閑話 10年愛3 ~Syuhei~
見つけた! そう思った。
約10年、会う事も叶わず、居所もつかめなかった。
でも、藤森って名前からすると…結婚したって事か…?
正直言ってその事実は、俺を打ちのめした。
しかも勤務先で再会しているのだから、社内でプライベートな話なんか出来やしない。
「どうやって…綾子に近付くか…」
よくよく考えれば、綾子が中途入社以来担当している取引先の大半は、俺が担当している企業ばかりだ。
今回のトラブルを乗り越えれば、今以上に担当する取引先も増えていくだろう。
前もって、大木部長に話を通しておくのも悪くない。
加工が終了した2時間後。
車を回し今回緊急で運ばなければならない部品を積み込むと、カタログや請求書・資料を持っている彼女に車に乗るように促す。
大木部長に現場に行く事を指示されて、渋々乗り込んだ綾子。
その綾子に、今までの事を聞いてみたいと思った。
「なあ綾子…聞いてもいいか?」
「何? て、名前で呼ばないで下さい」
「…いつうちの会社に入ったんだ?」
「3月からよ」
「…なんでって…聞いてもいいか? だってお前、結婚したんだろう?」
「離婚調停中…」
「あ、そっか…悪かった…」
「いいの。でも子供を育てていかなくちゃいけないし、頑張らなくちゃって思って」
「子供っていくつ?」
「6歳。1年生になったばっかり」
「男? 女?」
「男の子よ。学生時代の小栗さんと一緒で、サッカーに夢中なの」
「2人の時くらい、さん付けやめない?」
「…でもけじめつけないと」
「まあいいや、今はね。離婚調停ってことはさ、別居中ってこと?」
「うん、マンションは売るつもりだし。でもローンがいっぱい残ってるから、そうそう売れそうもないわよね。小栗さんは?」
「俺? 相変わらず独身だし、そう遠くもないところに実家もあるし、寮じゃなくて部屋借りてるけどね」
「そうなの。でももててそうだし、実家や寮じゃ困るものね」
「なんで?」
「だって女の子連れて行けないじゃない?」
「連れて行きたいと思う子がいなかったからね。この10年は」
「あら…」
「だから早く離婚しちゃって?」
「…は?」
「ほら、着いたよ」
ふと漏らしてみた俺の本音。
離婚調停中なんだったら、諦めない…そう思った。
時間は掛かるかもしれない…
でも10年、綾子以外はいらないと…そう思って待ってきたんだから、あと少しくらいはなんて事もない。
そうしてやっと…綾子は俺の元に帰ってきた。
翔太っていうお土産付きで。
離婚成立から半年待って、俺はやっと正式に綾子を手に入れた。
入籍だけでいいと言う綾子を説き伏せて、こじんまりとした式を挙げた。
藤森さんの時は和装だったらしいから、こちらは対抗してではないけれど洋装にした。
オフホワイトのシンプルなドレスに、生花をあしらったアップスタイルの髪、そして淡いクリーム色のレースが飾るマリアベール…。
そんな俺の花嫁が、綾子だっていうのが何よりも嬉しかった。
翔太もそんな綾子を見て、目をキラキラさせている。
「おかさん、すっごい綺麗だ! 僕も大きくなったら、レミちゃんにそうゆうドレス着せてあげよう!」
「 「 レミちゃん…? 」 」
…どうやら翔太のクラスメートで、初恋の女の子らしい。
でもレミちゃんは、やっぱり同じクラスでサッカー部の男子がお気に召しているらしい。
…気の毒な翔太…。
「翔太。だめでもな、10年想い続けてみろ? そしたら、俺みたいに手に入れられるかもしれないぞ?」
「ほんと?」
「…時と場合によるでしょう? 変な事、教えないで?」
でも、きっと願えば叶うさ。
今日の俺のように…。
今ではTAJIMAに勤務している藤森氏は、自分が行くと縁起が悪いと式に出席する事はしなかった。
でも、現在も収監中の妻である里美さんと連名で、祝電を送ってくれていた…。
彼らも背負うものは大きいが、幸せになって欲しいと思う。
…綾子を取り戻せた今、心からそう願っていた。
次回からは、通常内容での更新に戻りますw
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