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Once again…  作者: 折原奈津子
第1章
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トラブル 2



「悪い、遅くなった。で、どうなってる?」

 帰社早々、資材部に駆け込んできた小栗さん。

「小栗さん…正直私には何がなんだか分からないんです。誰が何のために、こんな事をやったのかとか…。ずっと考えてるんですけれど…」

「悪意があってやっていることなら、そう簡単に分かるはずもないよ。だけど、それでも悪意しか感じない。俺になのか、君になのか、それはまだ分からないけどな」

「これはどんな理由があったとしても、業務妨害でしかありません。我が社の社員がやった事であれば、それは処分対象となりえます」

 ブルーだったけれど、一緒に解明してくれる人たちがいるだけで、心強かった。

「今回は急いで正規の物をお届けしましょう。藤森君は、すぐに伝票処理をし直して下さい。小栗君は私と一緒に、積み込みの準備をお願いします。ああ、藤森さん、伝票が出来次第、倉庫にお願いします」

「はい! すぐに取り掛かります」

「じゃあ、俺は大型の社用車を回してきます」

「お願いします」

 パソコンに駆け寄ると、すぐに出荷伝票を入力しプリントアウトする。

部長に急いで判を貰うと、つい先日のように経理に走った。

「すみません! 小美濃主任。トラブルがあった商品の出荷をするそうなので、こちらお願いできますでしょうか」

「あら、どうしたの? トラブルって?」

「受注された品物の伝票が改竄されたんです。それで正規のお品物が届かなかったので、今小栗さんと大木部長も動いてくださっています」

「え? 大木部長も動いているの?」

「はい。業務妨害をされた可能性が捨てきれないとのことでしたが…」

「そう、分かったわ。すぐにこちらは、私のほうで処理しておきます。急いで差し上げなさい」

「はい! ありがとうございます、主任」


 伝票を入れた封筒を手に、今度は倉庫へ走る。

大型の社用車…と聞いていたけれど、まさかトラックだとは思わなかった。

ああ、でも普通に考えたら、長さがある分…トラック以外はなかったんだけれども。

いくつもの大きな箱を積み込んで、部長と小栗さんは私から伝票を受け取ると、現場で待ってくれている職人さんの下へ急いで出発していった。

今日はこのトラブルのせいで、午後はまともに業務がこなせていない。

受注伝票もかなりたまっている。

困ったけれど、残業をしないわけにはいかなかった。

すぐに学童に連絡を入れると、19時までなら預かってもらえることになった。

打ち込みは明日でも間に合うけれど、手書き伝票で起票しないわけにはいかなかった。

時間はもうすぐ定時の17時半…。

延長の場合は迎えが必要なので、残り1時間程しかないのを確認すると、急いで伝票の書き込みを始めた。


「おまたせしました、TAJIMA資材部 藤森です」

 残業しているのは男性社員ばかり。

そうなると、なかなか電話には出てもらえなくなる。

この時間帯は、たまった伝票処理をする人が多いのだ。

かかってきた電話を取ると、受話器の向こう側からは大木部長の声がした。

「藤森さん? まだいらしたんですか?」

「部長…お疲れ様です。 息子は19時まで学童にお願いできたので…。午後潰れてしまった分、受注伝票もたまっていましたし…」

「そうでしたか。でも無理はいけませんよ? 時間が来たらあがってくださって構いません」

「はい、ありがとうございます。間に合うように退社させていただきますので」

「はい、分かりました。それで今日の件ですが、納品はぎりぎり何とかなりましたよ」

「そうでしたか。ありがとうございます。助かりました」

「いえいえ、これは藤森さんのせいではないですよ。今後またこういった事態が起こったら、すぐに知らせてください。社を上げて、原因解明させますので」

「はい。ありがとうございます」

「ああ、まだ係長はそこに? 替わっていただきたいのですが」

「はい、少々お待ちください。係長、1番 大木部長です」

 保留を押し、係長に声をかけると、了解…と片手を上げながら受話器を上げた。

そこから黙々と伝票を書き込み、時間ぎりぎりまで残業をこなす。

18時半を少し回ったところで、業務を終了し退社した。




「ごめんね、翔太。遅くなっちゃって。お腹すいたよね?」

「うん、ぺこぺこだよー」

「じゃあ、今日は特別に、食べて帰ろうか」

「ほんと? じゃあ、僕お好み焼きがいい!!」

「うん、分かった。そうしよっか」

「やったー!」

 ランドセルを背負ったままはしゃぐ翔太を見つめ、少しだけ不憫に思う。

父親の愛情を受けることなく、それでも素直にまっすぐ育ってくれている。

でも愛情をもっと与えてくれる人が、いつかは必要になるのだろうか…。

わけ隔てなく、この子を愛してくれる人がいるのだろうか…。

もしいなくたって、私がその分愛情をそそぐつもりではいる。

でも、それでも…。

進行が見られない調停の事が、微かに頭をよぎる。

でも私は、こんなところで足踏みをしている場合じゃない。

嬉しそうに、自宅近くのお好み焼き店の暖簾をくぐっていく翔太。

その後を追いかけ、私も暖簾をくぐる。

思い悩んだ顔を見せている場合じゃない、今は翔太と美味しいお好み焼きを食べよう…。

少し込み合った店内に入り記名すると、翔太と並んで座って順番を待った。




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