Wedding dress
入籍後、まずは式場を選びを始め、半月ほどかけて…4軒のうち3軒目に話を聞いた式場に決定した。
決定打は…かわいらしいこじんまりとしたチャペルが併設されていた事と、翔太が言う『修平おとさんに、べたべたするお店の人がいない』事だった。
他の式場は、翔太にとって面白くなかったらしい。
「そっか、そうだな。俺もいやだな。よし、3軒目の式場に決定! それでいいよな?」
男の子が嫉妬するってどうなのかとも思うけれど、それだけ修平に懐いているんだろう。
休みの日は一緒にサッカーの練習をしたり、公園に出掛けたりもする。
早く帰れた日は、宿題を見てもらったりしている。
今までは私一人で見てきていたものを、血の繋がりはないものの男親に頼れるようになり、翔太も一段と成長したように思う.
今日も一緒に算数の宿題をしながら、まわった式場の善し悪しを…二人で討論している。
「宿題、進んでるの? 集中しないと、終わらないわよ?」
そう口を挟んでみる。
「大丈夫。もう終わるから」
あっさりと翔太に切り返される。
味方を得て、以前よりも口達者になってきたように感じる。
藤森と今も一緒に暮らしていたら…こうはならなかったろう。
翔太の成長をこうして見られただけでも、修平ともう一度やり直す事にしたのは間違いではなかった。
「修平…」
「うん?」
「…ありがとう…」
「あ? ん…まあ…いいよ、そんなの言わなくても」
なんとなくお礼が言いたかった。
でも、一瞬何事かという顔をしたけれど、すぐに照れくさそうに切り返す修平。
「それでもね…なんとなく…言いたかったの」
「…ん。まあ…これからだ…」
「そうね…」
結婚式当日。
天気に恵まれた暖かなその日、ささやかなチャペルでの式と、ガーデンパーティーを執り行った。
ウエディングドレスは、スレンダーなAラインのシンプルなドレス。
それでも、腰の辺りまで背中がぐっと開いていて、少し恥ずかしかった。
ガーデンパーティーは、淡いラベンダーカラーのドレス。
こちらは、ビスチェタイプのドレスにしたので、肩が丸見えなのが気になる。
…両方、修平と翔太が選んだもので、却下がしにくかった。
「おかさんには、絶対これだよ!!」
「紫かよ!」
「ラベンダーって言うんだよ! 知らないの?」
「悪かったな! 知らなくて!」
「…煩いし…」
「じゃあ、翔太がそっちのパーティードレスなら、ウエディングドレスはこっちな?」
「…背中開きすぎ…」
「おとさん、エロい!!」
「うっせー!」
「いや、修平が煩い…」
そんなこんなで、ドレス選びは煩さと恥ずかしさの中で行われたのだった。
今日はそんな二人が選んだドレスで、参列してくれた両親や友人、同僚達の前に立つ。
修平はシルバーグレー系のタキシードだ。
和やかに、にぎやかに…時間は過ぎていく。
「ここで、祝辞を読ませていただきます」
たくさんの花と一緒に、取引先や、遠方にいる友人達からの祝辞が読み上げられる。
「最後に…ご結婚おめでとうございます。心から君達家族の幸せをお祈りいたします。
藤森 隆弘、里美、和花」
「…藤森? あの人が…?」
「うん。式にも来てくれって言ったんだけど、自分達が行くと縁起が悪いからって断られた。だからせめてって事で、祝辞をくれたんだと思う」
「そう…」
「里美さんももうすぐ出所してくるみたいだし、今度は幸せになって欲しいな」
「そうね。そうなって欲しいわ」
もし彼らが、こんな風に結婚式をあげる事があるのなら。
その時は、私達もお祝いの言葉を伝えてあげたい。
私と藤森は別の道を選んだけれど、翔太と和花は兄妹としての絆があるのだから。
でもまずは、彼らが3人揃う日が一日も早く来るように…それを祈るだけ。
「お礼、しなくちゃね…」
「ああ、そうだな」
彼らにも届くように…その後のブーケトスは、大空に向けて思いっきり投げ上げる。
風に乗って彼らにも…受け取った人にも、私がもらった幸せのおすそ分けが届くように…。




