心が折れそうで
「とりあえず、こいつは何も悪いことはしてない。それは寺尾さんや斎須さんが言ってるように、ここの部内の人なら一番判ってると思いましたけどね。俺の買い被りでしたかね」
「小栗、みんなだってこれを信じてるわけじゃない!」
「だったら! もっとこいつを信じてやってくれてもいいはずですよ!」
「小栗さん…」
「こいつは、旦那に裏切られて、子供と二人きりになった。だからこそ、必死に仕事して。会社内だけだったらよかった。けど、関係ない事件にまで巻き込まれた。もうボロボロなんですよ。なのに社内でまでそうやって疑われたら、どこに行けばいいんです?」
「もういいから…」
「良くないだろ! どこがいいんだよ!」
「…ごめん、藤森。そうだよな、俺達が一番近くで藤森の頑張りを見てたのにな。なのに疑うみたいな事言っちまって…」
「遠藤さん…いえ、いいんです。仕方のないことですから…」
「だからそうやって、仕方ないとか言うなよ!」
小栗さんは憤りを隠せない様子で、カリカリしている。
でも、それは私を心配してくれる上での事で。
「それで小栗。アクセスしてきてたのは誰だ?」
「上村係長…。誹謗中傷の主犯は、クローゼットの松田です。松田は伝票の改竄にも係わってます。ただし、実際に伝票を差し替えたのは、経理の仙道でした」
「松田とよく一緒にいる子じゃないか」
「しかも、あまり表立って動く子じゃないわね。ある意味、松田に利用されたってところじゃないかしら?」
部長が昼食から戻ってきて、私たちはいつも通りに午後の業務を始めた。
私に出来る事は、ただただ誠実に業務をこなす事だけ。
「TAJIMA 資材部藤森です。安井様、いつもお世話になっております」
「お世話様です。藤森さん、さっきFAX送ってるんだけど、届いてるかなぁ」
「はい、頂戴しております」
「じゃあ、それをお願いします。それとね…俺のところに変な封書が届いてね」
「は?」
「君に対しての誹謗中傷だったから、ちょっと気になってね」
「は…。それは安井様のところだけにですか?」
「うん、そうみたいだ。何か心当たりあるかい?」
「ええ…物凄くあります…」
「小栗君は知ってるの?」
「ええ。大木部長と一緒に走り回ってくれてます」
「そうか…。じゃあ、僕の方に来た手紙も、証拠として提出した方が良さそうだね」
「お願いできますか? ああ、でも…こうやって安井様の所にも手紙が行っているという事は、他のお取引先にも行ってますね…。多分、担当を外されるかもしれません…」
「ええ!? そんなに大事になってるのかい?」
「ええ、まあ…身に覚えはまったくありませんけど…」
「大丈夫だよ。藤森さんはそんな人じゃない。俺にもそれは判ってるからさ。」
「ありがとうございます。心強いです」
「兎に角、さっきのFAXは頼んだよ! こっちの件は、俺も協力するから安心して!」
「はい、ありがとうございます」
電話を切ると、どっと疲れが襲ってきた。
でも、これを報告しないわけにはいかない。
心が折れそうな切なさを感じていた。




