魔王よりも怖いもの
この村にやって来たのは1年前の事だ。
私リイナは元々は王都の教会で巫女として祈りを捧げていたりお祈りに来る人達の悩み相談に乗ったりと忙しくしていた。
しかし、数年前から魔族による侵攻が始まり教会は聖女様を優先する事を決断、その結果、聖女様に関する予算が大幅に増えた分、私に影響が出た。
つまり、人件費を削られ私は左遷されてしまったのだ。
聖女様は魔王や魔族という目に見える敵がいるけど巫女の仕事は正直理解されていない。
まぁ王都にいなくても出来る事は出来るけど理解されないのは寂しいし役立たずのレッテルを貼られたのは残念である。
そして、最近魔王が倒された、という話が私の耳に入ってきた。
これで世界は平和になりました、めでたしめでたしで終われば良いんだけどそう上手くいかない事を私は知っている。
今日も今日とて村のおじいちゃんおばあちゃんの話し相手をしていると珍しく教会の神官がやって来た。
「あら、お久しぶりです。 どうかされましたか?」
「……最近、王都の様子がおかしくなっている」
「と、言いますと?」
「昼間でも雲も出ていないのに薄暗いもやが出るようになった。 しかも日を追うごとに濃くなっている」
「あらま、聖女様はお祈りされているんですか?」
「報告はしているが今のところ被害が出ていないから対応はしていない、聖女様は凱旋パレードやらパーティーやらでお忙しいからな」
「それでなんで私の所に?」
「……もやが出る様になったのは君が出ていってからだ。 もしかして君のしていた事に何か関係しているのではないか、と個人的に思ったのだ」
なるほど、そういう事でしたか。
「もやの正体を私は知っています。 アレを封じ込めるのが私の仕事でしたので
「あのもやは一体なんなんだ?」
「アレはこの国が産んだ『闇』ですよ」
「闇、だって?」
「はい、この国は長い歴史の中、領土を拡げ発展させていきました。 ですが、その歴史には犠牲者がいる訳です」
「それは敵国の事か?」
「それだけではありません、土地を奪われた者や王族や貴族に虐げられてきた者、声なき弱き者達もいる訳です。 つまり、国が発展していく分、そういう者達の国に対する恨みや怒りが募っていく訳です。 それがあのモヤの正体です。 特に王家に対する恨みは凄まじい物があって王都に集まっているんです」
一つ一つは小さいけど塵も積もれば山となる、国が続けばだんだんと膨れ上がっていく。
私の仕事はその闇を祈りで出来るだけ抑え込み、更に不満を聞き解消する事。
「それでは君が戻れば……」
「いいえ、残念ながら抑える事は出来ても消す事は出来ません。なんせ人の想いなんですから、今の王都はコップに水がギリギリ溢れ出ていない状態です」
「では対処する事は出来ない、と……」
「はい、王都を変えるしか出来ませんし恨みの原因となっている人達が犠牲になるしかありません」
冷たいけどこれが現実だ。
そんな話をした数日後、王都に闇は溢れ出た。
一旦王都に戻った神官様は上司に報告して対策を練ろうとしたらしいが、その直後にお城から闇が溢れ出たらしい。
闇は王都を包み機能を停止させた。
そして、闇に包まれた者達は死んだ。
闇の中に潜んでいた『何か』が人々を喰った。
兵士達が戦ったが実体の持たない物に武器は使えない。
兵士達は闇を吸い込み倒れていった。
勇者や聖女様も対応したけど無駄だった。
力がある分、闇の影響が強かったらしく勇者様は全身の骨を折られて死んだ。
聖女様は全身がドロドロに溶けて死んだ。
王都の貴族や王族もみんな悲惨な最期を遂げた。
命からがらに逃げてきた神官様が私に言った。
「アレほどの闇を見た事は無かった……」
「それだけ人の恨みが魔王より強い、という事ですよ」
「これからどうすればいいのか……」
「反省すれば良いんですよ、教訓にして次の世代に繋げる事が大事です」
「そうだな……、驕るなかれ、か」
ただ、また闇は溢れ出す。
人が生きている限りは、ね。




