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Once again…  作者: 折原奈津子
第1章
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新人の初仕事


「どうして? わざわざ助手席…」

「荷物が一杯だから」

 きっぱり言われてしまうとなんにも言えなくなるけれど、普通ならカタログとかサンプルとかは助手席に置いておく方が楽なはずなんだけど。

「細かい事、気にすんなよ」

 何か言いたげだったのがばれたのかもしれない。

そうなところは昔から変わらないんだな…。

「なあ綾子…聞いてもいいか?」

「何? て、名前で呼ばないで下さい」

「…いつうちの会社に入ったんだ?」

「3月からよ」

「…なんでって…聞いてもいいか? だってお前、結婚したんだろう?」

「離婚調停中…」

「あ、そっか…悪かった…」

「いいの。でも子供を育てていかなくちゃいけないし、頑張らなくちゃって思って」

「子供っていくつ?」

「6歳。1年生になったばっかり」

「男? 女?」

「男の子よ。学生時代の小栗さんと一緒で、サッカーに夢中なの」

「2人の時くらい、さん付けやめない?」

「…でもけじめつけないと」

「まあいいや、今はね。離婚調停ってことはさ、別居中ってこと?」

「うん、マンションは売るつもりだし。でもローンがいっぱい残ってるから、そうそう売れそうもないわよね。小栗さんは?」

「俺? 相変わらず独身だし、そう遠くもないところに実家もあるし、寮じゃなくて部屋借りてるけどね」

「そうなの。でももててそうだし、実家や寮じゃ困るものね」

「なんで?」

「だって女の子連れて行けないじゃない?」

「連れて行きたいと思う子がいなかったからね。この10年は」

「あら…」

「だから早く離婚しちゃって?」

「…は?」

「ほら、着いたよ」

 意味不明な事を言われて呆然としていたところに、急に現実が見えて慌てて降りる準備をする。

駐車スペースに車を停めると、小栗さんはすぐに安井様に連絡を入れていた。

少し待って、安井様が搬入用に使う車を横付けしてきた。

「お待たせしました。急がせて申し訳ない。小栗君も藤森さんもありがとう、助かりました」

「いや、間に合って良かったですよ」

「お役に立てましたようで、本当に良かったです」

 まずはカタログや伝票などの袋を手渡した。

その後で、持ち込んだ商品を安井様の車に移し、状態を確認していただいた。

「うん、大丈夫です。ありがとう」

 安心した表情で小栗さんにそう言うと、私にも笑顔を見せた。

「じゃあ、僕はこれをすぐに現場に持ち込みますので…」

「ああ、その件なんですけども、こちらも同行させていただけますか。彼女にも現場で実際に見てもらえると、いい勉強になりますから」

「そうか、藤森さんはまだ新人さんだったね。落ち着いて対応してもらえるから、すっかり忘れてたよ」

「では、よろしいですか?」

「はい、大丈夫ですよ。じゃあ、行きましょうか」




現場に向かう車の中。

「なあ、なんでお前を同行させたか分かるか?」

 私たちの乗る車の前を走行する安井様の車をじっと見つめながら、小栗さんが私に聞いてくる。

「・・・極まれに資材の人間が現場に出向く事はあるようですけど、私のような新人が行く事なんて殆どなかったと聞いていますが」

「うん、なかったと思う。俺が入社してからは」

「じゃあ分かりかねます…」

「…安井氏が君に興味を持っていることと、俺が連れて行きたいって思ったからかな」

「…私は興味を持たれるような人間じゃないですよ。それに…なぜ?」

「なぜ…とは?」

「私を連れてこようと思った理由です」

「…まずはこれから、俺のフォローをさせようと思っていること。他にも俺と同じ企業の担当を持ってるだろ? 今後、増えていくと思ってほしい。それと…」

「それと?」

「…んー、まだ内緒」

「なんですか、それ」

「まあ、おいおい教えるよ」

「はぁ…」

 意味深な笑みを浮かべて、ちらりとこちらを見る。

だがまだ走行中の車の中だ、すぐに目を前に向けた。




走行時間は1時間程度、初めて現場に足を踏み入れる。

といっても、すでに工事は最終段階なわけで。

現場の工事責任者に納品を済ませ、少しだけ内部を見せてもらった。

「藤森さんは工事現場なんて入るの、勿論初めてでしょう?」

「そうですね、こんな機会は今までなかったです。自分の関わった品物がどう使われているか、見ることが出来て良かったです」

「そうですか、ならばお連れして良かった」

「ありがとうございます、安井様」

「様はやめてよ、様は」

「はぁ…」

「ははは、安井さん、無理ですよ。昔馴染みにでもこんな対応するやつですから」

「小栗さん!」

「え? 小栗君って藤森さんと知り合いだったの?」

「ええ、元カノってヤツですよ。学生時代の。俺としては別れたつもりはなかったんですけどね、いつの間にか結婚して名前まで変わってたんで…連絡も取れなくなってましたから」

「ちょっと! そうゆうことは…こんなところで言う必要はないでしょう?」

「っていうか、藤森さんって人妻だったのかぁ。うーん、残念!」

「…は?」

「いやー、話し方も声も、お会いしてみたら見た目も結構好みだったんですけどねー。いやぁ、残念!」

 突然のことで私も小栗さんも唖然とする。

それでも飄々としている安井様を見ていて、つい吹き出してしまった自分がいた。




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