天使降臨
世界は魔獣と呼ばれる獣に滅ぼされた。
滅びた世界で育った少女・ノゾミは、いつも通り滅びた前の世界の遺物を漁っていた。
そんな中、滅びた世界を救うために遣わされた天使が降臨する。
世界は滅びた。
語りの長い者に言わせれば、世界が滅びたのではなく、人類の文明が崩壊したのだそうだ。
私が生まれたころにはすでに世界は滅んでいた。
だから、私にとって世界は滅んでない、いつも通り変わらぬ世界である。
「・・・」
いつも来るのはビルや家があるエリア。
ここには金属・・・運が良ければ服もある。
こういった場所を漁って、手に入れたものを、欲しい人と交渉して、食べ物に変える。
良いものが手に入らなければ、見つかるまで探す。
そうしないと生きていけない。
そんなつまらない毎日の繰り返しだ。
「人?」
こうした場で人に会うのは珍しい。
ましてや壁に埋まった羽の生えた人間は非常に貴重だ。
だがいくら基調でもこれは売れないだろう。
かつては、人を買う人もいたそうだが、今はそんな余裕のある人間はいない。
全人類毎日その日暮らしなのだ。
「・・・」
この世界は非情だ。
一瞬のミスがあっさりと命を奪い去る。
人を助ける。助けられた人が助けた人を殺して奪う。そんなことも日常茶飯事。
だからこの壁人間は放置が正解。
「・・・ああ、もう!」
それが正しいのは分かっているのに、さすがに壁に埋まった人間を放置するのは難しい。
羽を掴んで引っ張る。
「痛ったあああ!」
意外なほどあっさりと抜けたと思うと、壁人間が大きな声を出す。
「あ、バカ!静かに!」
思わずこちらも大きな声が出た。
この辺りは安全な場所ではない。
大きな声も危険に繋がるのだ。
「でもありがとう。」
「いや・・・」
見た目は小柄で華奢な少女、だが明らかに普通ではない。
背中には羽が生え、頭には輪っかのようなものが付いている。
さらに言えば、その服は皺ひとつなくキレイだ。
「なに者なの?」
この世界でキレイな服は超が付く貴重品だ。
少なくとも壁に埋まっているような女が持っていて良いものではない。
「ぼくは天使。」
「天使?」
「そう、神にこの世界を救うように命じられて、降臨した天使です。」
神、そういえば聞いたことがある。
そういって人から物をだまし取る者がいるとかなんとか。
「じゃあ、私はこの辺で。」
これ以上関わり合いになっても良いことはないだろう。
ここで彼女は切り捨てていく。
「待って!」
振り返ろうとしたら腕を掴まれた。
「だから大きな声出すなって!そんなに大きな声出したら魔獣が・・・」
背中に嫌な気配を感じる。
「そこに魔獣いるから危険だよ?」
「は、早く言えや・・・」
怖くて振り返れない。
魔獣、2メートルほどの大きさをした獣。
世界を滅ぼしたのは、この獣。
いつの間にか世界に現れた魔の獣、魔獣である。
「動かないで。」
そう言いながら少女は歩き出した。
「あなたはぼくを助けてくれた。だから、ぼくもそれに天使として・・・天使として!きっちり応えましょう。」
「応えるって・・・」
魔獣を倒すにはかなり強力な武器が必要だ。
弓矢や槍では無理。
銃の中でも旧時代の強力なライフルでないと倒せない。
「天よ、彼女を守りたまえ・・・」
彼女が胸の前で祈るように手を握ると、私の後ろへと、魔獣のいる方へと進んでいく。
「ま・・・」
まさか自分が犠牲になることで、こちらを逃がすとでも言うのだろうか?
そんなの・・・
「うっ・・・」
ダメだ。だが振り返ろうにも怖い。だからって振り向かないのは卑怯者だ。
全身から勇気を振り絞る。
「セイクリッド・・・ディフェエエエエエエエエエエエエンス!」
その先にいたのは、魔獣をぶん殴っている天使がいた。
「え?」
狼にもクマにも似た姿の魔獣は吹き飛ぶと、鉄筋と呼ばれるビルを貫通。
その姿を消した。
「・・・」
「これが天使による救済・・・祈りの力です。」
「いやパンチだよ!完全なる暴力だろ!」
「大きな声は危険です。」
「ぐっ・・・」
大きな声は魔獣を呼び寄せてしまう。
この辺りは魔獣もそれなりにいる地域だ。
大きな声を出すのは厳禁。
だが先ほどパンチで魔獣を壁に貫通させた際に、かなりの大きな音が立っている。
今更感はぬぐえない。
「あんたは一体なに者なの?」
「ぼくは天使・・・この世界を救済しにきた天使です。」
天使・・・さっきもそう言っていた。
「それで天使さん。」
天使がなんなのかよくわからないが、とりあえず天使さんとでも呼ぼう。
「はい。」
「・・・」
あれ?なにを聞けばいいんだろう?
「色々と混乱しているようですね。」
それは間違いない。
壁に埋まってる少女を助けたら、天使を名乗って、魔獣を殴り飛ばしたのだ。
混乱しない方が無理だ。
「まずあなたの名前は?」
「え?」
そう言えば名乗ってなかったか。
「ノゾミです。」
「ノゾミ、いい名前だね。」
「・・・どうも。」
そう言われても、なんと返せばよいのか分からない。
「それじゃノゾミ。」
「はい?」
「少しぼくに付き合ってくれませんか?」
「付き合う?」
「はい。この世界を救うために。」
笑顔で言う天使。
先ほどまでなら軽く笑い飛ばしていただろう。
だが・・・
「まあ少しなら。」
そういう私に天使は手を伸ばした。
どうしてそうしたのか?うまく説明は出来ない。
つまらない毎日に嫌気がさした?魔獣を倒した天使さんといた方が安全だと思った?それとも彼女が可愛かったからだろうか?
だが、私は機付けば手を握り返していた。
魔獣を吹き飛ばしたのと同じとは思えない小さなその手を握ると。天使は笑顔になった。
「よろしくね。」
「はあ・・・」
私は世界を救うために、少しの間天使に付き合うことになった。
「ところでなにか食べるものない?」
やっぱり別行動の方が良いかも知れない。




