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Once again…  作者: 折原奈津子
第1章
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彼の気持ち…





 帰りの車内は、ずっと無言のままだった。

というか、私的にはプライベートのことをベラベラ話されたのも納得いかないけれど、勝手に捨てたみたいに言われてむかついていたから。

捨てた記憶なんかない。

だって、あの頃は転勤で引越しの準備もあったし、彼も受験で精一杯だった。

移動先で落ち着いて、彼も大学生活に慣れてきた頃には、メールしたって返事も殆ど来なくなっていた。

加えて言えば、彼からのメールも電話も皆無に等しかった。

だったら…捨てられたのは私じゃないの?

普通はそう思うはずだ。

なのに『別れたつもりはなかった』とか『いつの間にか結婚して…』なんて言う。

窓の外をぼんやり眺めながら、そんなもやもやした気持ちを切り捨てようって試みる。

「…何を考えてる?」

 ふいにそんな風に問われて、彼の方にチラッと視線を送る。

「…別に何も…」

「そんな風には見えなかったけど?」

「だとしても、自分の中で消化したい事なので、小栗さんには関係のないことです」

「それでも知りたい。今何を考えてるのか」

「…教える気はありませんよ」

「なぜ?」

「小栗さんの事じゃないからです」

「…そ…」

 嘘ばっかり…今考えてたのは夫との離婚調停の事でも、仕事の事でもない。

翔太の事でもなく…今日彼の言った言葉についてだった。

「…あの時さ、俺受験でいっぱいいっぱいだったろ?合格してもバイトばっかりでさ。綾子も転勤だったし、移動先は結構遠かったじゃん?」

「…今話す必要ありますか?」

「今じゃなきゃ話も聞いてくれそうもないからな。で、綾子からメールが来てもなかなか返事も出来なかったし、帰ってくるとバタンキューでさ…電話をかけてる余裕もなかった」

 信号で止まると、こちらをじっと見つめてくる。

その視線が真剣に付き合っていたあの頃のようで、なんとなく言ったまれない気持ちが一杯になる。

「…もう済んだことよ…」

「いや、まだだよ。だって俺は、別れたつもりはないからな」

「今更じゃない!」

「…お前は待てなかったのかもしれない。俺を信じられなかったのかもしれない。でも俺は、待っていてくれるって信じてた。誰よりもお前が好きだったから!」

「…じゃあ、私のせいだっていうの?」

「そんなことは言わない。俺がもっと連絡してやれていたら、それだけで違ったのかもしれない。でもそれが出来なかった…でもきっと大丈夫だって、思い込もうとしてたよ」

「…それこそ今更よ…」

「離れ離れになって10年か…。でも俺は、忘れた事はなかったよ。今までも付き合ってた女はいるけど、それでも忘れた事はなかった。お前以上に、好きだった女はいない…」

「…残念だけれど、私は結婚しているのよ」

「離婚調停中だろ?」

「だとしてもよ。私は夫と同じ事はしたくないの。絶対にしたくない…」

「だったら俺は、調停が終わるのを待つよ」

「やめてよ、そんなこと聞きたくない…」

「待つよ…今度こそ…」

「聞きたくない!」

「綾子!」

 必死に耳を塞ぎ、彼から目を背けた。

その私の手を掴むと、耳から引き離す。

そして今、彼の口からは聞きたくなかった言葉を、彼は口にした…。

「今でも愛してる…綾子…」




 今日は直帰の許可を得ていたから、私は最寄の駅で社用車を降りた。

そしてそこから、一番早いルートを使って帰宅する。

駅に着いた時点で、いつもよりも少し遅くなっていた。

電車に乗る前に、翔太に連絡を入れる。

「もしもし、翔太? ごめんね、ちょっと遅くなっちゃったの。急いで帰るから待っていてくれる?」

「うん、僕なら平気だよ。気をつけてね、おかさん」

「うん、ありがとう。じゃあ、急いで帰るからね」

「分かった。じゃあね」

翔太との電話を早々に切ると、ホームに停車中の電車に急いで乗り込む。

いつもの電車ではないけれど、今からならいつもより30分程度遅くなるだけで済むだろう。

誰に似たのか、素直に育ってくれているのだけが救いだった。

夫は当時の上司に薦められた見合いで知り合い、結婚した。

初めのころはまだ良かった。

翔太を妊娠した時は、ものすごく喜んでくれていたのだから。

変わったのは、彼が今の部署に移って半年ほど経ってから。

今から3年くらい前だったと思う。

もう既に気持ちは離れてしまっているけれど、今の人と一緒になったとして…また同じことをしないといいけれどって思う。

そして、あたしが生きてきたこの10年と同じ期間を、彼はどんな風に生きてきたんだろう。

どんな人と付き合って、どんな風に感じてきたんだろう。






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