やる気に溢れて
ここ最近は、早退をさせてもらったりしていたせいで、やや業務が滞っていた。
昼食は、片手でも食べられるような、サンドイッチやおにぎりを持参し、おかずもフォークやピックなどで刺して食べられるもの。
それでやっと、残業をせずに日々まわしていけるようになっていた。
残業になるとしたら、せいぜい1時間程度。
そんな時は、翔太も学童を延ばしてもらって、預けている。
暫くは和花がいなくなったことで落ち込んではいたけれど、段々と落ち着きを取り戻してきている。
最近の口癖は【妹は和花がいるから、弟が欲しい…】だ。
「今日もまた、弟はいつ来るんだって言ってたぞ?」
「また? 気が早いったらないわね」
「やっぱり寂しいんだろうな」
「それは分かってるけど…今はまだ無理よ」
「うん、あと1ヶ月は我慢だな」
「そうね、あと1ヶ月…」
離婚から、やっと5ヶ月が経とうとしている。
やっと、私達も新たな一歩を踏み出せる。
昨日、出勤した時に社内で遭遇した隆弘が、まだ収監されている里美さんと、所謂【獄中結婚】をしたと告げてきた。
和花も認知して、実子として入籍したと言う。
慣れない男手での子育てと勤務で、若干やつれてはいるが、憑物が落ちたかのような表情をしていた。
「初めて自分一人で子育てするんですもの、大変でしょう? しかも働きながらだものね」
「そうだな。翔太は君に任せたきりだったから、今度は頑張らないと。あと何ヶ月かしたら、離乳食もなんだよな…。予防接種も何度もあるし…こんなに大変だとは思わなかった」
「でも…かわいいでしょう?」
「ああ…。翔太がかわいくないわけじゃない。でも、やっぱりな…女の子だし」
「頑張って、新米パパ!」
「ああ…ありがとう…」
そう言うと手を上げて、歩き出し…振り返らずに資材課の方へ歩いていく。
これからも折を見て、色々話すこともあるだろう。
それでも、道が分かれてしまった、一度は愛した人の背を見送った。
「これ、大至急、見積もり出してくれるか?」
今日の午後は、なんだか慌しくなっていた。
「今日はどうしたのかしらね…急にこんなに…」
「耐震化の工事を請け負ったらしいぞ、安井さんのとこが」
「ええ!! そうなの?」
「ああ、結構でかい仕事らしい」
「それでうちにも?」
「そういう事。ただうちも、しっかりとした製品を提案しなくちゃいけないからな。ここが正念場だな」
「そうね、頑張りましょう…みんなで。私も出来る限りのサポートをするわ」
「ああ、頼むよ」
お互いに笑顔で、周りの仲間を見渡す。
みんな自信の溢れる、やる気に満ちた表情で私達を見返していた。
繰り返しなり続ける電話に応対しつつ、PCを操作する。
そんな単調な作業でも、一丸となって立ち向かえる。
そんな仲間がいる事が、やけに嬉しく感じていた。
それは専業主婦だった時には感じる事のなかった、そんな感覚で。
まだ1年に満たない勤務期間…。
それでも、ここで、支えになれる事が嬉しくてならなかった。
今夜はちょっぴり短め…。




