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Once again…  作者: 折原奈津子
第2章
31/48

新たに進む道

お待たせしました!




「ちょっと! 翔太がいるでしょ!」

「大丈夫だって。壁で見えてないよ」

「そうゆう問題じゃないのよ!」

「照れ隠しか?」

「違うわよ!」

 ほんと、場所を考えて欲しいと思う。

「…綾子…いつ引っ越してきてもいいか? 元々俺、そんなに荷物もないし。っていうかさ、翔太の学区内で引っ越すってのもありじゃないか?」

「は?」

「え? 僕たちも引っ越すの?」

「それもいいかなって思ってさ」

「学校は? 変わっちゃう?」

「変わらないように、近くに探そうかって思ってる」

「不経済じゃない?」

「まだ暫くは共稼ぎだし、引越しするなら今のうちだろ? 俺、この10年バイト代も含めてずっと貯蓄してたしね。そこそこ貯まってんだよ…余裕で頭金に出来る」

「…は? 頭金?」

「通学コースは変わるかもしれないけどね、ここからもそんなに離れてないところにさ、建売が出てるんだよ。実はこの間内覧会に参加してさ、見てきたばっかりだよ」

「…断わられたらどうするつもりだったの?」

「断わられるつもり、まったくなかったからな」

「……」

 断わられるつもりなかったって…どれだけ自信家なんだろう。

「お前、それだけ自信家なんだって思っただろ」

「……」

「当ったな? ったく…自信なってなかったよ。お前、滅茶苦茶頑なだったし。必ず取り戻すって決めていても、もう無理かもしれないって何度も思った。だから…」

「だから?」

「願いが叶った証として、これからずっと一緒に暮らしていける家を持ちたいって思ったんだ」

「…修平…」

「お前と、翔太と俺、それとこれから生まれてくるだろう子供と一緒に暮らせる家…どうしても俺は持ちたいと思ってるんだ」

「…ここじゃ駄目なの?」

「ここが駄目ってわけじゃない。でも、新たに始めたいって思ってるんだ」

 黙りこんだ私に、縋る様に視線を向ける2人。

「翔太。翔太もそうしたい?」

「僕はおかさんと、おじ…おとさんと一緒ならどこでもいいよ」

「翔太、お前…」

 翔太と目線を合わせるために、修平がフローリングに跪いた。

少しだけ自分より低くなった彼の目を見て、翔太が訴えるように口を開いた。

「だって、僕のおとさんになってくれるんでしょう? 違うの?」

「違わないよ。俺が翔太のおとさんになる。ずっと一緒にいる…ありがとう、翔太」

 少しだけ目が赤くなっている修平が、私を見上げる。

「どうしよう、俺。今、滅茶苦茶幸せだ…」

「…家を買うかは、私達も一緒に見に行ってからにしてね」

「ああ、そうだな。一緒に見に行こう…」

 

私が修平をもう一度受け入れようと決めてから、色々な事が一気に動き出した。

一緒に見に行った建売は、お互いに建築に関わる仕事をしている分、見る箇所が細かくなる。

耐震設備もそうだし、内装、塗装に至るまで細かくチェックを入れる。

クローゼットやハンドル等も、私達の勤務先であるTAJIMAの製品であったし。

一番気に入った戸建ては、システムキッチンの高さが少し低いので、少し高めに調整が可能らしく購入が決まれば早速手配してくれるという。

 ローン申請に必要な書類を受け取り、3人揃って帰宅をすると、見取り図を広げて家具の配置や部屋割りを話し合う。

自分用の個室を持てると、翔太は大喜びだった。

購入予定は3SLDKの一戸建て。

私達の寝室と、仕事用の小さなサービスルーム、翔太の部屋…そして未来に増えるであろう子供の部屋。

そう考えた時に、彼の部屋にも、私達の部屋にも、荷物があまりないことを思い出す。

「…家具、買い足さなきゃ駄目ね」

「そういやそうだな…」

「でも今あるのは、小さいものばかりだし…いっその事リサイクルに出して買い換えた方が良さそうね」

 そう言って私は立ち上がってキッチンに向かい、食器棚の引き出しから小さな箱を取り出す。

リビングに戻ると、その箱を修平に手渡した。

「何?」

「開けてみて?」

 手渡した箱を修平が開ける。

中に入れてあったのは、私の預金通帳だった。

「…綾子、これは使えない」

「ううん、使って欲しいの。それがあると、隆弘との事をすっきりさせられないもの」

「…後悔してる?」

「ううん、後悔はしてない。離婚に至ったのは、お互いを思いやる気持ちが足らなかったからだもの。あなたとの生活の中でそれを繰り返さないように…、それだけよ」

「ありがとう…俺も頑張るよ。年下だから頼りなかったなんて言われないように…」

「そんな事は言わないわ。余所見をしないでくれたら、それで充分よ」

「お前なぁ、離れてる間も余所見出来なかった俺に、そんな事言うのか?」

「…一般論よ…」

「それならいいけどな」

 一歩進んだ私達の未来への道。

それが今後、明るいものであって欲しい…それこそが私の本心で、願いでもあった。

ひたすら今後も続くはずの幸せを願っていた。





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