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Once again…  作者: 折原奈津子
第2章
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支えたいという想い




「おかさん、おかさん! ねえ、なんで? なんで小栗のおじさんがいるの?」

「それはお母さんが聞きたいところよ。それより早く食べちゃいなさい」

「ねぇ、おじさん!なんで今日はいるの?」

「んー? そうだなぁ、一つは綾子と翔太と3人で朝飯を食いたかった事で。もう一つは…殆ど仕事で寝れていなかったはずの綾子を、迎えに来たってところかな」

「えー! おかさん、寝てないの?」

「ちょっとは寝たけど…」

「どうせ1・2時間の仮眠だろ?」

「…それでも少しは寝たもの…」

「そんなの寝た内には入らないだろ。杉さんがもう少しキリキリやってくれれば、まだいいんだけどな。一気に渡して、明日までとか普通は有り得ないんだよ」

「でも杉さんって、いつもそんな感じで…」

「だからだめなんだって話。いつも人任せだからな」

「そうなの…?」

「ああ、杉さんの相棒はそれでいつも続かない。お、翔太。ほら、ぽけーっとしてんな」

「あ、はい! 歯磨きしなくちゃ!」

「おお、偉いじゃんか。虫歯になったら困るしなぁ」

「そうなんだけどね、今日は学校で歯科検診があるんだよ。いい歯だとね、バッヂが貰えるんだ! 僕、それが欲しいんだよ」

「へえ、そうなのか! じゃ、しっかり磨いてこいよ?」

 この頃、朝晩としっかり磨いているのは、そんな理由もあったのかと苦笑する。

でも小学校入学まで、フッ素の塗布と検診に通っていた歯医者では、今まで問題があった事はない。

だからきっと大丈夫だと思うんだけど。

そう小さい声で話すと、小栗さんが笑う。

「それでも欲しいんだろ? 自分はきちんとやってるんだって、自信持って見せ付けたいんだろ…。父親がいないことで、色々言うやつもいるだろうからな」

「そうね…たまに言われてるみたいなの…。だからなのかしらね」

「…じゃあ尚更、早く父親になりたいな…俺が」

「…聞かなかったことにしておくわ」

「え? 小栗のおじさんが、ほんとに僕のおとさんになってくれるの?」

「翔太!」

「ほんとに? ほんとになってくれる? ずっと一緒にいてくれる? ねぇ、おかさんがいいって言ってくれたの?」

「お母さんは、いいなんて言ってないわ」

「でもおじさん、なってくれるんでしょう? じゃあ、なってよ! 僕のおとさんになってよ!」

「それに関しては、綾子とよく話し合うから。翔太は学校に行く時間だろ?」

「うん…解った。行ってきます」




「あんまり、翔太を混乱させないでくれないかしら」

「混乱ってなんだよ」

「だって…」

「俺は本気で、お前ごと翔太を受け入れる心積もりは出来てるぞ?」

「でも」

「でもなんてもう言わないでくれないか? 前の旦那の事もあるから悩むのは解る。でも、だからこそ本気で考えて欲しい」

「小栗さん…」

「ほら、俺達も早く行かないと。遅刻だぞ?」

「え? あ! やだ、こんな時間!」

「荷物はこれか?」

「ええ、そうよ」

「じゃあ、運んでおくから、早く降りて来い」

「ええ…」

 書類の入ったバッグを持って、先に玄関を出て行く小栗さんを一瞬だけ見送る。

そして急いで着替えると、食器を下げて、バッグを手にする。

時計を目に入れると、慌てて部屋を飛び出した。

 駐車中の小栗さんの社用車に駆け寄ると、急いで乗り込んだ。

「忘れもん、ないな? じゃあ、行くぞ」

 車を出して、暫くの間は無言で時間が過ぎていった。

「綾子、お前さ。無理だけはすんなよ?」

「なあに? 急に…」

「営業補佐ってさ、みんな癖のある営業ばっかりだし、結構面倒な事押し付けられるんだよ。でもお前は翔太もいるし、何でもかんでも引き受ける必要はないって事だよ」

「でもこれで食べていくのよ? そんな事言っていられないわ」

「うん、だから少しは頼ってくれないか?」

「小栗さん?」

「俺も出来る限り、お前と翔太を支えるから。お前も無理な作業まで受け取るな。今回の杉さんは自分でやらな過ぎてる。ここ最近の杉さんの事は、営業部でもちょっと問題視されてるんだ。だからお前が全部抱え込む必要はない」

「問題視って…」

「この間の松田の一件な。これには関わってなかったみたいだけど、松田とはこそこそ何やらやってたらしい」

「そんな…」

「だからもしかしたら、杉さんは営業から閑職に移されるか、地方に飛ばされる」

 あの女性はいったい何人を巻き込んで、人に迷惑させていたんだろう。

これで杉さんが、本当に閑職や地方に移動となったら、彼の人生も変わってしまうことになるわけで。

それが彼女に関わったがために被るのだと思うと、発する言葉が見つからなかった。





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