もう一度…
6/20~6/26ごろまで、WEB環境にありません。(プロバの設定工事のため)
なので、予約にてUPします。
彼が口にした【もう諦めたほうがいいのかって悩む事もあった】という科白。
それを考えると、随分我慢させてきたんだなって思った。
バツイチだから…子持ちだから…離婚したばっかりだから…。
そうやって、彼にたくさん自分を抑えさせて、私は自分の事ばっかりだったんだって思う。
「ごめんね、修平…」
藤森に連絡をしてから2日。
今日は…約束の日だった。
「もしもし…私です。近くまで来たので…」
「わかった。ビルの中に喫茶店があるだろう? そこにいてくれ」
彼が勤務しているビルの中には、小さなカフェがある。
そこに入って、グレープフルーツジュースを頼んだ。
5分程で出てきたジュースには果肉が入っているのを考えると、グレープフルーツを絞って作っているんだろう。
「待たせたな」
「いえ…たいして待ってません」
「そうか…で、話って?」
「翔太の事です。今後の事を確認したいんです」
「今後の事? 養育費なら払うと言ったろう?」
「養育費は関係ないわ。あなたの事だもの、すぐに都合が悪くなって払わなくなるに決まってるわ」
「そんな事はない。大丈夫だ」
「兎に角、今日はそんな話じゃないの。あなたは今後、翔太に会おうとする気はないって本当ですか?」
「何だ? 藪から棒に…」
「あなた、私と別れる原因になった方とも別れたんですってね。お腹も大きいのに…」
「いらないと言っている子供を、あいつは産むと言って聞かなかったからな。今一緒にいるヤツは、子供が嫌いなんだとさ。だから安心して一緒にいられる」
「じゃあ、翔太にも会いに来ないでいただけますね?」
「あ? 元々そのつもりだ。安心しとけよ」
「そう、よかった…」
「新しい男でも出来たのか?」
「あなたには関係ないことです。じゃあ、私はもう用事もないですし、帰ります」
「そう、じゃあ元気でな」
翔太には会う気はない…それが聞けただけでも良かった。
それだけ解れば、私は前を向ける。
そんな人だったんだと、きれいさっぱり忘れられるかもしれない。
だから、私も彼の事…修平との未来を考える事が出来るかもしれない…そう思った。
「ただいまー」
「おかえり、おかさん!」
夕方藤森に会いに行ったから、もう翔太は帰宅していた。
「ただいま。ごめんね遅くなって」
「そんなに遅くないよ。でも早くしないと、もうじきおじちゃんが来ちゃうよ?」
「そうね、急いで食事作らなくちゃね」
急いで着替えて、キッチンに立つ。
「ねえ、おかさん?」
「何?」
「…おじちゃん…おとさんになってくれる?」
「翔太?」
「僕…おじちゃんといつも一緒にいたいんだ…」
「…そっか。でもね、もう少し待ってくれる?あと何ヶ月かは、おかさん…お嫁にはいけないの」
「なんで? もうおとさん、いないんだよ?」
「うん、でもね、そうゆうお約束がね、偉い人としてあるの。だからもう少し待っててくれる? その間に、おじちゃんともよく話してみるからね」
「うん…」
「ごめんね」
インターフォンが鳴って、翔太が飛び出していく。
「おかえり、おじちゃん!」
「ただいま、翔太。綾子は? 帰ってるのか?」
「お帰りなさい。帰ってるわ」
「ああ、ただいま」
いつものようにジャケットとバッグを受け取り、リビングへ向かう。
「修平、車は?」
「パーキングに入れてきた」
「そう…ここにもう1台借りた方が経済的かしらね。空いてるみたいだし」
「そうなのか?」
「ええ、下に張り紙があったもの。明日にでも聞いてみるわ」
「…いいのか?」
「何が?」
「俺がいつでもここに来れるようにって…事だぞ?」
「そうね」
「…綾子?」
「翔太がね、修平におとさんになって欲しいんですって」
「うん! 僕、おじちゃんにおとさんになって欲しい!」
照れくさそうに翔太を見て、修平がうっすらと微笑む。
そして、まっすぐ私を見て問いかけてきた。
「お前は? 俺がいても…いいのか?」
「…いいんじゃないかと思うわ」
「…綾子…」
「まだね、6ヶ月経たないから…きちんとする事は出来ないわ。というよりも、すぐに入籍するのはいかにもって感じで嫌なの。だから…暫くは…」
「…一緒に暮らすことは?」
修平と共に、翔太が期待をこめた視線を送ってくる。
「…いいわ…」
妙に照れくさくて、それだけ言うとキッチンに逃げ込んだ。
「やったー!!」
リビングから叫んでいる翔太の声が聞こえる。
「綾子…!」
キッチンに飛び込んできた修平に、背後から抱きすくめられた。
そして耳元で【ありがとう…】と囁く声が聞こえた。
顎をつかまれて、修平のほうへ振り返る。
「愛してる…もう絶対に離さない」
その声と同時に、振り返った私のそれに唇が重なった…。




