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Once again…  作者: 折原奈津子
第1章
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10年ぶり…


 間違いなく不機嫌だろうマキさんの元にいる小栗さんに、渡さなければいけない伝票とカタログを持って急ぐ。

資材部は自社ビルの2階、3階に営業部、総務部がある。

経理部と設計部は4階、会議室も同様。

5階に役員室がある。

ちなみに1階は受付とショールームだ。

倉庫と工場は別棟にあり、倉庫部分の上にはそこそこの広さのある独身寮が併設されている。

女子社員は制服着用だが、ロッカーは資材部がある2階に、社員食堂と並んで設置されていた。

「すみません、お待たせいたしました!」

 マキさんと談笑しているらしい後姿に向かって声をかける。

ジャスト15分、ちょっと息切れがする。

運動不足かなぁとちょっとだけ思う。

「急がせて悪かったね。ありがとう、藤森さ…ん…?」

「え? あ? 嘘!」

 彼にとっては私の旧姓しか知らないし、私にとってはこんなところで知り合いに会うとは思っていない。

だから二人揃って目を見開いて、声も出ないって感じで。

「なんだぁ? お前たち知り合いだったのか?」

「知り合い…っていうか…何年ぶりだ?」

「えっと…10年ぶり…かな…」

小栗修平…あたしが19歳の頃に出会って、当時の勤務先で移動になるまでの1年余りの間、付き合っていた人だ。

2つ下だったから、当時の修平は高校生。

大学の進学と、私の転勤で離れて、それっきりになった。

離れ離れになって10年…2つ下だったということは、今は28歳ってことか。

「10年かー、早いな。もうそんなになるのか。藤森ってことは…綾子、結婚したんだ…」

「うんまぁ…色々あるんだけどね。そんな感じ」

「そっか。まあ積もる話はまた今度。とりあえず、書類とカタログ貰っていいか?」

「ああ、はい。こちらです」

 手渡した伝票をチェックすると、ちょっとだけ頷く。

「うん、オッケーです。じゃああとは、マキさんの加工待ちで俺が持ち込むことになったから」

「そうですか、じゃあ私は安井様に連絡して、その旨お伝えします」

「うん、そうしてくれる? マキさん、あとどれ位で出来そう?」

「2・3時間は欲しいな。カットした部分を溶接するから、冷まさないとなんねぇしな」

「2・3時間…今は…10時か。じゃあ、2時ごろにはこっちを出る予定だって伝えてくれるか?」

「承りました。では早速…」

「うん、よろしく」

 工場を出て、事務所棟の2階にある資材部へ戻る。

そのまま部長に報告をする。

「大木部長、先ほどの急ぎの加工分の件ですが、あと2・3時間で加工は出来るとのことでした。営業1課の小栗さんが、2時ごろこちらからご持参くださるそうです」

「そうですか、分かりました。先方にもすぐに連絡を入れておいてください」

「かしこまりました」

 部長に報告をして自分のブースに戻ると、すぐに安井様に連絡を入れる。

「TAJIMAの藤森と申しますが、先ほどは失礼いたしました。ご連絡いただきました本日中にとのお品ですが、なんとか2時ごろには小栗がこちらから持って出られそうとのことです」

「そうですか! あー、助かった! ありがとうございます。届き次第現場には、僕の方で搬入しますので。いやー、本当に助かりました。ありがとう、藤森さん!」

「いえ、お役に立ててよかったです。では3時ごろにはそちらへお届け出来ると思いますので。よろしくお願いいたします。失礼いたします」


 ほっと一息ついたところに「結構余所行きの話し方するんだな、今は」って声が掛かった。

びっくりして振り返ると、そこには小栗さんの姿。

「あ…。いえ、仕事ですし当然かと思いますが…」

「ふーん、そう。でも俺にまでそんな話し方じゃなくてもいいんじゃない?」

「…勤務中ですし、ここでは先輩ですから…」

「関係ないと思うけど。ま、いいや。大木部長にも言ったんだけどさ、今回の搬入、藤森さんも来て手伝ってくれる?」

「は? 私がですか?」

「うん、そう。君が。カタログも運んでもらいたいし、君にも確認してもらいたいから」

「え、でも…」

 いいのか? という顔で部長のブースに目を向ける。

そうすると、頷きながら追い払うようなしぐさをしてみせる。

「…かしこまりました…同行させていただきます」

「じゃあ、2時10分前までに着替えて工場に来て。そのまま車に積むから」

「はい…」

 出勤には幸いスーツで着ていたし、同行するには差し支えないだろう。

「ああ、そのまま直帰だからね。そのつもりでいて」

「は?」

「現場にも同行してもらうよ。じゃ、また後で」

 去っていく小栗さんを呆然と見送ると、はっと思い直して部長のブースへ向かう。

「あの…部長。なぜ私が小栗さんの同行を…?」

「ああ、小栗君と先方の希望のようですよ。お子さんの事もありますし、遅くならないようにとは言ってありますが…お願いできますか? 帰りはそのまま直帰していただいて、明日の朝報告をお願いします」

「…かしこまりました…」




 2時少し前、着替えを済ませると工場の入り口で搬入を開始している小栗さんの元へ急ぐ。

「お待たせしました…」

今日は黒の細身のパンツスーツ、お気に入りのショルダーバッグ。

黒のバックストラップのヒールは、オープントゥタイプのもの。

極普通の通勤スタイルだと思う。

取引先に同行しても…うん、多分問題はないだろう。

「やあ、待ってたよ。こっち、後部座席に積んでおいてくれ」

 そう言って、笑って見せた。

相変わらず細身で、めちゃくちゃ背は高いわけじゃないけれど、足が長くてバランスがいいから背が高く見える。

あの頃はサッカー少年だったから短めだったくせのある髪も、ちょっと長くなって後ろに流すように整えている。

そして相変わらずなのは、人懐こそうな笑顔と、焼けた肌。

でも10年経って、やっぱり大人の男って感じだ。

体に合わせて細身の濃紺のスーツに淡いブルーのシャツ、少しクラシカルなダークボルドーの細身のネクタイ。それが良く似合っていた。

渡されたカタログと書類の入った手提げ袋を後部座席に乗せる。

でもそうすると私が座る場所がなくなる。

なぜなら、後部座席には、色々なサンプルやカタログが積み込まれているし、後から積み込んだ荷物が飛び出してきているからだ。

「…すごい荷物…」

「まあこれでも営業だからな、常にサンプルもカタログも持ってるし。荷物は大量だなぁ」

「いえ、当たり前の事だと思うし」

「よし、じゃあ行こうか。あ、乗るのは助手席だから」




社内の部署があるフロアを、若干変更しました。

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