閑話 贖罪 ~TAKAHIRO~
お待たせしていましたが、暫くかけてやっと1本…。
本編ではなく、隆弘視点です。
因みに、ドロドロご期待の方は回れ右してください。
ドロドロさせるのは、本意ではないのでさせていません。
今後もさせるつもりもありません。
よろしくお願いします。
初めはほんの出来心だった。
直属の部下として、紹介予定派遣の女性がやってきた。
なにより即戦力になったし、女性らしい外見も好みだったこともあるし…。
妻が出産して半年、家の事も俺の事も手を抜かずにやってくれるが、それでも子供が小さいうちは手がかかるわけだ。
…要は、ご無沙汰だったわけで。
彼女…誉田里美と組んでやった大きな仕事も目処が立ち、それを労う意味合いもあって食事に誘った。
そして…飲んだ勢いで、俺は彼女の部屋に上がりこみ、過ちを犯した。
1度が2度、2度が3度と回数を重ね、のめり込んでいった。
子供は自分の血を引いているが、どうしてもかわいいと思うことが出来なかった。
それは妻の綾子が妊娠中からで、どうしても欲しいとは思えなかった。
里美との行為を繰り返すうちに、妻への気持ちも薄れていく。
望まない妊娠を里美がする度に、堕胎を繰り返させた。
里美は嫌がったけれど、嫌なら別れると言えば従った。
そんな関係が数年続いて、自宅に帰ることが減り、生活費を入れる事もしなくなった。
流石に夫婦名義のマンションのローンだけは、専業主婦だった綾子のことを考えて支払ったけれど。
綾子は暫くは貯金を切り崩していたようだが、息子の翔太が小学校に入ると早々に勤めを始めたらしい。
それから暫くして、里美がまた妊娠して、今度はもう堕胎が出来ないという診断で仕方なく俺は自宅を出て里美の部屋に転がり込んだ。
転がり込んだって言うのはおかしいか…俺が費用を出していた部屋だからな。
薄々感づいていたらしい綾子だったけれど、出て行くと言った時だけは流石に怒り狂っていたな。
「里美に子供が出来た。だからそっちには戻らない」
「そう…じゃあこちらはどうしたらいいんですか? こっちにもあなたの息子がいるんです。その責任は?」
「お前がいるだろ? それでいいじゃないか」
「…正式に離婚するという事ですか?」
「当たり前だ。じゃなきゃこっちにいる意味がないだろ」
「ならば、こちらは正当な養育費と慰謝料を請求します」
「そこのマンションをくれてやる。それでいいだろ」
「冗談でしょ? ここの頭金で払ったお金は私の貯金じゃないですか! ローンだって残っているのに!」
別に里美に心底惚れていた訳じゃない。
色々と都合が良かっただけだ。
それでも愛せない子供との暮らしより、愛せるかもしれない子供を選んだだけだった。
離婚調停も始まって、綾子からは慰謝料請求が出ていた…まあ当然か。
妊娠して仕事を辞めてはいたが、里美にも当然慰謝料請求がされていた。
それもまた当然だな…長いこと俺の愛人になってるんだからな。
だがそれでも、請求されている金額は200万と月々の養育費。
…200万は…マンションの頭金として、綾子が出した金額だ…。
綾子と翔太がマンションを出て、空き家になったマンションに時々立ち寄った。
自分で選んだ暮らしだったが、空しさも感じていた。
ほんの出来心だったはずが、必死に縋り付いて来る里美をかわいいとさえ思っていた。
愛情も持ち合わせていなかったのに…。
あっさり捨てた妻子を思い出すように、度々マンションを訪れ、少しずつ荷物を運び込む。
いずれマンションに引越そうとして…。
…どこでおかしくなったんだろう…。
綾子との結婚当初は愛情を持っていたし、幸せでもあったはずなのに。
なぜ、こんなことになったんだろう。
自業自得なのは判っていたけれど。
なかなか離婚に応じない俺に、里美はイライラして当り散らすようになった。
もううんざりだった。
俺は一人きりのマンションに完全に戻り、時々飲みに行く店の女の子の部屋に転がり込むこともあった。
里美からの連絡は着信拒否をして、完全に放置をしたのは里美がもうすぐ妊娠5ヶ月に入る頃だったろうか…。
「藤森さんですか? 奥様から離婚の件で依頼を受けております、弁護士の賀来ともうします」
「綾子の?」
「ええ。実は、誉田里美さんですが…あなた方の息子さんの翔太君を襲い、怪我をさせるという事件を起こしましたよ」
「翔太が?」
「ええ、幸い怪我は軽度で済みましたが、奥様は調停を一日も早く済ませたいとの事です。いかがでしょう、この辺で…」
「…そうですか…」
「話し合いの場は準備されますか?」
「いえ…私のせいですから…。彼女の…綾子の希望を受け入れます…」
「本当にそれでよろしいのですか?」
「今更嫌だと言っても、もう遅いですからね…」
「……」
「これでもね、後悔はしているんですよ。なんでこんなことをしてしまったのかって…。だからせめて、彼女の希望を叶えてやりたい。かわいがってやることが出来なかった翔太のためにも」
「わかりました。ではそのように…」
「お願いします…」
離婚が成立したのは、それから半月後。
慰謝料の200万、毎月の養育費、そして…翔太との面会を望まない事が条件とされた。
翔太には申し訳ないが、会いたいと思うことがないと…そう思えたから。
綾子は、俺が里美を捨てて別の女の部屋にいると思っていたようだ。
実際はマンションに戻っていたんだが…。
里美は一応執行猶予がつき、それでも精神を病んでいたらしく実家へ引き取られていったと聞いたのは、それからすぐの事。
きっとこれから里美の両親にも、俺は訴えられるのかもしれないな。
ほんの出来心だったのに、俺はすべてを失うんだろう。
それなりに幸せだった思い出の残ったマンションを売りに出し、一部を慰謝料と引越し代にあて賃貸マンションに移って…独り寝の夜に思い出す。
静かではあったけれど、確かに幸せだったはずの過去を。
俺が壊さなければ、続いていただろう未来を。
願わくば…綾子と翔太を、心底愛してくれる誰かが、二人を支えてくれたらいい。
「隆弘さん…」
掠れた女の声に振り返る。
「…里美…?」
「隆弘さん…お願いです…。この子と私をあなたの側に置いて欲しいんです…。愛されてはいないのかもしれない。でも、どうしても…私たちにはあなたが必要なんです…」
「……」
「お願いです…どうか…側にいさせてください…」
そろそろ臨月だったか…大きなお腹でスーツケースを引いて、俺を探していたらしい。
たまたま退社する時間を見計らって、会社の側でずっと待っていたんだろう。
疲れ切った顔をして、縋るような目をして…。
「…帰るぞ。荷物をこっちに寄越せ…」
「隆弘さん…」
「…お前達を愛してやれるかどうかはわからん。でも、不幸にしてしまった二人の分も、努力はしよう…それでいいか?」
「はい…!」
「じゃあ、さっさとしろ。確かそろそろ臨月だったろう? そんな身体で何をやってるんだ」
「あ、すみません…」
「引っ越したからな…ここから少し離れているし、通勤は車でしている。こっちだ…」
「は、はい…」
せめて不幸にした今までの分、綾子と翔太を悲しませた分…里美を支えながら生きていく。
それが俺の贖罪になるはずだから。
社屋の側に借り上げている、駐車場まで里美のスーツケースを引いてゆっくり歩く。
数歩後を、里美が泣きそうな顔でついてきていた。
駐車場に到着すると荷物を後部座席に放り込み、助手席に里美を座らせるとシートベルトをお腹の下を通す様に締める。
「行くぞ。具合が悪くなったら、直ぐに言え」
「はい…」
ゆっくりと車を出し、自宅へ向かう。
…愛してやれるだろうか。
長年一緒にいた分、情はある。
愛してやれるように、今度は俺も努力しなくちゃいけないな…綾子と翔太のためにも。
それが俺に出来る、ただ一つの贖罪だから…。
隆弘の『これから』が、孤独であったりとか散々な目にあうことをお望みだったらすみません。
なんだかんだいっても、里美のお腹の子には罪はないので、償わせようかなって思ったのです。
お読みくださってありがとうございます。
亀更新ではあると思いますが、今後もかけるときは頑張って、完結させようと思います。
よろしくお願いします。




