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Once again…  作者: 折原奈津子
第2章
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変わらないもの




 出社すると、当然のような顔をして並んで歩く小栗さんを見て、営業1課では大盛り上がりをした。

「朝から見せ付けてくれるじゃねぇか、小栗!」

「やっと藤森さんがOKしてくれたのか?」

「いや、まだOK貰えないんすよ。子供の許可は取れてるっていうのに…」

「何だよ、押しが甘いんじゃないのか?」

「そうなんすかねぇ」

 …無視よ、無視。

この人達のペースに乗って、焦ってちゃだめ。

知らん顔しておくのが一番なのよ…。

「何だよ綾子、無視しなくったっていいだろ?」

「どうにもなってない事で、朝から騒がないでくれますか? それと、会社で呼び捨てなんかしないで欲しいんですけど」

「あーやーこーちゃーん。朝から手厳しいねぇ」

「桑田先輩、申し訳ないですが私の名前は【あやこ】ではなく【あやね】ですので」

「あれー、そうだっけー?」

「そうですよ、桑田さん」

「そっか、悪い悪い」

 なんだか勝手に盛り上がったままの男性陣は無視して、始業前にやっているデスク周りの拭き掃除を始める。

それを済ませ、やっとPCのログインを始める。

昨日持ち帰って作った資料のデータを確認し、必要部数をプリントする。

そしてその間に、パワーポイントでのプレゼン資料もチェックすると、それも一緒にUSBメモリに保存する。

 私が到着したのは始業20分前。

ここまで急いでやって、丁度始業時間になって朝礼を始める。

…が、焦ってこのデータを作らせたはずの杉さんがまだ来ない。

チラッと見たホワイトボードにも、今日の出先は記載されているけれど直行にはなっていない。

という事は、普通に出社してきてから出掛ける事になっていたはずだ。

「それから…小栗、藤森」

 急に名前を呼ばれて、慌てて朝礼に意識を戻す。

「はい」

「は、はい」

「今回、杉が扱っていた案件の内容を把握しているか?」

「そうですね、大まかにですが…」

「藤森はどうだ?」

「は、はい。昨日資料を作るようデータを渡されましたので…大体は…」

「…また直前に渡したのか?」

「俺が使ってばかりだからって言ってましたけどね。パワーポインとのデータすら作ってなかったですよ、杉さんは」

「あいつは本当にやる気があったのか? 兎に角、今日プレゼンがあるのは解ってるか?」

「はい、そうらしいですね。藤森も仕方なく持ち帰って、殆ど徹夜でデータを作ってきてますから」

「そうなのか?」

「え、いえ…少しは寝ていますので…。それより杉さんは…」

「ああ、本題だが、今日から暫く杉は出社停止となった。その後、徳島の支店に行かせる事になった」

「じゃあ、今日のプレゼンはどうするんです?」

「私も一緒に出向いてフォローする。なので、小栗と藤森で引き継いで欲しい」

「はぁ? 今日、今からですか!」

「幸い、プレゼンは午後だ。小栗も今日は出る予定はなかっただろう? 午前中に内容を頭に叩き込んで、データもチェックして欲しい」

「無茶苦茶言いますね…。でも仕方ない、杉さんの尻拭いはこれを最後にして頂きたいですね」

「善処する。頼んだぞ」


「藤森、ちょっとコーヒー入れてくれる? 俺のと…お前の分もな。それと、小会議室が空いてるから、そこを使うぞ。資料とUSBメモリは俺が持っていくから、一緒にデータチェックしよう」

「はい…」

 こんなに急に、しかもさっき聞いたばかりの話が実話になって動揺しているのに。

なのにこの案件をいきなり振られても、小栗さんは落ち着いているようで。

急いで給湯室に向かうと、ちょっと大きめな小栗さんと私のマグを取り出す。

私は暖めた牛乳か豆乳を使ったラテが好きで、どちらかを買い置きしている。

冷蔵庫から豆乳を取り出し、自分用に少しだけ小鍋で軽く暖める。

それと一緒に薬缶を火にかけると、1杯ずつドリップ出来るワンタッチのコーヒーを棚から取り出した。

ここはお茶もそれなりにいいものを置いているし、紅茶は三角形のティーバッグと、リーフも小さな缶で置いている。

コーヒーも勿論インスタントもあるけれど、こうやって1杯ずつドリップが出来るものまである。

社長のこだわりらしく、砂糖も数種類置くほどだ。

 今日はラテ用に自分で置いてある蜂蜜を少しマグに垂らし、温めた豆乳を注ぐ。

そしてコーヒーをマグにセットし、ゆっくりと熱湯を注ぐ。

「小栗さんは…ブラックよね。いつもだけど…」

コーヒーの入ったマグを二つ、トレーに乗せて小会議室に向かう。

会議室の扉は少し開いていて、トレーを持っている私が入りやすいようにしてくれていたのだと気付く。

そんなところも…あの頃と変わっていない…。

そして、そんなさりげない思いやりを示してくれる彼が、あの頃の私は凄く好きだったんだと思い出していた…。

どこからこんな風に、道が分かれてしまったのかな。

変わってないと言ってくれている彼。

また進んでいた道が交差してしまったけれど、これからはまた分かれてしまうのかな…。

それとも交差したまま、ずっと続いていくのかな…。

でもそれは、きっと私の返事次第なのは解っているけれど…自分がどうしたいのかまだ良く解らないでいた。




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