閑話 修平おとさんに、べたべたする結婚式場の女の人の事 ~SHOUTA~2
ま、いいんだけど。
結婚式の申し込みには、おとさんもうんざりしてた。
おかさんの機嫌は悪くなるし。
―――原因は、結婚式場の人。
「あー、もう…ここも却下だ」
「うん…僕もその方がいいと思うよ」
「……」
担当になるという女性スタッフが、資料のファイルを取りに席を立った時の話。
「なんなんだ、あれは…」
「仕事、忘れてるよね」
「……」
「…あの…な、ここはやめるからな?」
「うん、そうだね! おかさん、やめようね?」
「……当り前だわ…」
静かーに怒っているおかさんの顔が、またひきつった。
それは、その女性スタッフが帰ってきたからだ。
「お待たせして、申し訳ありませぇん(ハート)」
語尾に間違いなくハートマークが付いているかのような、その人の話し方。
漫画とかだったら、おかさんのおでこのとこに、青筋とかいうのが立ってるはず。
「こちらでしたらぁ、小栗様にも気に入っていただけるかと思いますぅ。私の一押しでしてぇ、自分の式ならこうって思ってるんですぅ」
「ずいぶん値の張りそうな、豪華な式ね。でも私達は、もう少しシンプルなものと伝えたはずです。それに、あなた。さっきから主人しか見ないし、主人にしか話さないわね」
「えー、そんなことはないですけどぉ」
「それに、接客業で、その媚を売るような話し方はいかがなんでしょうね。それだけで、こちらの式場にはお世話になりたいとは思えません」
「な…!」
「他のスタッフの方も、こそこそしながら陰でキャーキャー言っているのは見えているんですよ。遠巻きには面白くはないけれど、我慢もします。でも、あなたは違いますよね」
おかさんが怒り出したのを見て、遠くから覗いていた人達が、焦ってるのが見えた。
その中の一人が、誰かを呼びに走っていく。
多分、一番偉い人を連れてくるんだろうなぁ。
そしたら、すぐに男の人ともう一人、ちょっとおばさんな人が急いでやってきた。
「失礼いたします。申し訳ありません、うちの者がなにか問題でもございましたでしょうか」
「何分にも新人でございますので、指導が行き届いていなかったのかと…ご容赦いただけませんでしょうか」
「問題があったか? 新人だから? フロアに出すからには、そんな甘えた事でいいんですか? そもそも、この方。主人にしか目も向けず、話もせず、私達の希望も無視していらっしゃる。
なんとかなんですぅ…思いますぅ…言葉尻にハートマークをくっつけて話して、持っていらしたプランは『自分の式ならこう』…それが私達に関係あります?」
「も、申し訳ございませんっ!」
「それから…遠巻きではありましたけど、他の女性スタッフの方々も陰でキャーキャー言ったりと、非常に不愉快でした。」
「…私達は既に籍も入っている夫婦ですし、子供もいる。記念にシンプルな式がしたかっただけなんです。妻が気に入らない式場やプランは使う気にはなりません」
「かさねがさね、申し訳ございません! きつく申し渡しますので…」
「そうしてください。でも、こちらとはご縁がなかったという事で…帰ろうか、綾子、翔太」
「ええ」
「うん、帰ろう!」
ここは4ヶ所のうち、2つめに話を聞いたところ。
ここが一番ひどかったんだよね。
でも、次に話を聞きに行ったところは、あの変な…おとさんにベタベタする人はいなかったし。
小さい教会と、広い庭でパーティーも出来るんだって!
だから、おかさんも、おとさんも、もちろん僕も気に入ったんだ。
すぐに申し込んで、ドレスももちろん僕とおとさんで選んだんだ。
「おかさんには、絶対これだよ!!」
「紫かよ!」
「ラベンダーって言うんだよ! 知らないの?」
「悪かったな! 知らなくて!」
「…煩いし…」
「じゃあ、翔太がそっちのパーティードレスなら、ウエディングドレスはこっちな?」
「…背中開きすぎ…」
「おとさん、エロい!!」
「うっせー!」
「いや、修平が煩い…」
でもおかさんは、きっと僕たちの選んだドレスにしてくれる。
それで、本当に僕たちが家族になったんだって、周りの人にも分かってもらえるような思い出に残る式になる。
うん、きっと…。




