?」

「ええ、ついでに食べていこうかという話になりましてね」

「そうですか…。お忙しいのにありがとうございました」

「いえいえ、藤森さんのせいではないので、お気になさらずに」

「そうだぞ、藤森さん。ちゃんと原因は解明するから安心しろ」

「はい、分かってます。信用してますよ」

「なら、いいんだ。っていうか、その子は藤森さんちの子か?」

「藤森翔太です! 6歳です!」

「俺は小栗修平。28歳だ。翔太のお母さんとは、一緒にコンビ組んで仕事してる。それと、昔からの知り合いだ」

「え、そうなの?」

「そうなんですか?」

「…はぁ…まあ、そうです…」

「ちなみに翔太。俺は藤森さんに猛アピール中なので、よろしくな」

「え、ちょっと何言って…!」

「事実だろ?」

「だからそれは…」

「いいんじゃない?」

「は? 翔太?」

「もう僕のおとさんは出てっちゃったし、もういないんだからさ。おかさんがいいんなら、いいんじゃない?」

「…ふむ…翔太君は賢い子ですね」

「ありがとうございます! おかさん、やった。僕褒められた!」

「ああ…そう…ね」

 部長たちはちょうど空いていた隣のテーブルに腰を下ろし、注文を済ませる。

二人して二枚ずつと、サラダ、イカ焼きなどを頼んでいた。

  


「美味しいねぇ。おかさん」

「そうね、美味しいね」

 ニコニコ笑いながら、どんどん食べていく翔太。

最初に出てきたもんじゃ焼きを食べた後、今は自分の選んだお好み焼きに舌鼓を打っているところだ。

サッカーを始めてから、食欲がぐっと増えた。

だからか、小ぶりなお好み焼き1枚位じゃ足りなくなっている。

隣の席に座っている部長も小栗さんも、にこやかに翔太を見つめている。「翔太、今度俺とサッカーやろうか」

「え? やった事あるの?」

「あったりまえだろう? 俺は小学校から大学まで、ずーっとサッカーやってたんだぞ?」

「すっげー! じゃあ、いっぱい教えてくれる?」

「ああ、いいぞ?」

「やったぁ! サッカークラブじゃ、まだ遊びみたいなことしか出来ないからさ、僕物足りないんだよー」

「じゃ、目一杯しごいてやるよ」

「それはやだ」

「ああん? 腑抜けたこと、言ってるなよ?」

「僕、まだ子供だもん」

「おい、藤森さんよ。どんだけひ弱にするんだ?」

「別にひ弱じゃありませんけど?」

「サッカーですか…。そういえば、Jリーグのチケットを三枚貰ったんですが。藤森さんと小栗君、翔太君を連れて行ってきたらいかがですか?」

 そう言うと、部長はバッグの中を漁りだした。

「ああ、あったあった。来月の試合ですね」

「わぁ! 僕行きたい!」

「じゃあ、翔太君どうぞ。お母さんと小栗君に連れて行ってもらいなさい」

「ありがとうございます!」

「部長…すみません。でもよろしかったんですか?」

「ええ、うちは娘ですしね。一緒に行ってはくれませんから、元々どなたかに差し上げるつもりだったので」

「申し訳ありません。ありがたく頂戴します」

「じゃ、俺も一緒に行かせてもらいます。いただきます」

「いいえ、楽しんできてください」

 小栗君と行くというのにはちょっと引っかかりを感じるけれど、嬉しそうな翔太の顔を見ていたら何も言えなくなった。

サッカーの試合なんて、父親には連れて行ってもらった事はない。

勿論、一緒にボールを蹴った事すらない。

それを小栗君がやってくれるという…。

ありがたいのだけれど、どこか複雑な気分だった。


 お会計は、気前よく部長が全部払ってくれた。

「すみません。御馳走様でした」

「ご馳走様でした!」

「翔太君、美味しかったですか?」

「はい! すっごく美味しかったです!」

「それは良かった。では藤森さん、気をつけて帰ってください。僕たちは一度帰社しますので」

「はい、ありがとうございました」

「では、また明日」

「お疲れ様でした」

 二人が乗ったトラックが駐車場を出て行くと、私は翔太と手を繋いで歩き始めた。

家に着くまで、翔太は終始ご機嫌で、部長に貰ったサッカーの試合が楽しみだと、しきりに言った。

そして、小栗さんが約束してくれたサッカーの練習も、凄く期待している様子が伺えた。

翔太には聞こえないように、小さく溜息をつく。

このまま小栗さんの罠に嵌っていってしまうようで、少しだけ不安があったから。

でも自分が気持ちをしっかり持っていれば、きっと大丈夫。

そう思い直し、翔太の手をぎゅっと握り締めた。




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