攻防の始まり
明日とか言っておいて、書きあがったのでUPですw
松田有紀子が正式に解雇され、同僚に対しての名誉毀損や業務妨害でTAJIMA側から訴えられたのは、それから約1週間後のこと。
利用されて伝票改竄を行った仙道一美は、同じく解雇処分を受けた。
ただし、仙道一美には反省している様子も見受けられることから、解雇処分のみとなった。
それを聞いたときの松田有紀子は、物凄い目で仙道を睨んだと聞いた。
その処分を通告するために呼び出された時、その場に小栗さんがいた事にだけ少し動揺が見られたらしい。
けれど、縋る様に小栗さんを見ても、冷たく見返されるだけだったようで。
「当たりまえっちゃ、当たり前なのだよ」
斎須さんが、ぼそっと口にした。
私も被害を受けた側だけれど、この所立て続けに起きた嫌がらせのお陰で業務が滞っていた。
そのため、通常業務についていた。
「何がですか?」
必死にキーボードを叩いて、モニターに目を向けたまま問いかける。
「ん? ああ、松田と仙道の処分だよ。松田は何とか小栗に助けてもらおうと目論んだみたいだけどな。無理だろう?」
「そうなんですかねぇ…」
「ふーじーもーりー…。お前なぁ…それ、ワザとなのか?」
「は?」
「…小栗の気持ちは判ってるだろ?」
「…それは…判ってますけど…」
「じゃあワザとか…」
「違います!」
「もうご主人とはきっぱり縁を切ったんだし、考えてやってもいいんじゃないか?」
「半年たたないと、再婚すら出来ませんよ?」
「そりゃ常識的にはそうだけどさ。でも付き合ってやるくらいはいいんじゃないの?」
「…離婚成立してすぐだと、それが狙いだったのかって言われますよ。って言うか、もうこりごりなんですよ」
「あのなぁ、私だってバツイチだけど、それでもいいって言ってくれる人はいるんだぞ?」
「ああ、例の仙台のイケメン営業さんでしたよね。えーと、山内さんでしたっけ」
「そう。山内さんはバツイチでも、こんなオトコっぽい女でもいいって言ってくれてる。小栗だって、ずっと待ってたって言ってたでしょうが」
「判ってはいるんですけど…」
信じるのが怖い。
信じて、また裏切られたらと考えると踏み出せない。
だからどうしたらいいのか判らなくて、動きが取れないでいる。
ある意味で、トラウマになってしまっているのかもしれない。
隆弘とは一応見合いとはいえ、恋愛結婚だった。
翔太が産まれて、暫くの間は何事もなく幸せだった。
それなのに裏切られて、結局離婚することになった。
小栗さんともそうなったら?
そう考えたら、自分から踏み出すのは困難に思う。
「藤森! 飯行こう!」
最近休憩になると、営業に行っていない限り誘いに来る男がいる。
「…またですか? そんなに毎日のように外食なんか出来ません!」
「じゃ、奢るから行こう」
「いやです。今日はお弁当ですから」
「藤森、それ私に…」
「斎須さん!」
「斎須さんもこう言ってるんだから、行こうか藤森」
「だからいやですってば!」
意気揚々と私の手を引いて、連れ出そうとする小栗さん。
そして、嬉々として私のランチボックスに手を出す斎須さんが、強引に連れ出される私の目の端に映った。
「毎回毎回、外食してたらお金ももったいないし。何より太ります」
「じゃ、俺のも弁当作ってよ」
「いやです」
「食費入れるからさー」
「カレカノでもないのに、お断りです」
「じゃ、彼女になればいいだろ?」
「なんで?」
「なんでって返してくるのか?」
「離婚成立したてだし、そういった事は考えたくないもので…って言えばいい?」
「離婚成立したからいいんじゃないかよ」
「したばっかりでそんな事になれば、逆にモラルを疑われるわ」
「なんだよ、俺にまだ我慢しろって?」
「じゃ、他に彼女をお探しになったらいかがですか?」
「無理。綾子じゃなきゃ、無理」
「…一生待ってると、腐りますよ?」
毎日同じ言い合いをして、懲りないのかなってちょっと呆れるけれど。
また変な嫌がらせに遭いたくないので、なんとなく自分を律するためにも必要になっていた。




