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Once again…  作者: 折原奈津子
第2章
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気付いた事




「レタスとトマトときゅうり…あとはどうしようかしら…ツナ缶があったしディップにして…。メインは鶏でいいかな。ちょうど塩麹も出来上がってるし」

帰りがけのスーパーで、メモを見ながら買い物を進める。

いつもだったら2人分だからこんなには必要ないけれど、人数が増える分大目に買い込んだ。

こうして自分や翔太以外の人のために食事の準備をするなんて、もうどのくらいぶりになるんだろう。

一緒に暮らしていても、一緒に食事を取ることは少なかった。

別居して、離婚して、それからは私と翔太と2人分以外を作ることがなかった。

離婚経験はあるけれど、こんな気分でこんなに買い込む事なんて初めてかもしれない。


「ただいまー」

「おかえりなさーい」

 大荷物で四苦八苦しながらドアを開けると、翔太が急いで出迎えてくれる。

「おかさん? なんでこんないっぱい買ったの?」

「…小栗さんが来るんですって」

「ほんと? やったぁ、一緒に遊べるかな」

「早く来れたら、そうしてもらえるかもね。それより宿題は?」

「今日は算数プリントと音読だけ。おじちゃんに教えてもらうー」

「何時になるかわからないでしょ? やっちゃってちょうだい?」

「えー」

 渋々と部屋に戻る翔太を見て、少しだけ溜息をついた。

なんてどっぷりと…彼に懐いてしまったんだろう。

こんなんじゃ、今後2人で生きていくのに困るよ…。

そんな意味合いの溜息ではあったけれど。

でもあんまり懐いてしまうと、離れる時に寂しい想いをする事になる。

だからいい加減、小栗さんにも翔太を構うのはやめてもらわなくちゃいけない。

彼だっていつかは、誰かと結婚だってするだろうし。

その時に、私たちが邪魔になってしまってはいけないんだから…。


…邪魔になる?


 ふと頭に浮かんだ【邪魔になってしまってはいけない】という気持ち。

そもそも私は彼に対して、今はそんな気持ちを持ってなかったはずで。

そしたら、邪魔になるもなにも…関係ないはずで。

じゃあ、なんでそんな風に思っちゃったんだろう。

一口大に切った鶏胸肉を塩麹とにんにく、塩コショウで揉み、みじん切りにした長ネギと和えてボールで漬け込んだままねかせておく。

その間にツナのディップとサラダを作り、ラップをして冷蔵庫に入れる。

米をといで、若干少なめな水にコンソメと塩コショウを入れる。

みじん切りにしたベーコンとたまねぎ、ミックスベジタブル、ピーマンと一緒に、バターをほんの少し乗せて、炊飯器をセットした。

これだけで翔太も気に入っている、至極簡単なピラフが出来る。

缶のミックスビーンズと小さな高野豆腐を利用して、簡単なスープも作った。

胸肉はトースターでそのまま焼くだけだが、酒を使わずとも柔らかく出来上がる。


 トースターをセットした頃、チャイムが鳴り小栗さんが到着した事を告げた。

「翔太、悪いんだけど出てくれる?」

「うん、いーよー」

玄関に走って向かった翔太が、ドアを開けた途端に嬉しそうな声をあげたのが聞こえる。

「おじちゃん、おかえりー。ねえねえ、僕宿題やってたんだけどね、教えてくれない?」

「ただいま。なんだ、解らないところがあるのか?」

「うーん、ちょっと解んなくて」

「そっか、じゃあ一緒にやろう」

「やったー!」

 なんとなく親子のような会話に、声をかけるタイミングを逃してしまう。

でも宿題のプリントと教科書に筆箱、音読カードを持って翔太と一緒にリビングへやってきた。

「ただいま、綾子」

「…お、お帰りなさい…」

 お疲れ様じゃ変で、つい口にした【お帰りなさい】だったけれど。

嬉しそうに目を細めて笑みを浮かべる小栗さんを見て、なんだか恥ずかしくなってしまって慌ててキッチンへ戻る事にした。

オリーブオイルとにんにく、粉チーズにしょうゆ、たまねぎを使ったお手製のドレッシングをサラダに回しかけ、焼きあがった胸肉と一緒にテーブルに運ぶ。

宿題の終わったらしい翔太も手伝って、皿に盛ったピラフを運び、カトラリー類と小皿は小栗さんが一緒に運んでくれた。

最後にスープを運んでいく。

「おかーさん! 今日はご馳走だねー!」

「別にご馳走じゃないわよ」

「でもおいしそう! ねえ、もう食べてもいい?」

「ちゃんといただきます言ってからだぞ?」

「うん、知ってるよ! いただきます!」

「いただきます」

「…いただきます…」

 翔太が大きな口を開けて、ピラフを頬張るのが目の端で見えた。

そしてそれをにこやかに見つめている、小栗さんの幸せそうな顔も…。

2人の様子を見ながら、けして嫌ではないと気付いてしまった自分の気持ちに動揺してしまったけれど…。





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