帰ってくる人
久々&若干短め。
「今、ちょっとだけいいかな」
元夫の藤森が、たまたますれ違った社内の廊下で声を掛けてきた。
「ええ、どうしたの? 和花ちゃんに何かあった?」
「いや、そうじゃない」
離婚して2年経ち、和花ちゃんも2歳になろうとしている。
働きながら、娘を1人で世話をしている藤森は、以前よりも柔らかい印象の人になった。
よく笑う1人娘のおかげでもあるだろう。
「里美が…戻ってくることになった」
「え?」
「仮釈放が決まったんだ…」
「そう…そうなの。やっと…」
「戻ってきたら…君に会いたいと言ってきた…」
「私に?」
「ああ。…会ってやってくれないか? きっと、君に詫びたいんだろう…」
「もういいのに…」
「それでも、里美なりのけじめをつけたいんだと思う」
「…そう。わかった。帰ってきたら…会う時間を作るわね」
「すまない。小栗君にも…」
「ええ、伝えるわ」
里美さんが戻ってくる。
離婚から2年経って、今はもう複雑な思いは残っていない。
母親を知らずに2年を過ごした和花ちゃんを、私なりに見てきたからかもしれない。
これから母親として係わるのは、大変なことも多いだろう。
それでも、あのかわいらしい笑顔を糧に、頑張ってほしいという気持ちの方が大きい。
いい人ぶっていると思われる事もあるけれど、本音でそう思っているんだから仕方がない。
自分の部署に戻りながら、そう考える。
本来、小栗修平との再婚後、私は寿退社をするはずだった。
けれど、補佐の人員が足りなかった事や、諸々の事情が重なって退職が出来ずにいた。
その代わり、社員ではなく、パートでの勤務に変えてもらったけれど。
部署も営業からは出ずに、小栗専属ではなく広範囲で後方支援を担当していた。
普通なら、夫婦で同じ部署…なんてありえない。
そこは、またしても大木部長…改め次長が暗躍…という事らしい。
大木部長は前回の大騒ぎの責任を取って、降格となってしまった。
大木部長が悪いんじゃないのに、結果として損害も出てしまっている以上仕方のない処置だと言う。
みんな納得がいく話ではなかったが、部長本人はけろっとしていた。
私も辞めるつもりだったところを、残るはめになったのも、彼が原因とも言えるだろう。
大木部長…じゃなかった次長、恐るべし。
それでも…やっかみとか、陰で色々言われているのは知っている。
やっぱり、他部署に異動になるのが普通で、担当を外れただけで同じ部署っていうのは通常ならあり得ない事。
大木次長、恐るべし…とか言ってる場合じゃなく、なんで? どうして? が普通。
うん、私もそう思っている。
なんで?
なんで、私はTAJIMAに残っているんだろう。
何か、物凄く貢献したとか、そんなことは一切なくて。
普通の、ごく普通の営業補佐でしかない。
「ねえ…私、なんでTAJIMAにまだ残ってるのかしら…」
「…さあ」
「なんで、私の退職届、受理してもらえないんだろう…」
「オレニハ ワカリマセン…」
「片言になってる…何か知ってるのね?」
「…まだ知らせるなって言われてるんだよ」
「誰に」
「大木次長と…社長…?」
「……なんで疑問形になるの?」
「ごめん、もうちょっと待ってて…そう遠くない時期に発表になるから」
「……」
里美さんが戻ってきたのは、その翌週の事。
和花ちゃんともすぐに打ち解け、うまくやっていると聞いた。
それだけが、ここ最近で唯一ほっとした話だった。
8/19 役職についてご意見をいただいたので、大木次長誕生エピソードを若干変更しました。




