救出_出会い
「助けてください!」
長い落下が終わり、地上に着いたと思ったらいきなり助けを求められた。
「(えーっと…。まずは状況を整理しよう…)」
一つ。
・・・
まずは、何故か空から落ちていた事。
二つ。
物凄く高い所から落ちて、これまた凄い音がしたにも関わらず、怪我らしい物が一つも無い事。
三つ。
落ちてきたらいきなり助けを求められた事。
「(…うん。理解も納得も出来ないね。ま、怪我が無い事が唯一の救い?)」
そんなこんなで原因について考えていると、未だ俺の周りを覆っている砂埃の外からさらに声が聞こえてきた。
「なぁ。今落ちてきたのって、人、だよな?」
「俺に聞くなよ…」
「は!関係ないね!何のためにこんな敵国まで来たと思ってるんだ!」
「痛っ!」
「こいつを連れて来いって命令なんだ。悪く思うなよ!」
俺の外ではこんな会話が繰り広げられていた。
選択肢としては―――
「(助けるか逃げるかだけど…。こんな所で逃げたらカッコつかないよなー)」
結局一つに絞られる。助けると言う選択肢に。
「(ま、成るように成るさ)あのー、無視しないでいただきたいんですがー」
出来るだけ、自分なりには癇に障らないような言葉を選んだつもりが、地雷を踏んでしまったらしい。
「あん?なんだてめぇ、殺されてぇのか?」
「お前が何だろうと、邪魔すんなら殺すぞ?」
先程までは半信半疑ほどにしか思っていなかったようだが、俺が声を掛けた事により、何かスイッチが入ってしまったらしい。
呪詛の念の様に何かを呟きながら、剣の様な物を掲げてこちらへと迫ってくる。
「それって本物、だよね?…なんか妙に光ってるし」
「何言ってんだ?偽物の訳ねーじゃねーか。お前はこれから死ぬんだよ!」
一瞬のうちに男から死刑宣告が聞こえ、剣が唸りをあげて迫る。
ブン!
「うわっ!…危ねーな!」
少し逃げ腰だったことが幸いし、一撃目を何とか避ける。そこからは少し距離をとり、いつでも逃げられるように足への重心を
少し抜く。
「…くそっ。意味も何も、訳分かんないまんまで死ねるかよ!」
今の俺を動かしているのは生への強い欲求と、状況の理解だった。体は動くし、頭も回転が速く、関係無い事まで考えてしまう。
「(さて…。問題はどう逃げてどう助けるか、だよな)」
さっき少し下がったため、少女との距離は開き、その直線上に男達がいると言う形になってしまった。今のままだと三人全てを薙ぎ倒して進むしかない。
「(でも、武器が無いんだよなー)」
あると言ってもそこら辺に転がっている木の棒のみ。そんな物じゃいくらなんでも剣には勝てない。
しかし、こんな事を考えている間にも距離は狭まる。俺は意を決し、走り出す。
すぐに反応した一人が剣を振る。それに対し、俺はこけた時に握った石を投げる。その石に驚いた男は剣の速度がぶれ、俺にはすぐには当たらなくなった。
「ちっ!ちょこまかと、鬱陶しいんだよ!」
二人目の男が何処からか出した弓を担ぎ、矢を射掛けてくる。
「ちょっ!飛び道具とか、反則だろ!」
悪態をつきながら避ける。自分でもありえないぐらいに身体能力が上がっている。こんなの避けれるなんて考えられないぜ。
そのまま一人目の男の後ろに回り、男の後頭部を思いっきり殴る。手が凄く痛くなったが、男はうまい具合に昏倒してくれた。
「…あと二人!」
矢が飛んでくる方へと走る。
正直言って、矢が飛ぶ中を走るのなんて怖いが、そうも言ってられない。
「ちっ!何やってんだ!」
もう一人の男が痺れを切らしたように、剣を抜いてこちらに来る。だが、その行動は自分達の目標と自分達を引き離す行動だった。
ぞれを確認した俺は一気に少女の元へと走る。途中に矢が腕を掠めたが、気にせず進む。
「ふぅ…、やっと着いた。大丈夫?」
「…あぅ…。少し、足を」
「足?…ちょっと見せてみて。あ、腫れてるね」
少女の足は赤く腫れ上がり、まともに走ることは出来ない状態に見えた。
「うーん、どうしようか…。とりあえず、隠れる!」
「はい?…キャッ!」
失礼だとは思ったが、お姫様抱っこ的な担ぎ方をし、木の陰へと隠れる。
「さーて、どうするかなー」
さっき殴った男が回復して追ってくるのも時間の問題だろう。そうなる前に逃げておきたい所だ。
「ねぇ、何か持ってない?こう、あいつらが持ってる物みたいなの」
とりあえずこの丸腰の状況はどうにかしないといけない。そのために少し聞いてみたのだが―――
「すいません…。そう言った物は持ってなくて。逃げるのに必死だったもので」
そんな簡単に出てくるわけが無い。
「ん?英雄様!腕から血が!」
「うん?あ、さっきの矢が当たったから……ちょっと待った。今、なんて?」
「あ!動かないでください!今治しますから!」
「いや、だから……」
「『トリート!』」
少女が何か呪文のような物を唱えると、血が出ていた所に光が灯り、次の瞬間にはすぐに治っていた。
「…えーっと…。あ、ありがとう…」
「はい!英雄様!」
何がなんだか分からない事ばかりだ。いきなり英雄様とか言われるし、腕はなんか簡単に治っちゃうし、次は何が来るんだろう?
「ねぇ、さっきので君の足は治らないの?」
俺の腕が治せるのだ。自分の足を治すぐらいわけないと思ったのだが―――
「あ、まだ未熟な者で、少し時間が掛かってしまうんです」
「そっか…。じゃ、どうしようか。まさか背負って走るわけにも行かないし…」
その望みが絶たれ、その次にどうしようかと考えている時に、最悪の事態が起こった。
「へへ。やっと見つけたぜ」
男達に、見つかった。
「手間取らせやがって…!」
「観念しな!」
男達が迫ってくる。
予想していた通り、先程昏倒させていた男も復活し、三対一の構図に戻ってしまった。
状況としては、二人が剣、一人が弓矢。こちらは丸腰。勝てる気がしない。
「くそっ!打つ手が無いってこういう事かよ!」
どうする事も出来ない。相手を殺す術でもなければ、余裕を持って逃げる事なんて出来ない。
「(殺す…か。出来るのか?)」
内心葛藤していた時、後ろから声が掛かった。
「英雄様!これを!」
振り向くと、少女の方から光る物が飛んでくる。
「おわっと!…剣?」
投げられたのは、白く輝く尖剣。無駄な装飾などは無く、ただ白く輝いている。
「(突っ込みたい所はたくさんあるが、ま、頑張るか。…でも、なんだ?この感じ。こう、懐かしい感じがする)」
俺は剣なんか持った事が無いはずだ。それなのに、この剣を持っているとひどく懐かしく、久しぶりな感じがする。
「…俺は、こいつを知っている…?」
先程までの疑問も、今の状況も忘れる。ただ手に持った剣の事についてしか考えられなくなる。
「………」
「得物を持ったからって、三対一だ!勝てるわけねぇよ!」
「英雄様!」
「…。光龍剣、一の太刀、光鎖!」
頭に浮かんだ通りに体を動かす。こういう時は任せるのも大事。ただ情報に流されて体を動かす。
ハッキリ言って、その選択はある意味間違いだ。今まであった自分の人格を一時的に壊し、その頭に流れる情報に体を任せるのだ。悪い意味で言えば、体を乗っ取られたと言っても過言ではない。
だが、俺はそれをした。一度殻に篭ってしまったのだ。目の前の殺しの現実から。
剣を大きく横に振る。すると、剣先から光の鎖のような物が伸び、男の一人を捕まえる。
「フッ!」
そのまま鎖ごと引っ張り、近くの木にぶつける。
グシャッ!
鈍く、響かない音を出し、絶命する。
「チッ!何だこいつ!」
「く、来るなぁ!」
仲間が死んだことにより、その恐怖が蘇り体が勝手に反応する。一人はそれを怒りに変え、もう一人は怯えに変わる。
「…光龍剣、三の太刀、風月」
剣を大きく円を描くように振るう。その中心からは、突風とも呼べるほどの風が起こり、二人の男を吹き飛ばす。
「グハッて、てめぇ…」
ザシュ
吹き飛んで行った男は、一人は当たり所が悪かったのか死んでいたが、一人は生きていた。
その男の首を一刀で落とし、剣に付いた血を掃う。
「終わった…な…」
そう呟いた瞬間、俺の意識は闇に呑まれていった。
どうも
ちなみに著者は雑食です
終わりもしないのに他の作品に首を突っ込んでいます
なので他の種類の作品を投稿するかも…