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Once again…  作者: 折原奈津子
第1章
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役員会直前に




 思ったよりも翔太は斎須さんに懐いたらしく、おかげで楽しい食事になった。

「藤森、表情がさっきよりもましになったな。その方がいい」

「斎須さん…ありがとうございます。誘っていただいたお陰です」

「藤森も災難だったけど、でも部長と小栗がついてる。私達もな」

「はい…ありがとうございます」

「入社して間もないのに頑張ってきたんだし、ここで負けたらもったいないぞ?」

「はい」

「私達もな、伊達に長いこと働いてきてない。いくらでもフォローしてやるから安心してな」

「心強いです。ありがとうございます」

 会計を済ませて、店の外に出る。

「藤森ってさ、小栗と付き合ってたってほんとか?」

「…結婚前の話ですけど、本当です」

「今は離婚調停中だったな」

「ええ。でも彼の事は関係ないんです。主人…他の女の人に子供が出来て。そっちと一緒になりたいみたいです」

「小栗の事、考えてやれないのか?」

「…もし考えるのなら…こっちの決着がついてからかなって思います。じゃなきゃ、主人と同じになってしまうと思うので」

「でも、翔太君のこともあるだろ?支えてくれる人がいてもいいんじゃないか?」

「いえ、でも…調停で有利にしたいので」

「そっか…強いな…。私もバツイチだけどな、子供もいなかったし…向こうの良いように話が進んでな。何も出来なかった」

「そうなんですか…」

「藤森は翔太君もいる。頑張れ…」

「はい」

 斎須さんのような凛々しい女性でも、そんな思いを抱えていたんだなと思うと、少し切なかった。

それでも斎須さんも今は、仙台の取引先の営業さんともう二年ほど遠距離恋愛中らしい。

お会いしたことがあるけれど、なかなかのイケメンだった記憶がある。

幸せになってほしいと思う。

同じように、私だって幸せになりたいけれど。

翔太ごと、私を受け入れてくれる人がいれば…。




 数日の間、何事もなく過ぎていく。

週末が近付き、もうすぐ役員会だなとふと考える。

最近は何事もなく過ぎていっているけれど、役員会の前後に注意するように言われている。

そろそろ何かあってもおかしくないのかもしれない。

でも私も小栗さんも業務上の接触以外、現状は避けるようにしていた。

小出部長は今でもまだ、小栗さんに松田さんとのことを仄めかす。

でもそれは、自己保身でしかないのが明らかだった。

彼女のやった改竄で、小出部長の進退も役員会で決定する。

だからこそ、小栗さんを利用してでも自分の身を守りたいのだろう。

けれど、それでも彼女がやったことは消せない事実だ。

よって、小出部長が逃れられるわけもない。


ふとメールの着信を、使用中のPCが示した。

フォルダーを見てみると、私宛なのが分かった。

差出人は…記憶がない。

「まさか…また?」

 ウイルスチェックを行ってから、メールを開封する。

添付されている写真が一枚。

「…翔太…?」

 写真の状況を見ると、今朝自宅を出た直後の姿のようで。

カメラ目線にはなっていないので、隠し撮りされた物なのが分かった。

「まさか…」

 一瞬にして青褪める。

今日に限って、大木部長は外出している。

私はすぐに、小栗さんの携帯をダイヤルした。

「小栗です」

 2コールほどで、すぐに出てくれた。

「藤森です…今は社内ですか?」

「ああ、今は伝票処理してたから。何かあったのか?」

「メールが着信して…本文は何もないの。でも…翔太の写真だけ添付されてて…」

「翔太の? 大木部長は?」

「今日は外出中でいないのよ」

「…今すぐに行く。ちょっと待ってろ」

 そう言うとすぐに通話を切る。

小栗さんが来るまでの数分が、とてつもなく長く感じた。

お願い…早く来て…それしか頭にはなかった。

「藤森!」

「小栗さん…」

「メール、見せて」

「…これよ…」

「…いつ撮られたものか分かるか?」

「この服と荷物だと、間違いなく今朝よ。今朝登校するのに、自宅を出た直後だと思うわ」

「そうか…。とりあえず今日は早く仕事を終わらせて、一緒に迎えに行こう。明日からは、しばらくの間、学童は迎えに行ったほうが良いな。学校からは一人にはならないように、翔太には言い聞かせないと」

「ええ…」

「あ、おい。翔太は防犯ブザー、持ってるんだろうな?」

「当たり前じゃない。電池も交換したばかりよ」

「そうか…じゃあ何かあったら使えるな」

 気が気ではなかったけれど、彼が来てくれたことで感じた安心感。

小栗さんがいてくれたら大丈夫…いつからかそう感じ始めている自分の気持ちにはまだ気付いていなかった。









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